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雨が降っていた。粒の小さい細かくて鬱陶しい雨がシトシトサアサア降っていた。
気まぐれな秋の小雨は後から後から止め処なく降り注ぎしっとりと世界へと浸透する。
緑の香りが充満した。湿った土の香りと新緑の香り、使われていない校舎の裏側、誰の目にも触れられない場所で二人、雨宿り。
小さな屋根が雨を遮ってくれるも既にびっしょり濡れたシャツは髪の毛は肌は充分に秋の冷たさを吸収して冷え切っていた。少し、寒いな。呟く青年の声が雨によってかき消される、それくらい小さな声だったけれど鼓膜を揺さぶるには充分過ぎる程しっとり濡れていた。彼の声が濡れている。たったそれだけで心が戦慄いた。
生憎、スーツジャケットは準備室でお留守番をしている。同じ白シャツでも彼のシャツは勝手が違う色彩で、真っ白の癖に背徳塗れの潔癖さを含んでいる。しっとり浸透した秋の雨が制服の白から肌の色をうっすらと見せた。見ちゃいけない物を見た心地の悪さに浦原はそうっと目を伏せて空を見上げる。既に午後の授業を知らせるチャイムは背後で鳴り響いてもう直ぐで鳴り止むだろう。キンコーンカンコーン、キンコーンカンコーン。単調なメロディは惰眠を誘うも、矢張りチャイムの音も雨音に消されて別世界の音に聞こえてしまう。壁一枚を挟んで響く音と言うのはこんなにも鈍く反響する物だろうか。
授業、始まっちゃったね。
うん。
…雨、止まないですね。
うん。
口数は少ない方だが、二人っきりで準備室に居る時この子は良く喋る。初めこそガチガチに警戒心で周りを塗り固めていたが徐々に慣れてくると心を開いてくれた。今は隣に居るこの子。明るい髪の毛は雨で濡れて整髪剤を洗い流したみたいだ。いつもツンツンに立たせた毛先が今は重力に逆らわず元のなだらかさを醸し出す。ああ、一段と幼くなっている。
二人の間に走った沈黙は雨の音を自然に受け入れて、まるで世界に二人っきりと錯覚を齎した。いけないのに…、思いながらも我侭な指先はそうっと青年の髪の毛に触れて滴る雫を受け止めた。ツ、ツツツー。指の腹から零れた雨粒が浦原の手首を濡らし、袖口に吸い込まれていく。
濡れている。
それは浦原も同じなのに、彼とは濡れ方が違う。そんな雰囲気を今、目の前の彼は持っている。
甘い甘い彼の瞳がフと上げられて浦原の金色とかち合った。
ああ、見つめ合ってしまった。
この甘い色彩から反らす事なんて到底無理な話しだ。凡そ8センチの身長差は子供を無意味に幼くさせてしまい、濡れた唇が制服の白に栄えて赤く赤く熟れているのがとても背徳的。この子は全てが背徳的だ。
駄目だ、と頭の隅っこで理性がストップをかけてももう遅い。全てが遅すぎた。
急に振り出した秋の雨も、静かな校舎の裏側も、濡れた制服も、這わせた指先も、重なり合う唇も全てが全て。
目の前で震える瞼に合わせて睫が揺れる。合わさった唇はしっとり、雨に濡れていて冷たかったのに何度か重ね合わせる毎に暖かく紅く熟れていく。
初めはただ重ね合わせるだけのキス。
一度離して目を合わせて耳の裏を撫でる。ビクリと震えた彼の肩、シャツ越しから肌を撫でる様に擦る。じんわりと彼の熱がシャツに移り自分の指先に熱を伝える様がなんとも、ドキドキした。
もう一度、彼の甘い琥珀色を見て唇を寄せる。
次に触れた唇は温かで湿っていた。隙間から舌先をしのばせ入れるとビクリと彼の舌先が震える。そうっと絡めとってクチュリと空気を吸えば鼻にかかった甘い声が漏れた。
あ、無理かもしれない。
理性はここで一気に吹っ飛んだ。
キスに不慣れな彼は浦原の腕に縋り、同じく濡れたシャツをキュっと握り締めて少しだけ背伸び。
厄介なドキドキが心から浸透して全体に駆け巡った。
なんでこんなに可愛いの、この子。
奪われた酸素を吸おうとして甘い声が漏れるのを更に飲み込む。声までも飲み込む行為だなんて、なんて…。心臓が停まってしまうんじゃないかって本気で思った。
せ、んせい。
吐息混じりの声が耳を貫く。艶っぽい声色に背筋がぞわぞわと戦慄いてそれこそ理性を根こそぎ剥ぎ取られてしまいそう。
耳の裏側を悪戯に撫でながらそうっと囁いた。
内緒ですよ。
誰にも言わないで。保身ではないただの一人善がりな気持ちが言葉と成って幼い耳を何度も刺激した。無様な独占欲だ。
彼の、黒崎一護のこんな表情を見て良いのはアタシだけ。
上気して赤く染まる頬と若干潤んだ瞳で見上げて、こくりと小さく頷いてみせる子供が厄介な毒をこちらに与える。その様全てが浦原の物。
何度も何度も重ねて吐息を奪い合って熱を分け与え続けていた。その間、時間は概念その物を失い、雨に流されていく。サアサア振り続ける小雨の音に混ざって小さく呟かれた言葉に聞かない振りで答えてはまたキスを繰り返した。




















夕立ちのりぼん

▼夕立のりぼんと言うボカロさん曲に惚れて書いちゃいました。歌詞が入り混じっています。唐突に始まるプラトニックラブと雨とキスでお送りしました。楽しんで頂ければ幸いです^^
meru




あきゅろす。
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