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夢小説
お前のことが好きなんだ
[]


どうしてだろ。


人は恋をすると綺麗になるらしいのに。



今のあたしは多分醜い。








既に時計は5時を過ぎているだろう。


学校に残っている生徒は殆どおらず、部活か先生ぐらいだ。


教室には赤い夕陽が照らされて、教室一帯が薄赤に染まる。


窓の外からは笑い声や話し声、怒鳴り声が聞こえる。


部活の生徒達だ。


美加は窓の外の一点をずっと眺めながら溜め息をつく。


そこは野球部の人達が練習している場所。


そこの期待の新人、榛名元希。


美加の想い人でもあり、よく相談にのってくる奴。


ただ単に席が近く、勝手に話しかけてくるようなものだけど。


表では面倒くさそうな態度をとっているけど、内心は話しが出来る事がすごく嬉しい。


大抵は野球部のメンバー(特に秋丸君)の愚痴だとか、家で何してんの?とか質問されたりとか。


榛名はあまり彼女とか女とかそういうのは得意じゃないらしく、女のあたしとこんなに気軽に喋ったのも初めてだと言う。


それはそれで嬉しいけど、それって女に見られていないんじゃ…?と何度も疑問が浮かんだが、あえてスルー


でも、最近の榛名の話しに出てくるのは愚痴ではなく…



「おい、何してんだよ名前」


自分の名前を呼ばれ、振り返った名前の視界に入るのは


『榛名…何でここに?野球部は?』


「あ?もうとっくに野球部終わってるっつーの」


『あ…そうなんだ』


「お前こそ何でここにいんの?」


既に制服に着替えて帰り支度をしながら聞いてくる榛名。


『まぁ…何となくかな、榛名は?』


素っ気なく返事を返し、今度は名前が榛名に質問をする。


「俺は忘れ物」


そう言われて少しガッカリした。


嘘でもいいから「お前が窓から見えたんだよ」とか言われてみたかったな。


夢のまた夢だけど。


そう思いながら名前は溜息を吐いた。



「つーかさ、いろいろ大変だったんだけど」


いきなり榛名から言われ、何の事だ?と疑問が浮かんだが、すぐに解決した。


『あぁ、宮下先輩か…どうだったの?先輩とは』


「やっぱさ、宮下先輩、大河先輩のこと今も健全で好きらしい」


そう言って苦笑いを浮かべる榛名。


『そっか…大丈夫だよ、頑張りなよ?榛名』


「あぁ、サンキュー!名前はいねぇの?好きな奴」



『え…』


唐突に聞かれ、戸惑う名前。


「そしたら俺もお前に協力出来んじゃん」


榛名は何気なく言ったのだろうが、名前の頭にあった何かがその拍子にプツンと切れた。



『…いいじゃん別に誰でも。榛名に関係ないでしょ?榛名が知る理由もないし、教える理由もない。知ってどうなるの?榛名にあたしの恋がどうか出来るとでも思ってんの?…出来ないよね、わかってるよそんな事……もういいや、ごめん…』


