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嘘っぱちの星に願いを


後悔はない、伝わるならば、僕に後悔はない。後悔するという気持ちも存在しない。だからキミの記憶を消します。
微笑んだ男から色が消えた。優しかった、一護の知ってる筈の男の色が消えた。そして紡がれた言葉は理解する事も出来ないくらいに絶対零度の冷たさを保っていた。そうして焼かれてしまった耳は暫く溶ける事なく、冷たい氷を貼り付けて音を一切合財遮断する。

「なに、言って…浦原…?」
「違う」

そうじゃないと男は首をゆっくり横に振るう。
見慣れない真っ黒のコートに真っ黒の手袋。金色だけが明るく夜空に輝く。浦原の背景では嘘っぱちな夜空が瞬く、天体観測を日課としていた一護に近付いてきた浦原もまた、星を見るのが好きだとニッコリ微笑んで一護の心に色を刻み付けた。心に刻まれた色の名前は金色。浦原の色だ。
優しく微笑む金色も柔らかく揺らぐ金色も、どれもこれもが全て優しい色に包まれていて、一護が恋に堕ちるまで優しく包み込んでくれていた愛しい色が今、消えてしまっている。

「それは僕の本当の名前ではない。嘘っぱちの星から生まれた僕にはもう、名前はない」

星のコードを紡いだ唇は薄っぺらく、淡々と声のトーンを変えないで言葉を紡ぐ。音の羅列、ただの音と成って出てくる言葉全てに耳を塞ぎたい気持ちに陥った。

「キミに告げた言葉も全て、キミに触れた手の暖かさも全て、全部が全部嘘でした。」
「…ちがう、…」
「ちがわない」
「だって、浦原…違う、よ…うそ、じゃねーよ…」
「いいえ、全て嘘でしたよ。契約者は皆うそつきだ。キミがそう言いました。あの時僕は一瞬、僕の正体をキミが見破ったのかと思った。合理的に判断して、ここで始末しておこうとも考えた。キミは、殺気を読むのが得意なエージェントではなかったの?」

ほろほろ溢れては漏れる言葉の洪水に耳が痛がって悲鳴を上げる。冷めた金色の中をどんなに探ろうともかつての優しい色彩は根こそぎ失われている。なんでだよ浦原。軍で鍛え上げた精神がボロリと崩壊していく。きっとこれこそが男達の組織が望んでいた顛末だったのだろう。
かつて頭上を占めていた壮大な空はもう無い。頭上に瞬く全ての星と言う星、そして夜空に朝焼け、夕暮れに夕立色の色は全部嘘っぱちで出来た代物らしい。軍隊に所属していた一護が研究室から持ち出した資料は全て借りていた小さな家と共に燃やされた。二人で一年暮らしていた家を、躊躇もせず燃やしたと、男は言った。
違う、お前は浦原じゃない。

「ええそうだ、僕は浦原喜助ではない」
「…心を…」
「そう。僕の能力は心を読むこと」

そして対価は、そう言って差し伸べられた手の平。頭を掴んだ掌にかつての男の温かさを思い出した。
あ、消えていっちゃう。
初めて出会った高台、熱帯夜にしては静かだった高台。夜空の星と共に降り出した通り雨、ザアザア唸る雨音、そしてずぶぬれの二人。
二人で見上げた夜空に瞬いた星、嘘っぱちでもこんなに綺麗に輝くんスね、笑った浦原の横に寝そべってその心地良い声を子守唄の変わりに聞いていた。
一年住んだ家。小さいながらにも庭がついていてそこにはブランコもあった。春の木漏れ日が温かい日には二人で庭に出てランチを楽しんだ。
夜、じゃれあいながら交わしたキスには確かに愛が詰まっていたはずだ。
うらはら、うらはらうらはらうらはら。
掴まれた手に縋ったまま、一護は呼び続けた。何度も何度も、心を読めると彼は言った。きっとそれに嘘はない。だって契約者と言うのは嘘つきで酷く合理的だからだ。自分にとっての利害を瞬時に見分ける事が出来る合理的人種。人間としての尊厳と感情を引き換えに能力を授かった人種。星から生まれた、生まれ変わった人間。
お願いします。

"あ、ホラ。星が流れたよ一護さん。願い事しました?"

嘘っぱちの星が流れると言う事は世界のどこかで契約者の一人が死んだ事を示している。そう、書類には記されていたが優しい浦原は照れ臭そうにロマンティックな言葉を一護へ吐き出した。
優しかった浦原。優しい笑顔が心底好きだった。お前となら、いつか絶対に本物の星空を眺めることが出来るって信じてた、夢たわ言を信じる子供だと笑われたって良い。なんだって良い、もうどうだって良い。
浦原。
神様。
お星様。
どうか…どうかどうか、ああ…っ、どうか!
パラリと、男の背後で星が夜空を走った。その瞬間を、一護の瞳は捕え、その瞬間、一護の心は熱く燃えてそして切に願っていた。そして切に、切に、流れる可哀想な星に縋ってしまった。
最後の涙が頬を伝い、冷たい涙が男の手を濡らして、そして嘘っぱち夜空に新たな星を生み出した。
最後に、彼が人間らしい感情性でもって放った言葉の欠片は確かに男の冷たい心を貫き溶かした。













救いようのない顛末をキミに贈る

◆DTBを見直して衝動的に書いた話ですがDTB見た人じゃなきゃてんで話しが伝わらない話しになりました!反省!是非!是非ともDTB、Darker Than Blackを見て欲しいです!欲しいです!欲しいのです!(三回目)

meru




あきゅろす。
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