02 笑えない道化師
定期的に病院に行き検診を受けて薬を貰う。
そのたびに入院をすすめられる。
でも俺は入院して無駄なお金を使うより最後の時間を好きに生きることに選んだ。
俺が入院したらあいつらに迷惑かけるし。
西郷ママのすすめで通っている大学も今は休学中。
俺、なにしてんだろ……。
「あれ、旦那じゃねぇですかい」
「へ?」
呼ばれ慣れないけど確かに俺を呼ぶ声に振り向くと、栗色の髪のかわいらしい少年がいた。
「沖田くん」
松平さまの会社の社員でこの間うちの店に来た沖田くん。
俺が土方とか言ういきなり俺の股間をわしづかみにした男を殴ったら手を叩いて喜んでいた少年だ。
それから何故か俺のことを旦那と呼んで慕ってくれている。
「こんなとこでどったの?」
「それはこっちの台詞ですぜ、俺は姉の見舞いです」
「ふーん」
プライベートではあまり客と関わりたくないので関心のないフリをして沖田くんの話を聞いていたんだけど、話を聞くうちにずきずきと胸が痛んできた。
沖田くんのお姉さんは俺と同じびょうきらしい。
しかも俺より進行がすすんでいて、もう手術をしても治るみこみはないとか。
世間は狭いっていうけど、同じびょうきの人が身近にいたなんて。
「旦那、今ちょっと時間ありやすか?」
「なんで?」
かわいい顔に似合わず沖田くんは寂しそうに笑った。
「姉貴はずっとびょうきで友達とかもいないんで、よかったら話相手になってくだせぇ」
うん、俺もちっちゃい頃は入院してたからその気持ちはわかるよ。
たまたま骨折して入院した高杉と仲良くなってそれからヅラや坂本と出会った。
それまではずっと、白い箱みたいな病室でひとりだった。
「いいよ」
笑顔で答えると沖田くんは笑った。
そうだよね、普通こんなこと知り合って間もない人には頼めないよね。
柔らかい、花みたいな人だった。
花に柔らかいとか固いとかあるか知らないけど、そんな印象だった。
「あら、総ちゃんのお友達?」
優しく微笑む姿を見て、俺は病室の入口に立ったまま動けなかった。
かわいいというより美しい。
しおらしいというより儚い。
弱いというより脆い。
触れれば壊れてしまいそうで、近寄ることすら出来ない。
だって俺みたいな汚い人間が彼女の側に行ったら、それだけで彼女が汚れてしまいそうで怖かった。
怖かったんだ。
「旦那?」
入口から動かない俺に沖田くんは不思議そうに声をかける。
彼女は微笑んで俺を見ている。
気が付けば俺はゆっくりとまるで初めて歩くことを覚えた赤子のようにフラフラと彼女に近寄り、ベッドにいる彼女に向かって両腕を恐る恐る伸ばし、
その華奢な身体を抱きしめた。
まるで時が止まったかのように静かな時間が流れ、彼女は俺を優しく抱きしめ返した。
「泣かないでください」
俺の頬を彼女の細い指が撫でる。
いつの間に、自分でも気が付かないうちに俺は涙をこぼしていた。
「あなたも同じなんですね」
儚げに微笑む彼女に俺は泣きながら縋り付いた。
情けない惨めな男のように。
2009.02.22
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