そう言い、急いで教室を出て行った。


後ろから榛名の声が聞こえたけど、気にせず走った。



夢中で走った。



言わなくてもいいことまで言ってしまった自分が憎らしかった。



とにかく何もかも忘れたくて走った。



気づいたら家に着いていて、勢い良く自分のベッドへと身を放り投げた。



それから、榛名への想いが溢れるように、止めどなく涙が溢れ、零れ落ちた。



榛名と話せられるなら何だって耐えようと思った。



だけど


『こんなの…酷いよ、神様』


その夜、あたしは目が赤く腫れ上がっても気にせずに泣き続けた。


泣いて泣いて泣いて、いっそ記憶喪失にでもなりたかった。






翌朝、昨日の事がハッキリと頭に思い出せるので残念ながら記憶喪失ではなかった。


予想通り目が赤く腫れており、あまりにも酷かったから学校を休みたかったがお母さんがそれを許してはくれなかった。


しょうがなく身支度をし、家を出た。



学校に着くまで名前はずっと考え込んでいた。


会ったら何て言おうか


今まで通り友達に戻れるか


軽蔑されていないだろうか


気まずくならないか


しばらく考えながら名前は歩いていたが、気づいたら学校に着いており、自分のクラスの目の前にいた。


『榛名…』


その名前を口にし、名前はクラスの中に入っていった。


『おはよう!』


いつも通り明るく振るまえてる、大丈夫。


「あ、名前おはよ〜…って!あんたどうしたのよその目は!もしかしてあんた…」


親友の唯子に肩をガシッと掴まれながら言われる。


彼女はあたしの恋についてよく知っているからこの目を見てピンときたようだ。


「ちょっとおいで」


『え!?あ、ちょ、唯子!』


半ば強制的に屋上に引きずり連れてかれた。



「その目…榛名君でしょ?どうしたのよ…昨日電話しても繋がらなかったし」


『…うん…実はさ、』



唯子に昨日あったことを全て話した。


途中、あまりにも耐えられなくて泣き出してしまった時、唯子は黙って聞きながらあたしの頭を撫で続けてくれた。



「そっか…大変だったね」


『うん…』


「でもまず慰めることよりもあんたの顔をどうにかしないとね」


え?と思いながら呆然としていると唯子に鏡を手渡された


鏡を覗きこむと、すごく…いや、とても言葉では表せないくらい酷い顔だった。


「保健室、行く?」


『うん』


そう言って唯子にタオルを貸してもらい、目を少し隠しながら保健室に行った。



事情を話すと保健室の先生は


「辛かったわね…この時期の女の子の恋は不安定だから、好きなだけ休むといいわ。それと早く目の腫れがひくように氷を用意しておいてあげる」


優しく笑いながら、先生はあたしをベッドに寝かせてくれた。


「担任には言っとくから安心しといて!鞄も持ってくよ」


そして唯子はクラスに戻っていった。


先生も今から外を出るらしく、保健室を開けるからよろしくと言われた。


そしてあたし一人だけになってしまった。


昨日の夜はぐっすり眠れなかったからなぁ…たくさん寝ちゃおう。


そう思いながら美加はゆっくりと瞼を閉じた。






「…名前、名前」


ん…?何?あたしの眠りを妨げるのは…


「ちょっと名前起きなよ!」


うーん…うるさいばかぁ


「誰がバカだって!?さっさと起きろバカ名前!!!」


『ふぇ!?』


「ったくもー、今お昼よ?寝すぎにも程があるわ」


どうやらあたしの眠りを邪魔したのは唯子だった。


しかも今お昼って…どんだけあたし寝てるんだよ…


「おぉ、目、もう腫れがひいたじゃん!」


ほれ、と鏡を手渡されて見たら、本当に腫れがひいていた。


『よかった…これで人前で歩ける』


「ほら、バカ言ってないで!一応鞄持ってきたけど…お昼食べれる?」


女神様がここにいる…と思いながら鞄からお弁当をとり、屋上に行った。


行く途中、榛名が購買部にいた。


目が合ったが知らん顔して颯爽と屋上に行った。



その後、唯子とお弁当を食べてチャイムが鳴りそうだったから急いでクラスに戻った。


あたしの隣の席には…榛名がいる。

いつもは寝てるくせして教科書もノートも用意していないのに、今日は起きてるし珍しく教科書とノートを用意している。


