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ただただ喉の渇きだけを感じていた。ただただ、渇きだけを感じては渇望して足掻き苦しむ。潤せば潤す程、渇望は増す一方でその無限ループの中で絶望すらも感じてしまう始末。性質が悪いと思う人間臭い自身は深層へと追いやられてしまった。
摂取する栄養源でもある血液の味はそれはもう言葉に言い表す事が出来ない程おぞましい。どろりとした粘着質に加えてあの独特なサビ臭くも生臭い味は鳥肌が立ってしまうくらい不味い。フィクションのバケモノ達は揃いも揃って美味そうに血液を啜っては肉を喰らい臓物を引き契り嚥下すると言うのに、リアルでは勝手が違うから不公平だと思った。
ではフィクション通りに美味ければよかったのか、と問われればそれも違うような気がする。要は気持ちの問題なのだ。
体は栄養素として求めているのに、心がそれを拒んでしまう。元より人間だった部分も残っているから尚性質が悪く、心が拒否反応を示してしまうのだと科学者は苦笑しながら言った。
"心が拒否をしたらね、脳から信号が送られてしまうんですよ"
"脳が?"
"ええ、偽の情報を与えてしまう"
"フェイク…?意味が分からない"
"ふ、つまりね。心がコレは摂取すべきではないと宗教的思考で阻む、でも本当に拒んでしまえば体は朽ちてしまうから脳が心に偽の情報を送り込む。摂取を求める様に仕込むんです。コレは列記とした"食事"だとね。脳は食事だと言う、けれど心は異質だと捉える。波長しあわない信号はただぶつかり合うだけだ。だから君の場合は暴走してしまう。まだ上手く頭と心のコントロールが出来ない"
彼にしては随分と丁寧に説明してくれた事ではあるが、結局の所一護がその行為を"食事"だと割り切らなければいけないのだ。
しかし、不味いものは不味い。
我慢をして摂取をした所で吐き出してしまっては意味がなく、無理矢理にでも嚥下しては毎回毎回苦し気にしてる一護を見て浦原は得策を提案した。

「アタシのを飲みなさい」
「…ぜってーイヤだ」
「君がね、人間の血だけはどうしても嫌だと一生分のワガママを使うから仕方なく動物の血液を摂取させてますが…限界ですよ」
「……血液に変わりはねーだろう…問題ない」
「大問題です。元々アタシ等の摩訶不思議な体は人間の血液だけを栄養源としてます。動物のも血液に変わりはありません、ですがあくまでも予備です。保存食同様、確かな栄養素は得られない俗に言うベジタリアンだ。それも度を越したね」
「ベジタリアン?寧ろそっちが健康的じゃん」
「聞いてました?度を越したって言ったんだ。あんた、このままじゃあいずれ暴走して手当たり次第人間に牙を向けますよ。それでも良いの?」

浦原が放った容赦ない言葉にぐうの音も出ず、下唇を噛み締める。
何も言わずにただただ俯いては悔しそうに下唇を噛み締めている一護を見てお手上げのポーズをわざとらしく取っては溜息を吐いた。

「人間を手にかけたくないから人間には噛み付かない、けど限界が来たら人間を襲ってしまう…そーんなお優しい盛りの君にアタシのをあげようつってんですよ。ありがたく飲め」
「…いやだ」
「まあだ強情張りますか?アタシの心配はしなくて結構っスよ君と違って貧血持ちでもない。半年に一度摂取するくらいで事足りてるんだ。」

苛立ち気に眉を上げた浦原を見て、更に唇をキュっと噛み締めて口を閉ざす。

「はあ…前まではアタシのを飲んでたじゃない。あのね一護さん。自分では気付いてないと思うけど今の君はとても健康的とは言い難い。血色も悪いし唇だって乾いてる…こら、あんまり強く噛むな血が出る。」

冷たい指先が唇に触れて優しく撫でる感触にゾワリと背筋が唸った。
浦原の言う通り、成り立ての頃の一護は上手い事血液を摂取出来ず(今よりも大分酷かった)浦原の手首から栄養源を摂取していた。
血ならなんでも良いのか、節操なしだ。と軽く思っていた時期もあったが浦原の血だけはどうにも…ダメだった。体に合わないと言ってしまえば簡単だが、簡単に済ませられない事が一護の体内で起こったから性質が悪い。
熱くなったのだ。
元々、浦原に毒を注入されて構造を根っ子から変えられてしまった体。一護の体内中に駆け巡る血液と細胞、肉と骨、全てにおいて浦原の体液が混じっている。きっと共鳴したに違いない。埋め込まれた浦原の毒と新たに摂取された浦原の体液が何某かの化学反応を起したのだと勝手に推測した。

「アタシの血、飲んで」

冷たい指先が唇を撫でる。

「ね。やつれていく君を見たくないんス」

寂しい声が降り注ぐ。

「折角二人ぼっちになれたのに…君が居なくなったらアタシはまた一人ぼっちだ」
「…ずりいぞ」
「やっとこっち見た」

にっこり優しく微笑む金色を甘いとさえも思ってしまった。
彼は分かっちゃいない。
下唇を噛み締めながら浦原の首に腕を回して抱きつく。抱きついた途端に体内を駆け巡る浦原の毒が一斉に唸りを上げた。お前は何も分かっちゃいない。再び思って瞼を強く閉じる。
ひとつの細胞にふたつ分の細胞が混ざり合うのだ、存分にいやらしいシステムだ更に摂取するだなんて。
この行為はきっとセックスを兼ねている。
一護はそろりと口を開き、鋭利な犬歯で浦原の肌へと甘く噛み付く。
鼻をつく浦原の香りが眩暈を起させる程に、一護は彼を求めている。一護にしか分からない確証は摂取する血液と共にじんわりと体内へと滲んでいく。トロリと蕩けた食感が舌先に乗る、相変らず血液と言うのは粘着質っぽく生臭い。なのに浦原の血液だけは甘いとさえ錯覚してしまう。
ああなんだってこんなに…熱い。
下手をすると全ての血液を飲み干してしまいそうな危惧が一護の脳裏を掠めるも、渇望は抑える事が出来ない。
熱い、熱い。
体内で交じり合う二つの細胞が熱を持って体中を駆け巡る感覚がセックスの悦楽と酷似しているから、だから嫌なのだ。彼の血を飲む行為は一護の中ではセックス同様。
交わってもいないのに…交わっている。
未だに知る事がないセックスを体感している感じが…やはり嫌だった。

「ん、…んく…っ」

無我夢中で啜る子供の頭を撫でながらなんて扇情的と微笑む浦原の思いを一護は知らない。

「…いやらしいね」
「は、…ん…ん…」
「聞こえてない、か」

今度は浦原の方が苦笑せざる得なかった。

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あきゅろす。
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