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暇人の趣味の部屋一号室(長編小説)
共通ルート 『転校初日1』
〜校門前〜


「なぁ、はや姉?何で怒ってんの?」

「知らへん。自分の胸に聞いてみたらどうや?」


と、先ほどハリセンで引っぱたかれてから、はや姉に何度話しかけても適当にあしらわれていた。

それどころか目も合わせてくれない。

・・・俺、はや姉を怒らせること、したかなぁ?


「・・・・・・着いたで」


ぶすっとした声色で、はや姉がそう言った。

気づけば校門と思われるものの前に俺達はいた。

周りには数十人の制服、私服姿の生徒達がその門を通り過ぎて行っている。

そしてその奥には巨大な校舎が三つ、さらに奥にはその三つを合わせても適わないほど巨大な校舎があった。


「こりゃすげぇ・・・」

「ふふ、そうですか?」


思わず漏れてしまった言葉に、はや姉とは違う声で答えが返ってきた。


「自分の母校を改めて褒められると悪い気はしませんね」

「えっと・・・」


声のほうに振り返れば、見たことも無いほど美人な人が微笑を浮かべていた。

・・・不覚にも一瞬、見とれてしまった。


「カリムやないか。今日はえらい遅いなぁ」

「恥ずかしいけど、ちょっと寝坊しちゃって・・・」


あはは、と恥ずかしそうにカリム、と呼ばれた女の人が苦笑いを浮かべる。

・・・むぅ。こんな綺麗な人はじめて見たな・・・

つーか実際いるのかこんな人・・・


「それでそちらは・・・?」
 

カリムさんの視線が、はや姉から俺へと移る。

ドキリ、と胸が高鳴った・・・ような気がした。


「ああ。私の従兄弟や。皆川翼っちゅーてな――」


自然と、振り返ったはや姉と目が合った。

はや姉はしまったとばかりに、これまた自然に俺から目を逸らす。

むぅ・・・もうそろそろ許してくれたっていいんじゃないかな?

・・・何で怒ってんのか知らないけど。


「まぁ、見ての通りここの学園に通うことになったんよ。ちなみに私の家に居候中」

「従兄弟・・・はやてに従兄弟がいるなんて知らなかったわ」

「うん、まぁ私も覚えてなかったしなぁ・・・」


はや姉と会ったことがあるのは、俺が生まれたばかりの時に一度だけ、らしい。

故にお互いに相手の事を全く覚えていなかったのだ。


「あらあら・・・えっと、翼さん?」

「は、はいっ!?」


突然カリムさんに名前を呼ばれ、思わず声が上ずってしまう。

初対面の相手に、まさかいきなり名前を呼ばれるとは思ってなかったのだ。


「改めまして。星雲大学三年生カリム・グラシアです。どうぞよろしくお願いしますね」


ぺこり、と頭を小さく下げる動作につられ、思わず俺もお辞儀をしてしまう。

横で、はや姉小さく笑いをこぼした。


「・・・ふふ。なんだか弟ができたみたい」

「せやろ?」


カリムさんとはや姉が俺を見ながら微笑をこぼす。

いつの間にか、はや姉の怒りも収まったようだ。


「それはそうと、はやて」

「ん、なんや?」

「高等部はもうそろそろ予鈴がなる頃じゃない?」


カリムさんそう言うや否や、校門にまで予鈴が鳴り響いた。


「ちょお!?なんでもうちょい早く言ってくれへんの!?」

「あら?私の登校が遅い、って言ったのは、はやてでしょう?」

「う、それはそやけど・・・」


はや姉が何か言いたげな表情を浮かべる。

だが、今はそんな時間は俺達には残されていない。


「はや姉、取り合えず早く行かないと!転校初日で遅刻とかマジでシャレにならねぇ!」

「そうよはやて。急がないと」

「ぐぬぬ・・・行くで翼君!」


はや姉が、俺の手を引っ張って校舎に向かって駆け出した。

俺はなんとかはや姉に付いて行きながら、カリムさんのほうに振り返る。


「あ、あの!またあとで!」

「はい。また後で」


カリムさんの微笑を後にし、俺達は校舎の中へと消えていった。




















〜教室〜

「と、いうわけで今日からこのクラスに編入することになった、皆川翼君だ」

「皆川翼です。よろしくお願いします」


小さくお辞儀をしてから、再び顔を上げると。


『・・・・』


そこには俺を見つめる無言のプレッシャーが。

転校生を見つめる視線――いや、それとはまた違う視線が俺を見つめていた。

それは普通の転校生に向けるものではなく――そして、俺にとっては向けられている目だ。

言ってしまえば――畏怖だ。

昔からそうだ。

この外見、というよりは親譲りの目つきの悪さのせいだ。

おかげで色々と面倒事にも巻き込まれてきた。


(ここでも同じ、か・・・)


ふ、と自嘲気味に、誰にも気付かれないように笑みをこぼした。


「――ふむ。それで翼殿の席はいかが致すか?」


妙に通った声が、沈黙した空気を切り裂く。

声のする方へと目を向けると、そこには一際目立つ男子生徒の姿が。

指定の制服の着用を義務付けられているはずなのだが、その男子生徒は袴を着用しているのだ。

パシン、と片手で扇を閉じる。


「のう、翼殿?お主も立ち続けるのは、流石に疲れる、であろう?」

「お、おう・・・?」


男子生徒の妙な口調に、思わず俺は頷いてしまう。

男子生徒は俺の答えに、うむと満足げに頷く。


「ではそのように話を進めようではないか。んー・・・そうよの。我としてはナカジマ女史の隣などが適任かと思うが」

「え、私?」


その男子生徒の右隣の女子生徒が、自分に話が来るとは思わなかったのか、少し驚いたような声を出した。

というか、今思ったが俺どころか先生、いやむしろクラス全体が、あの男子生徒に置き去りにされてしまっている気がする。


「うむ。そちはこの教室の長であろう?然れば、迷える級友を導くのもそちの仕事。我はそう思い至るのだが」

「・・・なるほど。それもそうね」


女子生徒がうん、と頷いて、こちらに振り返る。


「と、いうことですので、いいですか先生」

「ん。ナカジマの方からそう言ってくれるとは願ったりだ。よろしく頼む」


はい、と女子生徒が頷く。

一方男子生徒は、何かをやり遂げたような顔で、うんうんと一人で頷いていた。

一体なんなんだアイツ・・・?

ナカジマという女性徒の隣の席に向かう俺は、ソイツを横目で見ながらそんなことを考えていた。





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