あたしが席に着くと榛名はあたしに気づいたようで


「あっ…」


と、いつもは言わないようなしおらしい声を出してあたふたしていた。


ちょうどあたしの席は窓側だったから、ずっと窓の外を見ていた。


「なぁ名前…」


あたしはチラッと榛名の方を見て、また窓の外を見た。



「…名前」


『………』


「なぁ名前…」


『………』


話しかけてくる榛名をことごとくスルーしているあたしは本当最低な女だな…と思いながらまたもや名前を呼ばれてもスルーしているあたし。


「おいってば…」


『………』


最後に榛名に呼ばれたあたしがそれに無視してからほんの数十秒、ただそれだけなのに榛名に呼ばれないだけで不思議と自己嫌悪になる。


あの時返事をしていればな…とか思うけど、これはあたしの為でもあり榛名の為でもある。


これで榛名に嫌われた方がこっちも気がスッと楽になる。


むしろ早く嫌いになってほしい。


そしてあたしのことを見もしないで最悪な女だと嫌ってほしい。



そう思いながら窓の外を見ていると、隣からうぅ…と言う声に混じって鼻を啜る音が聞こえてきた。


どうしたのかと隣をチラッと見たら、榛名が涙を目に溜めて泣くのを我慢していた。


『え、ちょ!〜っ、先生!榛名君が体調悪いらしいので保健室に連れて行きます!…ほら、行くよ』


そう言ってあたしは榛名を屋上まで連れて行った。


生憎すぐに榛名を後ろに隠したからみんなには泣いていることはバレなかっただろう…


その前に…どうしよう


未だ屋上の隅っこで体育座りをして俯いている榛名の隣に少しスペースを空けて座った。


『…ごめん、やりすぎた』


と謝罪の言葉を言う。


「………」


榛名から返事は返ってこない。



『てか何であたしに無視されただけで泣いちゃうのよ…そういうのは宮下先輩に無視されてからにしなよね』


そう言いながらもやっぱり榛名の前では強がっちゃうあたし。


「…俺だって何で泣いたのかわかんねーよ、お前の前で恥ずかしい…」


蚊の鳴くような声で言った榛名に何?って聞いたらなんでもねーよ!って逆切れされた。


「…俺、お前に無視されてるだけなのに胸がすっげぇ痛くて張り裂けそうだったんだよ…」


そんな言葉を言われたら…封じ込めていたあたしの榛名への気持ちがまた…出てきちゃうじゃん。


なんとかそうならないように、あたしは必死で榛名の言葉の言い訳を探す。


『え〜っと…それはあれじゃない?相談友達がいなくなるのは寂しいから…みたいな感じの気持ちじゃないかな?きっとそうだよ、あはは…ははは……』


何か無理して言い訳作ってる自分がバカらしく思えてきた。



『ハァ…』


自然と溜息が出てしまう。


そんなあたしを尻目に榛名が


「俺、お前に好きな人がいるって昨日初めて知った。そんでその恋がすっげぇ辛い恋っていうのも昨日知った」


なんて爆弾発言を言ってきたことに驚いた。


『え…何、いきなり?』


「俺、なのにお前に無責任に協力するなんて言って悪かった…ごめん…」


そうだ、あたしは榛名の…こういう素直なところに惚れたんだ。


先輩より先に、あたしの方が見つけたんだ。



『もういいよ…あたしの恋、もう終わったからさ…失恋しちゃったんだよ、昨日ね』


そう言って少し苦笑いをする。


「…俺、すっげぇイライラしたんだ…お前に好きな人がいるってのを知って…それが辛い恋だってのを知って…俺なら、お前を幸せにできる自信があるって…そう思ったんだ」


『うん…ん?あれ?ん?』


あれ?なんか榛名の日本語おかしくない?


それってつまりさ、あたしのこと好きだからつきあおう!って言ってるようなもんだよね?あれ?あたしの解釈がおかしいのかなぁ…



いやいや、やっぱりあたしはあってるよ!


おかしいのは榛名だ、うん。


だって榛名は宮下先輩のことが好きなんでしょ?


うん、これはやっぱりちょっと違う意味でのことだね!



『あれだよ、それって一種の束縛心みたいな感じで相談友達のあたしを取られるのが嫌だったから咄嗟に出た感情だよ!だから榛名は何も気にしなくても大丈夫だって!宮下先輩のことだけ思ってれば大丈夫だから…ね?』


