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彼は綺麗なグリーンアイズ。中心から広がる深い緑は光の反射具合できらきら煌めいては夜空の黒と碧を反映させる。あの瞳に見つめられたら有無を言えずに従ってしまう。
自分で脱いで。
甘いけれどどこか意地の悪い声が脳を揺るがせて一護の体をぶるりと震わせた。彼の声にも逆らえない。既にこの体は、脳は、心は浦原喜助の物。叱咤する暇も罵倒も全てあの緑に吸い込まれてしまって、コクリ飲み込む唾液が喉を伝って腹に流れた。きっと理性までも飲み込んでしまったに違いない。下腹部が酷く重いのは彼の意図する感情が自身の体に植え付けられている証拠。
ほら、早く。
胡座をかいて行儀悪く座る場所は一護のベッドの上。洋風なベッドに似合わない緑色の作業衣はなぜか彼にしっくり合っている。作業衣と同じ色の緑から未だに視線を外す事を許してくれない。現在時刻は午後6時ギリギリを示していて夕暮れの赤が暗がりを作り影を生み出してアンニュイにさせた。夏の香りがする、肌はその暑さを吸収して更なる熱を上げる為に温い演出を施した。
いよいよ持って気違いめいている。思うのにワイシャツのボタンひとつひとつを外す指は止まらない。止まらない上に震えている。どうしてお前はこうも唐突に現れて熱を上げさせるのだ、言わんとする罵詈雑言も"知っている"と言わんばかりににんまり微笑まれた。

「一枚一枚脱いで、それからこっちにおいでなさいな」

上品な言葉使いに似合わない乱暴な言葉だと思った。
それでも逆らえないのはあの緑と声色のせいだ。舌打ちの代わりに出てくる吐息が熱い。
しゅるり落ちるワイシャツの音とベルトが床にぶつかる音、カアカアカラスは東の方で鳴いている。カラスが鳴いたから帰りましょう、馬鹿みたいに呑気な歌声はいつかの歌声。浦原喜助の歌声。

「おいで」

全て剥ぎ取った衣服は無残にも床に散らばった。
両腕を広げた男の元に一歩足を踏み出す。あ、剥がれていく…。足を一歩一歩踏み出すと同時に剥がれていくのはなんだろう。浦原の前では何もかもを剥ぎ取られて素っ裸にされる感覚が常に付き纏う。
子供の意地もプライドも一護が一護である為の正義も理性も何もかもだ。
キシ、乗っかったベッドのスプリングが少しだけ咎める声を出す。大の男二人分の重さが乗っかるのだ、ベッドから苦情が来ても仕方が無い。
肩に置かれた指先は冷たい、浦原の足の間に体を割り込ませて影を作る睫毛の奥に隠された緑を見る。

「イイコだ」
「…なにしに来た」
「フ、今更」

アナタを裸にひん剥いてする事と言ったらひとつしかないでしょうに。
冷ややかな唇が望んだ所には触れず、瞼に感じる柔らかな感触を甘受してベッドに押し倒された。
ギシリ、ベッドが更なる苦情をもたらしては少しばかり早い夜のトーキングタイムへと二人して沈んでいく。
彼の緑が黒に変わる。夜の漆黒に染まるのにやはり緑だと見て取れるそのあざとさにまた、心を奪われてしまった。













ゆっくり静かに加速する色彩のパレードの中央に君臨するは緑の王様




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