暇人の趣味の部屋一号室(長編小説)
共通ルート 『転校初日2』
〜昼休み〜
四時間目の授業の終了を告げる鐘が響き渡る。
ナカジマの号令に合わせて礼をした後、生徒達は思い思いに行動を始める。
教室から出て行き購買か学食へと向かうもの。
仲のよいグループで机を寄せ合い、弁当を食べるもの。
ちなみに俺は、朝はや姉に作って貰った弁当があるので教室で食べるつもりだ。
だが、やはりというかなんというか。
転校生、という事もあるのだろうが、まぁおそらくはこの目つきのせいで、孤立しつつあった。
まぁ、慣れているからどうとも思わないが。
「へぇ。皆川君てお弁当なのね。人は見かけによらない、っていうのは本当なのね」
感心したように隣のナカジマが、机に置いた弁当箱を覗き込む。
「ナカジマは弁当じゃないのか?」
「弁当よ?妹もいるから、一緒にね」
と、ナカジマが――
「よい、しょっと・・・」
「――は?」
どん、と机にとても質量をもった何かを置いた。
高さにして、それはナカジマの胸元くらいだ。
「それじゃ、お弁当食べましょうか皆川君」
「いやいやいや!何でお前が俺と飯食うことになってる、とか妹がいるんだ、とか俺に気を遣う、とか色々言いたいんだが、まずそれは何だ!?」
「?お弁当よ、私の。・・・あ。私、大食いなのよ」
えへへ、とナカジマが恥ずかしそうに笑う。
「いや、大食らいとかそんなチャチなもんじゃねえよ!?つーかこれ弁当かよ!お前満腹中枢おかしいんじゃねぇの!?」
「皆川君。早く食べないと昼休み終わっちゃうわよ?」
「無視かよ!?」
ナカジマはすでに弁当箱(?)を開けて、食べ始めている。
その速度はありえないくらい凄まじい。
人は見かけによらない・・・俺じゃなくてまさにお前の事を言いたいんだが。
「はっはっは!ナカジマ女史の食物摂取量は凄まじいからの。我も初めは腰を抜かしたわ」
「ぬお!?」
誰もいないと思っていた背後からの声に、慌てて振り返る。
そこには袴姿に扇を持った男子生徒と、
「あの、そこ僕の席なんだけど・・・」
手に購買で買ったのだろうパンを抱えて、困ったように立ち尽くす眼鏡の男子生徒の姿があった。
「む?よいではないか。我とグリフィス殿との仲ではないか!」
「そういう事じゃないと思うんだけどなぁ・・・」
グリフィスと呼ばれた男子生徒が小さく溜息を吐いて、近くの席に腰掛ける。
・・・なんとなくだけど、コイツ色々苦労してそうだな。
「えーと、お前は・・・?」
「む。これは失礼した。我の名は内村新。この教室における役割は、ナカジマ女史の補佐よ」
「つまり副委員長ってわけよ」
弁当を食べる手を休めることなく、そう言った。
・・・というか、いつの間にか三分の一ほど弁当が減っている。
はや!?どんな速度で食ってんだ!?
「僕はグリフィス・ロウラン。呼び方はどうでも構わないよ」
「それじゃあグリフィスで」
グリフィスが、ああ、と頷く。
内村はどこから取り出したのか、弁当を開けて『美味!』とか言っていた。
・・・ちなみにロー○ンの弁当である。
グリフィスも買ってきたパンの袋を開けて食べ始める。
(そーいやこいつらは何で俺にこんなに近づいて来るんだ・・・?)
少なくともこいつら以外は、俺に近寄ってこようとすらしない。
「なに、何も不思議ではない」
不意に、俺の心を読むかのように内村が喋りだす。
俺と目があうと、ふ、と笑みを浮かべ――
「少なくとも我は君と学友になりたい、そう思っているのだよ」
パン、と扇を閉めた。
「少なくとも、っていうのは心外ね。私だってそうお思ってるわ。委員長、じゃなくて私自身が、ね」
「僕もそうさ。僕は外見で人を判断するほど、素直じゃない」
それに同調するように、ナカジマとグリフィスもさらっとそう言った。
・・・ナカジマは手を休めることなく。
「・・・そうか」
俺はふい、と全員から顔を逸らして弁当を開ける。
なんというか、こう・・・身体がむずむずするのだ。
照れくさい、というのだろうか?
「ほう。照れておるのか?」
「な!?べ、別にそんなんじゃねーよ!」
にやにやと、内村が俺を見つめる。
コイツマジで心読めるんじゃねーだろうな・・・?
級友のよく分からないスペックの高さに驚きつつ、昼休みは過ぎていった。
〜放課後〜
「さ、よく来たな級友よ。我らはお主を歓迎するぞ」
「・・・いや、全く状況が掴めないんだが」
「安心して。私とグリフィス君もそうだったから」
あっはっはっ、と高笑いする内村とは反対に、ナカジマとグリフィスが疲れたように溜息を吐いた。
・・・苦労人はグリフィスだけじゃなかったんだな。
内村と関わった奴は全員苦労する運命になるらしい。
「で、ここはどこだ?」
「うむ、よくぞ聞いてくれた。ここは我が創設した新聞部。そしてナカジマ女史とグリフィス殿はわが新聞部の栄えある部員というわけだ」
「無理やり連れてこられただけなんだけどね・・・」
フッ、とグリフィスが笑みをこぼす。
だが、内村にそれを気にした様子はない。
「そこで翼殿にも是が非にでも我が部に入って頂きたいのだよ。というか入るのじゃ」
「んなこと勝手に決めんなよ!!」
だが、俺の抗議の声は内村には届かず、内村はパシン、と扇を閉じた。
・・・何となく分かったけど、内村が話を纏めるときにこの動作をするのが癖らしい。
「まぁ、本入部は置いておいて。慣れるまではここにおればいいのではないかの?ここは部活に入ることが義務付けられておるからの」
「・・・む」
強引に連れてきたのかと思ったけど、案外俺の事を心配してくれていたらしい。
・・・少し見直したかも。
「まぁ、そっちは建前じゃ!実は部員を後一人増やさないと部活の存続ができなのいのじゃ。いやーよかったのう!」
そう言って、はっはっはっ!と高笑いをする。
・・・前言撤回。やっぱコイツはコイツだ。
はぁ、と俺は小さく溜息を吐いた。
〜家路〜
「あはは・・・早速内村くんの餌食になったんか」
俺の話を聞いて、はや姉は苦笑いをこぼす。
ちなみに、部活が終了した後はや姉を校門で待ち、俺は今家路についていた。
「あれ?はや姉、内村のこと知ってるの?」
「知っとるも何も二年の内村っちゅーたら、学園の大スポンサーの内村グループ総督、内村源蔵のお孫さんや」
「・・・え。マジで?」
「マジや」
内村グループと言えば、電化製品や自動車、運輸、食料、貿易などなど様々な方面に事業を展開している超巨大財閥で、確か去年の年収は世界で第四位だったはずだ。
・・・俺、もしかしてすげー奴と絡んでたのか?
「・・・ん?でもなんでわざわざこの学園なんだ?正直言って、もっと高い所も余裕で行けただろ」
「うん、そやね。内村くん、勉強はぶっちぎりでトップ。運動も体育祭をやったらヒーロー。まさに完璧超人や。・・・いや、そう考えるとほんま何でやろな?」
う〜ん、とはや姉が腕を組んで考え込む。
――ふと、内村の高笑いする姿を思い出す。
「・・・謎だ」
俺はぼそっ、とそう呟くのだった。
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