「…大丈夫じゃねえじゃん…名前、お前どうして泣いてるんだよ」



『えっ…』



気づくとあたしは泣いていた。


拭っても拭っても次々と零れ落ちる涙。


『あれっ、おかしいな…なんでだろう…あ!きっと一昨日玉葱切ったからその時の涙が堪ってて…それで…』


「っ、もういいから…」


視界が真っ暗になったと思ったら、榛名があたしを抱きしめていた。


『はる、な…?』


「もういいから…無理して笑ったり変に言い訳つけて誤摩化したりすんな…」


『だって…榛名が、っうぅ…』


それから榛名の胸で思いっきり泣いた。


好きな人を諦めるのに好きな人の胸で泣くって…と思ったけど、今日だけは特別。






『はぁー何かすっごいスッキリした…ありがとう、榛名』


「…あんま1人で抱え込むなよ?」


『…じゃあ早速、あたしの愚痴聞いてくれる?』


「おう!どんとこい!!」


『あたしの好きな人ね、1つ上の先輩が好きなんだ』


「ふ〜ん」


『そいつも野球部なんだけどさ…あたしとそいつ、仲が良くてね?いつもいつも先輩のことばっかり話してくるのよ…あたしの気も知らないでさ』


「野球部ってことは、俺も知ってるやつだよな?」


『うん、榛名がよく知ってる人だと思うよ。何せ、授業中教科書もノートも開かずに熟睡している宮下先輩大好きなバカだからね』


「へ〜………え…?」


一瞬榛名がフリーズしたような気がしたのはあたしだけかな?



『さてと!もうすぐチャイム鳴るし教室戻るよ。今日は5時間目で終わりだしその後は部活でしょ?頑張りなよー』


よいしょっと立とうとした時にグイッと腕を引っ張られる。


その反動であたしの体は榛名の腕にすっぽり収まる。


見上げるとそこには顔を真っ赤にした榛名がいて


「俺、お前の言葉信じてもいいんだよな?嘘じゃねぇよな?」


そんな榛名が可愛くて


『さあね、どうだろう?』


なんてちょっと意地悪してみる。


「なっ/// 嘘だったら許さねぇからな!」


なんて言ってくるから


『榛名、宮下先輩はいいの?』


ちょっと意地悪してみた。



「あぁ…実をいうと、もうとっくに宮下先輩のこと諦めてたんだ」



『え…ちょ、何それ聞いてない、嘘…えええええええええ!?!?』


「いや、だって言ってねぇもん」


えへへ、と頭をポリポリ掻く榛名はかわいかったけど、今の言葉は聞き捨てならん!


『何で言ってくれなかったのよ!あたしずっと…』


「いや…だって名前ずっと応援してくれてただろ?それで言いにくくて…」


『なにそれ…あたしバカじゃん…ただのバカじゃん…』


「いや、でもそれのお陰で俺達両想いってわかったしもういいんじゃね?」


『うるさいバカ!もう怒った…金輪際、榛名と一切話ししないから!あたしに話しかけてきたらただじゃすまないからね!』


そう言って怒りながら階段を下りていく名前。



俺は1人、屋上に残っていた。


実は俺、とうの昔に先輩ではなく、名前のことが好きになっていたんだよな。


彼氏のいる先輩のことが好きな俺に、まるで自分のように応援してくれる名前のことを次第に意識し始めて…そして気持ちは完全に名前の方に向いた時


まだアイツ本人に「宮下先輩を諦めた」って言いにくくて、今の今までずっと宮下先輩が好きだと言う偽りのことを名前に言ってたんだよな…なんで俺ちゃんと言わなかったんだろ。



そりゃあやっぱ名前も怒るよな…あいつ朝、すっげぇ目腫れてたし…


昨日泣いたんだろうな…


俺の為にか?…俺の為にアイツ目が腫れるまで…


やべぇ…なんかすっげぇ嬉しくなってきた///


とにかく…名前のところに言ってまずは言わなくちゃなんねぇことがあるな。


よし!


榛名は屋上の階段を降り、急いで教室に向かった。



「ハァハァ…」


「こら榛名!遅刻じゃぞ!早く席に着かんかい、HRが出来んじゃろ!」


「あぁ…はい」


そう言って渋々席に着く榛名。


隣を見ると、既に名前は席に着いてさっきと同じように窓の外を見ていた。


そんな名前の耳元に小声で

「おい名前、お前一生無視とか止めろよな。
本当まじで悪かった…

それと言い忘れてたことがあんだけどよ、俺さ…」








お前のことが好きなんだ



(〜っ!?///)
(返事は?)
(っ、あたしも元希が好きだよ!)
(んなっ、つかいきなり名前呼びは反則だろ…///)
(今まであたしを泣かせた分、ちゃんと幸せにしてよね?)
(こいつ何でこんなにも可愛いんだろう///)



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