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思えば、好きだと言った事がないし言われた事もない。ただなーんとなく纏う空気で"ああ、好きなんだろうなあ"とは互いに思っていたのだろう。
キスもなし、手を繋いだ事もないしハグもなければもちろんセックスだってない。異性交流が常な世界で生きているのだ、わざわざ男になんて恋はしない。

「ったく!無茶し過ぎなんですあなたはいつも!」
「うっせえな!あそこで粘っていたらどうにかなったんだよ!」
「どうにもならなくて今はこの様!アタシがあと少し遅れてたらどうなっていたか!黒崎家のツインズに説教されるアタシの身にもなって欲しいくらいだ!」
「ああ!ああ!ああ!もう煩いうるさいうるさーい!そうですよー俺が悪かったですよー!」
「逆ギレですかクソガキ」

あー言えばこう言うのも慣れてきた数十年目の付き合いの中、いつもの様に厄介な虚を浦原の助けでなんとか屠る事に成功。長年続けている死神業も板に付いてきたと思うが、日に日に怪我は増える一方で今日なんて煩い小姑の助けがなければ体のどこかが一部破損していた所だっただろう。ここで言い訳が通じるとするなら体の衰えが若い死神姿の神経に追いつかないと言った所だろう。

「ほら、ふらついてる。どうします?すぐに身体、戻れる?」
「…40代の身体に戻るのはなんだかなあ…なあ、なんで死神姿は十代のまんまなわけ?」
「魂が死神化した時の年代で止まるからですよ」

へえ、さして興味なさげに呟けば隣から盛大な舌打ちが聞こえる。

「なあ…お前さあ…あからさまな態度取るようになったよなあ…」
「誰かさんが人の忠告をからっきし聞かずに暴走するんでね」
「昔はもうちょい優しかったよなあ…」
「そりゃあ相手がお子様でしたからねえ」

初めて死神だなんて言うファンタジー甚だしいものになった時に色々手助けしてくれた浦原は、右も左も上も下もまるで分からない一護に対して親身に、そして時に厳しく世界を教えてくれた。
師匠、そう呼べるカテゴリーに属している人物は後にも先にも浦原だけ。

「なんだい今も十代の体じゃないか!」
「うっさいっすよ45歳のくせして。オジサンじゃないっすか」
「うわあ!!おっさんにオジサンって呼ばれたショック!ショックが大き過ぎてもう歩けないからおぶってください」
「…うわあ!ひらきなおりましたね!あなた、昔よりも図々しくなってますよ!?」
「昔よりも素直になったとここは言ってもらいたい。ほら、年寄りは労れよ」

屈めと言わんばかりに仁王立ちを決めた一護の前で浦原は、こめかみに怒りマークをこさえながらも渋々屈んで背中を見せた。それに対して満足気に笑う一護の顔はまさに子供そのもの。
甘いのに変わりはないんだよな昔っから。
フと過る昔の記憶、乗っかった背中はやはり昔と変わらずに大きくて広くて男の背中そのもので安心が出来た。
フワリと重さを感じさせずに浦原は一護を背負って下駄を鳴らす。カランコロンカラコロ。夏にお似合いの軽い音が住宅街を騒がせた。
ア、重い一護サン!とか、もうすっかり夏ですねえ、とか他愛のない話をする真夏の深夜。
そう言えば昔、今と違って無理矢理浦原に背負われたことがあった。
右足に負傷を負って浦原に背負われたんだっけ?
「また…無茶ばっかりして」若干優しいイントネーションで溜息を吐かれたと同時に言われたからムカっ腹が立ったけれど今思えば浦原は後少し自分が早ければと自身を責めていたに違いない。子供の頃は子供扱いされるのが嫌いでプライドばかり先立っていたけれど、大人になった今、甥と姪が出来た今となっては思い当たる節が多々、過去の中の浦原喜助と重なって苦笑を招く。
とんだクソガキを好きになったもんだなあお前。
頬に触れる金色はサラサラと風に靡いては頬をくすぐる。全く改善の余地もない定着した緑色の作業衣からは煙管の香り。古臭いのにどこか懐かしい香り。

「…なあ、」
「ハイ?」
「なんでさお前、好きっていわねーの?」
「はっ?」

あまりの懐かしさに不意をついて出た言葉は引っ込み所を探せずに浦原の耳へと流れていく。
ア、しまった。
思うのも時すでに遅しで、ピタリと歩みを止めた浦原は素っ頓狂な声をあげるも振り向かずに前を見つめている。

「あー…すまねえ、忘れろ。今のナシ」

ほら、きりきり歩けつかお前あの変な布とか出したらひとっとびじゃねーかアレ出せアレ、一反木綿。
体の動作と同時に息も止まったんじゃないかってくらい微動にしない浦原の頭をペシペシ叩きながらに一護は気まずい空気を纏うこの場をどうにかしたかった。
久し振りに柄じゃ無いくらいあせってしまっている。もし、もしも二人が長年続けてきた沈黙を破って元の関係に戻ることが出来なかったら?馬鹿みたいに卑怯な事を考えてしまう。大人になればなるにつれて卑怯と欲が混ざってきてしまう。きっと大人ってのは我儘な子供なのだ。
お前、俺の事好きだろう?
吐き出して認めさせてついでに自分も吐き出してしまいたかった。
傍に居るのが当たり前になってしまった数十年と数か月、もう互いに互いが居なくなった時の事なんて考えてもいないくらいには傍に居る事が普通になっていた。
それでも心に異質な感情がちょっとでも膨張し窮屈にさせてしまえば自身の均等は保つ事は出来ないであろうと自覚していたにも関わらず、先に言わせて認めさせてしまいたかった自分の浅ましい気持ちが今、浦原の呼吸を止めてしまっている。

「オイ…うら、……」

いよいよ気まずくなって上体を前へと寄せて無理に見た左耳と首筋は夜目でも分かるくらいに真っ赤っか。数十年と数か月、傍に居たというのに浦原喜助の赤面した場面なんて一度たりともない。

「おま…かおまっか、ってうわ!!!」
「そうですか一護サン!そんなに早く家に帰りたいのなら超特急で向かいますんでシートベルト着用願います!アテンションプリーズ!!!」
「ばばばばかやろう!急に瞬歩使うやつがあるか!ぎっくり腰になったらどうしてくれる!お前がアテンションプリーズだ!」

ぎゃあぎゃあわあわあ、真夜中だろうが近所迷惑だろうが良い歳した大人の男二人が叫んで夜空を騒がせる。
一人は真っ赤な顔で、もう一人は照れ笑い。
好きなんだろうなと二人共自覚していたにも関わらず敢えて言わないでいたのはきっとどちらも同じくらいに卑怯でずるくて臆病だったから。
昔と変わらない大きな背中に抱きつきながら柄にも無く呟いた言葉と気持ちを背中越し、浦原の心臓へと伝えた。



















暴いた恋情




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