「よし、いい球だ榛名!もう1回!」
「おう!」
やっぱり元希…すごいなぁ。
あたしにすごいキャッチャーの才能があったら…
そしたら秋丸の代わりにあたしが元希の速くて重い球とってあげられるのに。
あたしにすごいピッチャーの才能があったら…
そしたら少しでも元希のプロになる夢を手伝って代わりにあたしが投げてあげられるのに。
あたしに才能があったら…
なーんて、そんな我侭ばかり言ってられないよね。
むしろあたしは神様に感謝を言いたいくらいだ。
すごいピッチャーやキャッチャーの才能がなくてもあたしには…
幼なじみで野球が上手くてかっこいい彼氏、榛名元希がいる。
それだけでも神様には一生かかっても返せない程、感謝しています。
だって幼なじみでスポーツマン、おまけにかっこいいなんて、二次元的に言ったらそれだけでもあたしってすごく幸せ者だと思うもん!
むしろそいつがあたしの彼氏ってことにも信じられない。
でも元希…どうしてあたしを選んだんだろう…
他にも可愛い子はたくさんいるのに。
なんでだろう…
「おい名前!お前なにボーッとしてるんだよ、帰るぞ」
『へ…あれ!?みんなは!?部活は?もう終わったの!?』
「お前なぁ…ボーッとしてたにも程があるだろ…」
『あ…あはは、ごめんごめん!さ、早く帰ろ!』
そう言って先に進むあたしの身体が急にグイッと後ろにさがる。
不思議と思って振り返れば、元希があたしの手を握っていた。
「先に行くなよな…お前、目放したらすぐどっか行っちまうし…」
顔を赤くしながら言う元希にあたしも自然と顔が熱くなるのがわかる。
「ほら、行くぞ///」
『うん!』
それから手を繋いで帰ったところを野球部のみんなに見られてからかわれたのは言うまでもない。
それでも元希はあたしの手を離さず、ずっと握っていてくれた。
それがすごくすごく、嬉しかったんだ。
その後、野球部みんなからのひやかしに2人で逃げ、なんとか今に至る。
「それでな、そん時にでっけぇゴキブリがいて、それを姉ちゃんがスリッパでパコーンって!一撃だったんだぜ!あれは名前にも見せてやりたかったな!」
なんか今、すごくあたし達恋人同士みたい。
いや、恋人同士なんですけどね…
「おい名前、聞いてんのか?」
『え!?あ、うん、ちゃんと聞いてたよ?ゴキブリが元希に口の中に入ってそれd「聞いてねーじゃねえか!つか妙にリアルだからやめろ!」…う、ごめん…』
元希は溜息を吐いて、
「お前、最近おかしくねーか?前からだけど、最近は妙にボーッとすることが多いし…。何か悩みでもあるなら言えよ、聞いてやるから」
と心配そうな顔で聞いてきた。
心配してくれたんだ、という気持ちに心が少し楽になり、元希にあたしの今の悩みを話すことを決めた。
『…あのね、あたしって元希に不釣り合いな女だと思うの…』
「はぁ!?」
『だ、だって…あたしは別に特別可愛い女の子って訳でもないし、頭だって特別良い訳でもないし、スタイルだって…悪いし…性格だって、元希が他の女の子と少しでも話してるとこ見てるだけで嫉妬するような女だよ?それにそれに…!』
「あーもういい!わかったから…わかったから、もう言うな!」
つい興奮して、いろいろと喋らなくてもいい事まで言ってしまった。
元希、絶対あたしに呆れてる…
嫌われちゃったかな…
そう思うと涙がポロポロと頬を伝って零れ落ちる。
『う、ひっく…うぅ』
「え、ちょ、なんで泣いてんだよ!」
『だっ、元希…こ、なあたしっ嫌いにっ…!』
「バカ名前…なる訳ねぇだろ…」
気づいたら視界が真っ暗で、元希があたしを抱きしめていると気づくのにそう時間はかからなかった。
「俺はお前の顔、どの女よりもかわいいと思うし、頭だってお前クラスで上位の方じゃん!テストの前日は俺の勉強見てくれてるだろ?スタイルは俺的に細くて綺麗だなんて言われてるより、ぷにぷにしてて抱き心地が良くて気持ちいい方がいいし、性格なんか俺の方がすっげぇ悪い!俺はお前が秋丸や他の男と仲良くしてるだけでお前を監禁してやりたくなるほど嫌なんだよ」
『元希…』
「どうだ?満足したか?」
『…あたし、元希の彼女でいいの?』
「当たり前だろバーカ。俺はお前じゃなきゃダメだし、お前も俺じゃなきゃダメに決まってる。…だからもう二度と、俺と不釣り合いだなんて思うな」
『うん…ありがとう。…てかどっからその自信がくるんだか…
…でもあたし、元希の幼なじみで…彼女で良かった』
「…それだけか?」
え?と顔をあげれば元希の顔がすぐ近くにあって、
――――チュッ
キスをされた。
『なっ…不意打ち禁止///』
そう言ってまた元希の胸元に顔を押し付けたら。
「俺は…お前に“彼女で良かった”止まりにされてほしくない」
と言われた。
『どういう、んぐッ』
あたしが言う前に、元希はあたしに言わせないようギュッて更に強く抱きしめた。
「俺はお前に…名前に“元希と結婚して良かった”って言われたい
今はまだガキだから無理だけど…これからプロになれるように野球も頑張るし、名前のことは今まで以上に大切にしていく
だから
俺が一人前の男になって、お前を支えられるようになったら…
そしたら俺と…
結婚してほしい」
あまりにも真剣な声で元希が言うから…
『っはい、あたしで良ければ…』
止まっていたのに、元希のせいでまた涙が出てきたじゃん。
「おい…また泣いてんのかよ…」
『っ、バカ元希…これは嬉し涙なの!』
「なぁ名前…俺がお前を世界一幸せな奥さんにしてやるからな」
『…うん、絶対だよ?』
実をいうと、もうこれ以上ないくらい幸せなんだけどね。
そんなこと絶対に、元希には言ってやらない。
調子に乗るからね。
「ほら名前、そろそろ帰らないとおばさん心配するだろ…帰るか」
『うん!』
こんなに自分に自信がないのって…あたしだけじゃないよね?
でも、元希のおかげで自分に少し自信が持てた
そんなあたしも今日で
コンプレックス彼女卒業
(あ、元希…手繋ぎたい…)
(はッ!?)
(だめ…かなぁ?)
(ったく…ぜってー、一生離さねぇからな!///)
(うん!)
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