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暇人の趣味の部屋一号室(長編小説)
共通ルート 『始まりの朝』
〜???〜


pipipi、pipipi――

目覚ましの音が、朝だ、起きないと遅刻するぞ、とばかりに大音量で鳴り響く。


「・・・・・・」


その大音量が響く部屋に布団に包まる人物が一人。

目覚ましの大音量にもかかわらず、その人物はぴくりとも動かない。


「・・・ぐー」


というか、熟睡しすぎていて全く耳に入ってこないようだ。

時刻は7時。

そろそろ起きなければ、ここからの距離的にほんとにマズイ。

――こんこん。


『翼君起きとるー?』


ドアの向こうから少女の声が聞こえてくる。

が、この大音量で少女の声が聞こえるわけもない。


『・・・入るよ?』


少女がドアを開くと、目覚ましの大音量が廊下に鳴り響き、思わず少女が顔をしかめる。

目的の人物を見つけると、少女は、はぁ、と小さく溜息を吐いた。

とりあえず大音量の目覚ましを止め、ベットに近づき――


「はよ・・・起きぃ!」


くるまってる布団を、強引に力技で引き剥がす。

すると、ベーゴマが射出されるときのように、中に埋まっていた人物は布団から射出され、顔面からフローリングの床へとダイブした。


「ごぶっ!?」


ガン、と鈍い音が鳴り響き、布団の中の人物――少年が、がばっと起き上がった。


「な、なにすんだゴラッ!?」

「翼君がはよ起きないのが悪い」


赤くなった鼻を押さえながら抗議する少年の言葉を、少女はどうと思った風もなくさらっと受け流した。


「起こし方ってもんがあんだろテメェ!」

「誰がテメェ、や!」


スパーン、と、少女が自分の履いていたスリッパで少年の頭を引っぱたいた。

クリティカルヒットしたのか、『おおおお・・・!』と少年が頭を押さえながらうずくまる。


「まったく。私は翼君よりは、年上なんやからもう少し敬意を払ってもらわなあかんよ?」

「くっ・・・この・・・!」

「――わかった?」

「・・・はい」


スリッパを持つ手を高く上げながらにっこりと微笑む少女に、少年は諦めたようにうなずいた。

少女の名前は八神はやて、そして少年の名は皆川翼。

これが、一つ屋根の下で暮らす男女の明らかな力関係であった。



























〜通学路〜


「いつつ・・・」


今朝方不意打ちに、強かに打ちつけた鼻をさする。

赤みはほぼ無くなっているが、ずきずきと痛む。


「あ、あはは・・・ごめんなぁ?まさかあんな漫画みたいに転がってくとは思わんくて・・・」


この痛みの元凶である、隣にいるはや姉は、ばつが悪そうに苦笑いを浮かべている。

ちなみに今は、はや姉に連れられて、転校先である学校へと向かっている途中である。


「しかもその後、俺の頭を思いっきりひっぱたきやがって・・・」

「そ、その・・・関西人の血が騒いで、つい悪ノリを・・・」

「・・・」

「・・・ごめんなさい」


ジト目ではや姉を見つめていると、はや姉は潔く頭を下げた。

・・・まぁ、寝坊しかけてた俺も悪いんだが。


「でさ。俺、通う学校の名前も知らないんだけど、どういう所?」

「名前すら知らへんの!?」

「いやー、家帰ったら置手紙があってさ。『海外に仕事行くからアンタは転校、んでもって八神さん家に居候しなさい』っていって、はや姉の住所が書いてあったから」

「・・・なんていうか相変わらずやな、翼君のご両親」


まったくだ。

親じゃなかったら、絶対に関わりたくない人種だ。


「まぁええわ。翼君が通うことになるのは『星雲学園』。初等部から大学まで揃っとる超大型の学園や。学園全体では一万人以上おるはずや」

「・・・わーお」


想像以上の規模に、言葉を失った。

なんていうか・・・人が多すぎて気持ち悪い。


「・・・帰っていい?」

「何でや!?まだ行ってもおらんやろ!」

「いや、まじ、人が多いとか、気持ち悪い」

「いやいやいやいや!?別に一箇所にいるわけやないからね!?敷地広いし、校舎も別々やから!」

「うーん・・・」

「どんだけ!?どんだけ人ごみ嫌いなん!?」

「はや姉のこと、くらい?」

「カルチャーショック!!」


よろよろ、と道端の塀に肩を預ける形で寄りかかる。

相当ショックだったらしく、魂が口から抜けかけている。

流石は関西人。

オーバー
リアクションにツッコミと文句の言いようが無い。


「ううっ・・・めっちゃショックや。翼君に嫌われとるなんて・・・」


はや姉が何かを呟き、大きな溜息を吐いた。

・・・というか、ガチで落ち込んでないかこれ?

えーっと・・・


「あの、はや姉?」

「な、なんや・・・?」


俺の声に、はや姉が振り返る。

目じりにはうっすらと涙が浮かんでいた。

はや姉、そんなに・・・

罪悪感にちくりと胸が痛む。


「嫌いってのは冗談だよはや姉。はや姉を困らせようと思ってさ」

「・・・もう。私を困らせて何がたのし――」

「本当はむしろ好きな方かなー」

「・・・え?い、いや、その、ええっ!?」


ぼっ、とはや姉の顔が真っ赤に染まった。

目はあちらこちらへと忙しなく動いている。


「いや、あ、そ、その・・・ほんまに?」

「ああ。というより、別に嫌いになる要素とか無いからな。ちょっとドキドキしてるくらいだし」

「ふえ!?そ、それって・・・」

「ああ」


そうおそらく俺は――


「まだ行った事もない学校なのに、嫌いになる要素なんてないし、そりゃ初めて行くんだからドキドキするよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」


はや姉がすごい間を置いて、情けない声を出した。

おそらくはや姉は、自分の通ってる場所を本当に好きで、俺にも嫌われたくなかったんだろう。

だから、あんなにも落ち込んでいたのだ。きっと。


「だから大丈夫だよ、はや姉。・・・はや、姉?」

「・・・・・・・・・・・・」


はや姉はいつの間にか俯いていて、俺の呼びかけに応じない。

ただ、なぜかその肩はプルプルと震えていた。


「・・・・かい」

「ん?」


はや姉がボソッと何か呟いたが聞き取れなかった。

俺がはや姉に、何て言ったのか聞こうとすると、


「好きってそっちのことかーーーいっ!!」

「へぶっ!?」


突然、どこからか取り出したのかハリセンで思い切り頭を引っぱたかれた。

そりゃあもう鬼のような形相に。

な、何故に・・・?






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あきゅろす。
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