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暇人の趣味の部屋一号室(長編小説)
共通ルート  『転校翌日』

〜通学路〜


「ふわぁ・・・」

「はや姉、眠そうだね」


慌しい一日が過ぎ、その翌朝。

昨日より少し早い時間に家を出てすぐ、はや姉が大きな欠伸をした。

俺がそう言うと、はや姉が恥ずかしそうに笑みをこぼす。


「あはは・・・ちょいやることが多くて、寝るのがおそなってな・・・」

「・・・やっぱり、俺も今日から家事を手伝うよ」

「ええって。私が翼君を預かっとるんやから、気にせんといて」


はや姉が、大丈夫や、と力こぶを作る仕草をした。

・・・全くもって頼りがいがない。

はぁ、と小さく溜息を吐く。


「気にしないわけないだろ。・・・とにかく、はや姉が嫌って言っても俺は家事をするから。いい?」

「・・・翼君・・・」


はや姉がほんのりと頬を染め、


「・・・ありがと」


ふ、と微笑みを浮かべた。

その表情に思わず、どきりと胸が高鳴る。


「あ、当たり前だろ。それくらい」

「ふふ・・・そうかもしれへんけど、、嬉しいもんは嬉しいんや」


う。

な、なんだろう・・・こんなはや姉初めて見るから、何かドキドキする――


「おはようございます。はやて、翼さん」

「おぉうっ!?」「おはよーさんや」


後ろから突然話しかけられて、ビクッと肩を震わせた。

気付かれないように深呼吸して、その声の主の方へと振り返る。

そこにいたのは、昨日の朝にあったカリムさんその人だった。


「すみません。驚かせてしまいましたか?」

「い、いえ。大丈夫です」


そういうと、カリムさんが良かった、と微笑む。

・・・しかし、朝からカリムさんに会えるとは今日は何かいいことありそうだ。


「それにしても、二日連続でカリムいつもより遅いやん。どないしたん?」

「いや、大した理由は無いのよ」


カリムさんが、うっすらと頬を染めて恥ずかしそうに苦笑する。

・・・これでも遅いとか、いつもは何時に行ってるんだろう?


「はやての事を待っていれば、翼さんとも会えるかな、って」

「・・・え、俺?」

「はい。昨日、また今度って言ってくれましたから。少しお話がしたいな、と思いまして」


ちら、と。

ご迷惑でしたか、と上目遣いで見つめる。

・・・やべ。嬉しすぎて顔がにやけそうなんだけど。

というか、その仕草は反則ですよカリムさん。


「そやったら今日は三人で行こうや。私もカリムと一緒なんて久しぶりやし」

「ふふ、そうね。お話は道すがらしましょう、翼さん?」

「は、はい」


こうして、俺は何気ない世間話をしつつ、はや姉とカリムさんと登校したのだった。



















〜教室〜


「ういーっす」

「おはよう。皆川くん」

「おはよう」


俺の両隣のナカジマとグリフィスに挨拶をし、かばんを机に掛けて椅子に座る。

今日は昨日よりも余裕をもって来たつもりだったのだが、予鈴の鳴る十分前だった。

ちなみに昨日できたもう一人の友人、内村はまだ来ていないらしい。


「悪いんだけど、今日も頼むわ」

「うん、いいよ」


グリフィスが快く頷く。

転校してきた俺はまだ教科書を貰っておらず、昨日は隣のグリフィスに見せて貰っていたのだ。


「今日はいいわグリフィス君。代わりに私が見せるから」

「ナカジマが?」

「そう。毎日だとグリフィス君も授業に集中できないでしょ?」

「僕は大丈夫だけど・・・それをいうなら、ギンガさんだって」

「いいのよ。転校生の面倒を見るのは、委員長の役目なんだから」


そう言いながら、ナカジマが自分の机を俺の机にくっつける。

・・・なんというか、コイツも内村に負けじ劣らず強引だよな。


「いやいや。我はなるべく他人の意志は尊重するようにしておるぞ?」

「うおっ!?」


突如目の前に現れた内村に、思わず数歩後ずさってしまう。


「どこから出てきたのよ貴方」

「企業秘密、と言っとこうかの。知られたら我のきゃらがぶれてしまうからの」


はっはっはっ!と高笑いをしながら、自分の席に戻っていく。

袴姿は相変わらずだ。

・・・本当によく分からない奴だな。

予鈴が鳴る音を聞きながら、俺はそんな事を思うのだった。


――ちなみに。


「えー。ここの方程式をこの方程式との関係からyに関してまとめて・・・」


結局授業中、俺はナカジマの教科書を見せて貰うことになったのだが。


「・・・(ちら)」

「・・・」


ナカジマを妙に意識してしまって、全くと言っていい程授業に集中できなかった。

俺だって一応年頃の男子なのだ。

ナカジマの女子っぽい良い香りに、時折胸が高鳴ってしまうのも仕方がないじゃないか。


「どうしたの?」

「あ、いや、なんでも」


・・・終始こんな感じであったのだ。

うん、今度からグリフィスに借りることにしよう・・・


















〜放課後〜

「と、いうわけで明後日の日曜日は部活動の一環で、町に行こうと思う。よいかの?いや、良いに決まっておるな」

「うん。お前は他人の話を聞く、ということを覚えような」


放課後。

部活の時間も終わりに近づいた頃、俺に向かって内村がそう言い放った。

ちなみに今日はナカジマとグリフィスは用事がある、ということで内村と俺の二人きりである。

まぁ、これといってやるが無かったので、オセロを延々とやっているのだが・・・一勝もできないでいた。


「すでにナカジマ女史とグリフィス殿には了承は得ておる。なら、翼殿も付き合うであろう?」

「いや、俺にも予定というものが・・・」

「あるのかの?」

「・・・・・・・・無いけど」

「で、あろう?」


清清しいドヤ顔である。

内村がパチン、と扇を閉じる。

コイツ、マジで何なんだ・・・?


「時刻は十時にこの学園の校門前。そこからバスに乗って、繁華街に行く予定じゃ」

「そこで何するんだよ」

「ふむ。特には決めとらん。何か気付いたことがあれば脳内に留めておく、かの?」

「・・・ぶっちゃけ遊びに行くだけだろ」

「ぶっちゃけそうじゃ」


はぁ、と小さく溜息を吐く。


「そうならそうと最初からそう言ってくれ。十時にっ校門だな?」

「うりむ。遅れたら罰金じゃ」


うむうむ、と満足げに頷く内村。

友達と遊びに行くなんて久しぶりだな・・・

口には出さなかったが、その日俺は少しばかり興奮を覚えながら、家路についたのだった。





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あきゅろす。
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