82 お菓子くれなきゃ悪戯するぞ!って言うから悪戯してやった(生憎、手持ちは彼の嫌いな薄荷キャンディと湿気ったシガレット数本だった為だ)。なのにだ、小さく握り締めて出来た拳を思いっきり振り下ろされる始末。思いのほか痛い。なんだって子供はこうも加減が分からないのだろう。こっちの頭がジンジンと痛んだのだ、きっと彼の小さくて愛らしい手は数倍の痛みを貰っている筈。 「おい、見せろ。痛むだろう?」 「信じられないっス!いたいけな子供になんて事してくれてんだオッサン!」 「…おっ、オッサンじゃねーよ!まだ20代後半だ!クソガキ!」 「こっちだってクソのつくガキじゃないっス!もう13歳だ!」 「10代はまだガキだガキ、ほら。手ぇ、見せろっての」 いたいけな子供、と自身で認知していながらのこの言い様に呆れかえって二の句も告げれない黒崎は咥え煙草のまま浦原の手を取った。あ、赤くなってら。こいつすぐ赤くなるんだよなあ、肌が白いからか。さすりながらそう考える。冷たい彼の手はしっとりと指先に優しい柔らかさを感じさせたからいつまでも撫でていたくなった。流石にこれじゃあ変態っぽいので、先のお詫びの印にと小さくキスを落した。 チュっ。 「な、何してくれてんだオッサン!」 「うっせえな!耳元で喚くな!うるせー!」 「煩いのは貴方の方っスよ!」 「お前もだろうが!そもそもハロウィンなんて終ってんだよ!悪戯される前にこっちが悪戯したんだ文句なんざ言わせねえ!」 「倍返しってのもあるんスよ?」 「ホウ、やってみろやクソガキ。どうせ力じゃかな、わ…」 迂闊にも、と黒崎は頭の中で復唱する。 ガキだガキだと思っていた彼はいつの間にか成長期と言う味方を手に入れていたらしい。 ソファの上、マウントを取られた状態で一護は浦原の金色の瞳を見上げていた。 「いつまでもガキだと思ってもらっちゃあ敵いません」 「ガキにガキっつって何が悪ぃーってんだ」 「ね、ガキでも歳を取るんスよ?」 「ふん、俺にゃあ追いつけねーよ」 「それを言っちゃあお終いっス」 「キスであんだけ騒いでた癖に」 「あ、なたが不意をつくからだ」 揺れる揺れる。真摯に見下げる金色が甘ったるくも一護の目の前で揺れるから、そろりと伸ばした手。触れた頬はまだまだ柔らかくて子供らしい温度を保っていた。あ、赤くなった。 「んで?」 「ん?」 「この後は?」 「…意地悪っス」 「はは!可愛いな、お前」 「子供扱いだ」 「今だけさせろよ。あと少しでお前も大人になっちまうんだ。身長も俺と同じくらいだろ?畜生、ムカつくなあ…縮めよ」 「嫌っス」 「あーあ…きっとこれからどんどん伸びるぜお前…あの可愛かった天使みたいなちっこいお前はどこに消えていくのかなあ」 「居るじゃない、ここに」 「どこに」 ギラリと、今度は物騒に光る金色眼。 ああ…そんな目も出来るようになったのか。と他人事のように思ったが、やはりどこか寂しく感じてしまう。 あーあ…あーあ…そんな目、俺はしらねーぞ。 子供の成長は早いと聞くが、こーも目前で見せつけられたら堪ったもんじゃない。 大人は時間を止めなきゃいけないんだ。 その先にある未来予想図も、なんて事のない日常の繰り返しだと相場が決まっていて。大人はそれをちゃんと直視しなきゃいけないんだ。 置いていくなよ。 自分勝手な悲壮感を掌に乗せてもう一度頬を撫でた。 「浦原」 「はい」 「んな生き急ぐなよ」 「…はい」 「ゆっくり育っていけばいいんだ」 「…ん」 「待ってるから」 「ん」 「置いてかないからさ」 「…はい」 置いてくなよ、だなんて大人気ない事は決して言えなかった。 だってなんか…かっこ悪いし。 素直に頷く浦原が可愛くて可愛くて愛おしくて、一護は力いっぱい彼を抱きしめては耳元に小さな悪戯を落した。 トリックオアトリート,愛してるぜベイビー |