[携帯モード] [URL送信]
74


隣にはろくでなしの幼馴染がいる。外面と愛想笑いがべらぼうに上手な2つ年上の彼は外面の良さだけで黒崎家一員に好かれていたが、長男でもある一護にだけはありのままのろくでなしっぷりを曝け出すから毛嫌いされていた。

(side:ろくでなし)

彼がまだ中学に上がる前までは好かれている自信があった。いつだって自分の後を小さい足でちょこまか着いてくるおチビさん。オレンジ頭に、夏にはお似合いの麦藁帽を被って「きすけおにいちゃん」と呼びながら満面の笑みでやってくる。
部屋の窓は向かい合わせで、顔を覗かせれば勉強机に座る彼の横顔が見える。近いようで遠い距離。高校に上がった彼はもう、目を合わせてはくれなくなった。

(side:被害者)

あ、カーテンが閉まってる。
隣の家の2つ年上の喜助さん。中学に上がるまでは一護の良き兄として尊敬もしていた2つ年上の幼馴染。彼がろくでなしだと知ったのは中学の2学年になった頃。
小さい頃は良くこの窓とあの窓を通して話しをしていたのに、彼が高校に上がってからあの窓にはブルーのカーテンがかかるようになっていた。
女の声がする。小さい小さい、か細くて切なくなる声があのブルーのカーテン越しから聞こえる。彼と彼女がどんな行為にふけっているのかとはっきり分かったのは二学年の最後ら辺。
アタシがアタシの部屋でナニをしているか、知りたい?
未成年の癖にろくでなしの彼は煙草を吹かしながら、あの窓に肘をついて言った。
知りたいなら、また昔の様においでなさいな。玄関から入ってきて。
誰もそっちへ行くなんて一言も言ってないのに、言い放った後、彼はカーテンを思いっきり強く引いて閉じた。ブルーのカーテンが再び閉まる。ブルーのカーテンが、…なんだかそれが彼に拒否られている様で腹の煮えくり返る思いを味わった。
だから、彼の策だとも疑わずにノコノコと彼一人しか居ない部屋へと上がりこんでしまったのが運の尽き。

(side:ろくでなし)

作り笑いも世渡り上手な外面も全てが疲れたのだと言えば信じてくれるかしらん。
軽々しい口を叩いた所で昔の様に彼は微笑まないだろう事は浦原には分かりきっていた。
ミンミンジリジリと煩い初夏の午後、夏休み中で今から出かけるのだと言った彼は少しだけ髪の毛が伸びてるように感じられた。久し振りに顔を合わせて言葉を交わしたのに、無愛想な彼の態度に少なからず怒りを覚えた。
暑さと外の煩わしさ、そして彼の変わらないオレンジに酷くイラついて甘い言葉を投げつけてはノコノコとやってきた甘ちゃんの彼を散々に犯した。好き勝手に、男だからと言う理由だけで手加減なしに抱いた。そしたら困った事に具合が良かった。女以上の快楽を齎す彼の体に軽く嫉妬した。ああ、キミはこうしてアタシをダメにしていくんですね。馬鹿な事を思って、真夏の日光を遮るカーテンから漏れた青色の光がオレンジへと照って綺麗だと場違いながらに感じた。
それから以降、気まぐれに彼を呼びつけてはカーテンを閉めて抱いている。

(side:被害者)

女も抱くくせに相変らず男である自分をも抱こうとする彼を心底軽蔑したし、心底哀れんだ。あんたなんて弄んだ女共に刺されて死んじゃえばいいんだ。最高の文句を思いついても吐き出さないのは音に成した途端に幼稚になってしまうから。
一護さん遊びましょう。それが彼からの合図、なんて健康的な台詞が似合わない男なんだろう。
いやだね。それが俺の幼稚な拒否の言葉。いい加減、ボキャブラリーの貧困さに自分でも呆れてしまう。拒否を示せば彼は必ずにっこりと微笑んで妹さんたちに言っちゃうよ、って言うんだ。
なんて卑怯な言葉がお似合いな彼。
従うフリで彼の部屋に上がっては声が掠れるまで抱かれる始末。酷いときには縛られたりもした。あんなに痛かった行為が今では失神しそうになるくらいには気持ちよくて…時間をかけて俺はあんたの完璧なオモチャに成り下がったみたいだ。

(ろくでなしな恋)

ろくでもない恋を知ってます。二人はとある約束から雁字搦めな関係になりました。夏のある日、二人の糸はこじれにこじれて互いの小指をポキリと折ってしまいました。そこから赤い糸、青い糸、白い糸、黒い糸、灰色の糸と随分様々で色とりどりな色の糸が溢れ出して二人の体をぎゅうぎゅうと締め付けました。
二人はこれをろくでもない恋だと呼んでました。
互いの色のついた糸が見えない二人が見る色は暗い部屋の影だったり、オレンジ色の夕焼けだったり、白の雪だったり、ブルーのカーテンだったりとそれはそれは沢山の色彩のブルースでしたが、彼らにはちっとも絡まる糸が見えていなかったようです。それ故のろくでなしな恋と皮肉にも表現しておりました。

ろくでもない恋を知っています。二人はもつれにもつれた糸で引き寄せられて、体を合わせて、時間を過ごして夜と共に秘密をも共有しました。互いの息遣いを知り、互いの熱を知り、互いの暖かさを知り、互いのキスの仕方をも知っているくせに、互いの気持ちだけは知ろうとも見ようとも覗こうともしませんでした。
ブルーのカーテンが春の風に吹かれて靡いたある日、ろくでなしの恋ははたと終わりを告げました。
彼が泣きました、それはもう子供の様にワンワンと大泣きです。どうしてしまった事でしょうか、きっと彼は自身が自身に吐き続けていた嘘の重さに耐え切れなくなって泣いてしまったんでしょう。
スキなのに、なんでこんな酷い事するんだ。と今更に不平不満を彼は彼へと投げかけました。そこからはもう、スキとキライの連発。
スキなのに、キライキライ。こんなお前は嫌い、大っ嫌い、好きだからキライ、嫌いなのにスキ。
まるで呪いのようだ、春の風はそう言って彼のオレンジ色をふよふよと小さく揺らしました。呪いの様な愛の言葉が彼の心臓をぶち抜く音が確かに聞こえた時にこのろくでもない恋は幕を閉じたのです。
キラキラ、キラキラ。千秋楽を飾るにはとてもじゃないが幼稚な煌びやかさが彼の瞳からほろりほろほろと零れ始めました。透明な雫に彼の金色が反射してしまいます。それをみた彼はピタリと泣くのをやめて彼をただただ見つめていました。ろくでなし野郎が流すには少々、綺麗過ぎる涙だったのです。
彼は震える声で言葉を慎重に紡ぎました。たった二文字の言葉を繋ぎ合わせるのがとてつも無く心に痛いのだと、心が泣いてそれが涙になって溢れ出たのです。
だから彼は泣いてしまいました。初めて、彼の前で涙を流してしまいました。
互いに泣いてしまった彼らへと吹く春風はまるで…そうまるで、桜の花びらをちらちら散らすための優しい暖かな風でした。
こうして彼らはろくでもない恋から遠回りを経て、やっと卒業する事が出来ました。















ろくでもない恋の千秋楽




第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!