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今宵、月が見えずとも
┗沙羅様/相互



【今宵、月が見えずとも】



薄い雲が覆う月夜の下で交わされた盃に、一片の花弁が舞い落ちた。



それは、一体どちらの想いの欠片か。














初めて見たのは、青い空が広がる陽の下。

巡らせた視線が捉えたのは、太陽の光を浴びて輝く、見事な銀髪の美しい姫だった。

その瞬間、全ての時間が止まった気がしたのと同時に、一瞬にしてその銀色の姫に堕ちた。















「あんな風に着飾らないのか?」

向けた視線の先、少し離れた位置で豪奢に着飾り談笑するお姫様数人と家臣達。
そして、戻した視線の先。
自分の隣で夜空を見上げている美しい銀髪の姫。
ただし、その銀髪は結われている訳でもなくて、ただ耳の辺りに紅い椿の花を片方だけ飾ってあるだけだった。
着物も、確かにこの姫に似合ってはいるが、他の姫達よりは幾分か大人しい装いをしていた。

「そうですね……上様の様な綺麗な漆黒の髪でしたら、私もあんな風にしていたかもしれませんね」

その表情は、少し哀しそうに見えた。

「……あまりやりたくはなさそうだな」

「クスッ……上様は美しく着飾った女が好みですか?」


「いや、美しい女より、お前みたいな女がいい。というか、その銀髪、嫌いなのか?」

「いいえ。母と同じだから、好きです」

「良かった」

その言葉に、不思議そうに首を傾げてこちらを見る紅い瞳に心臓が鳴った。
その紅い瞳から視線を外さずに、銀髪を一房手に取りそっと口付けた。

「こんなにも綺麗で、月に映えるのに、嫌いなんじゃ勿体ねェだろ?」

その言葉と共に翳っていた月が現れ、銀色の姫を照らす。
微かに頬を染め、驚いた表情をしながら

「上様は、そうやっていつも口説いていらっしゃるんですか?」

そう聞いてくる。

「まさか。自分から口説いたのは銀、お前が初めてだ。嫌だったか?」

「……………」

「銀?」

「あ、いいえ。嫌ではありません。ただ……」

「ただ?」

「私などより、他の方を口説かれてはいかがですか?」

「お前以外に欲しくは無いと言っても?」

交わる紅と黒の瞳。
此方を見るその紅い瞳は、思いの外真っ直ぐで、息を飲む。
そして、紅をさした唇が紡ぐ言葉は



「私は、上様のお気持ちに応える事は出来ません」



まるで、全てを拒絶するような響きを持っていた。




「……それは、お前が男だからか?」





「!?」


その瞬間、紅い瞳が大きく揺れた。

「な…………で……?」

驚愕に瞳を見開き、震える声で言った言葉は途切れ途切れになっていた。

「確かにどこからどう見ても女にしか見えねェがな。でも……」

そう言って白く細い手を取る。

「どれほど完璧でも、男と女は違う。俺とは違うように見えてもこの手は男の手だ。しかも、俺と同じ様に剣ダコあるしな。普通のお姫様はこんなとこにそんなもんねェだろ」

バッと離そうとするのを、更に強い力で抑える。
そして、銀時の喉元の辺りを軽くトントンと叩いて

「それに、あまり目立たないが喉仏あるし」

そう指摘すれば、反対の手で喉を隠すように押さえる。

「安心しろ。別にお前が男だったからって、気にしちゃいねェ」

「………変わったお殿様だな」

男とバレたからか、発した声は自分と変わらない低いものだった。







「で?何で、男なのに女の振りをしてんだ?というか、その女と変わらねェ声は一体何処から出てんだ?」

「…………本当、変わってるな。食いつくとこ其処?」

「いや、気になって」

「裏声に決まってんだろ」

「なるほど。で、女の振りをしてる理由は?」

一番気になる事を聞けば、その綺麗な顔が悲しそうに歪んだ。

「や、言いたくないなら」

別に、と続けようとしたら、ぽつりぽつりと話し出したので、耳を傾けた。






「よくある話だ。正室に男が産まれなかったのに、側室には男が産まれた。正室は勿論面白くないだろ?俺の母は、その正室から俺を護るために、産まれた赤子は女だと嘘を付いた。だから、俺はお姫様を演じてた訳」

「嫌じゃないのか?」

「何で?」

「何でって………理由はなんであれ、男がいつまでも女の振りなんて……」

「嫌だなんて思ったことねェよ。母親が俺を護るために嘘を付いたなら、俺はその嘘を現実にするまでだ。何より、一番大切な女を泣かせたままなんて、男として情けないだろ?」


そう言って笑う目の前の銀色が、余りにも綺麗で愛しくて、気が付けば自分よりは華奢で、だけど女とは違う身体を抱き締める。


「えっと、上様?」

「十四郎」

「え?」

「十四郎でいい」

「十四郎?」

「ああ」


自分と同じ低い声なのに、どことなく甘く感じるのは、銀色が纏う薫りのせいもあるのかもしれない、と思う土方。

「ずいぶんと男らしいお姫様が居たもんだな」

自分を抱き締めたまま、クスクス笑う男に戸惑いを隠せない銀時は

「るせェ。俺は男だ。というか、この状況は何ですかね?上様」

ちょっとプチパニックだった。
そんな銀時を綺麗に無視して

「頑張ったな」

とだけ言った。
でも、銀時にはその言葉だけで充分だった。
一瞬目を見開いた銀時は次の瞬間、その紅い瞳から涙を溢していた。
そして気づけば土方の腕の中で泣いていて、土方はそっと頭や背を撫で続けていた。



「泣き止んだか?」

「うん……あ、はい」

「普通の話し方でいい」

「そう?」

「ああ」

「ありがとう。それにしても、今まで誰にもあんなこと言われた事無かったな」

先程言った言葉にそう返すも、その表情は泣いたからか、すっきりとしていた。

「男が女の振りなんて、まあ、逆もだが、余程の事がなきゃ続けられないだろ?其処に存在する理由に強い想いがなきゃ、やっていけないだろ?」

「………本当、変わった上様だよね?普通なら、騙されたって斬り殺すとか、家を取り潰すとかするんじゃねェの?」

「お前が騙して俺をどうにかする為に近付いたってんなら、そりゃ遠慮無くスパッと斬るさ。でも、違うだろ?騙そうとしてた訳じゃねェだろ?だから、いいんだよ」

そう言う土方の顔は、優しさに溢れていて、間近でその顔を見た銀時は思わずボンッと顔を赤くした。

「銀?」

赤い顔を隠したくて、下を向いてしまった銀時を覗き込もうとしたら、両手で顔を押された。

「みみみみみ見るなァァァ!!!」

「はぁ?ってか、痛ェよ」

「いいから、今こっち見んな!」

「なんなんだよ、一体」

「うるさいっ!!」

「俺、一応お殿様なんだけど、扱い酷くね?」

ちょっと切なくなった土方を余所に、銀時は落ち着こうと必死だった。

(マズイ。非常にマズイ。何がって、判んねェけど、マズイ気がする。ってか、何これ。何でこんなドキドキしてんの?母様、俺病気ですか?)

初めての感覚に、今頃家でゆっくりしているだろう母に問いかける銀時だった。


土方は、そんな銀時をもう一度その腕の中に引き寄せて、そっと耳元で囁く。

「銀」

「ななな、何?」

「いや、落ち着け」

「大丈夫。落ち着いてる」

「…………まあ、いーか。銀、俺と結婚する気ないか?」

「…………………は?」

「だから、祝言」

「いやいや、お前アホ?俺、男だよ?」

「だから?」

「無理」

「でもお前、世間一般では女って事になってるだろ?」

「あ」

「何か問題が?」

「いやいや、あるだろ?跡継ぎとかなんか色々。そもそも逢って間もない女……じゃねェ、男を口説くか普通。しかも、色々すっ飛ばして結婚って……」

「なるほど。銀」

眼を合わせ、急に真摯な声で名前を呼ばれて銀時は、真っ直ぐに自分を見つめる漆黒の瞳に、息を飲む。


「好きだ。一目惚れなんだ。ずっと俺の傍に居て、俺にお前を愛させて欲しい。男とか女とか関係なく俺は銀、お前が欲しい」

「……十四郎」

「ダメか?」

紅い瞳に涙を溜めた銀時は、何て返事を返せばいいか判らなかった為、下を向いてとりあえず

「……………き」

「何?」

「銀時」

「は?」

「俺の名前」

「銀時?」

コクンと頷く銀時の顔を上げると、両手で顔を挟んで

「銀時、愛してる」

そっと口付けると、銀時の瞳から涙が一つ頬を伝って、ぽたりと落ちた。










再び雲に覆われた月の下で交わされたのは、やさしい愛の形。

風に揺れてひらひらと舞い落ちた一片の花弁は、盃に注がれた酒の上で、二人の想いをそっと揺らした。













「どうでもいいけど俺、告白の返事してねェよ?」

「あ」






END




きゃーお姫様銀ちゃんが可愛い!!
殿様土方もすっごい男前でカッコイイ( ̄▽ ̄)

素敵な小説ありがとうございました!



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