触れてみても良いですか?吐き出した警告音 手に触れてみれば、分かる様な気がした。 彼の手は不思議だ。男にしては華奢で指が長くて綺麗な手をしているのに、あの手が刀を握ればたちまち鋭さを倍増させる。刀が怖いんじゃなくてあの手が怖い。 もしかしたら指先が刃になってるのかもしれない、だなんてバカな事を考えるくらいには、一護は浦原喜助の手に翻弄されていた。 だから冒頭の文が脳内を駆け巡った。 ちゃぶ台を挟んで向かいに座りだらしなく肘をつきながら新聞を読む浦原を見る。 手に顎を乗っけながら然程興味なさそうに活字を追う瞳はきっとこちらの視線に気付いている、なんてあざとい。見て見ぬ振りを演じるのが上手な男に構わず一護はじとりと顎が置かれた手を見た。 「なんスか?」 漸く言葉を発した浦原は一護を見る事も無くそう告げる。 不躾に眺めている事が不快だっただろうか?初めはそう思ったが、彼の声色が普段のソレと変わらずに耳へと入り込んできたので少なからず安堵する。 なんですか?何か用ですか?なんでそんなに見るの?どーとでも捉える事が出来る問いにふと首を傾げる。 なんと問われればそれもそうだ。 何を思って彼の手を眺めていたのか、広げたノートの上にペンを置き、一護も浦原を真似て卓上に肘をついた。 「手、触っていいか?」 「…手?」 ゆっくり、新聞の活字を追っていた金色がゆっくりと一護を見た。下から流れるように動いた金色が嫌に艶かしい。この男はとことん読めないなあ、そう思わせるくらいには彼は自由気侭。 流れる視線を臆せず、"そう。手"と無感情に言い放つ一護を見て浦原も"子供って読めないなあ"と思った。 こんな手でよければ、どーぞ。 新聞を捲っていた左手を目前に差し出せば子供はまじまじと差し出された掌に視線を落とす。 触って良いか?と聞いておいて先ずはじっとり見つめる。なんだかくすぐったい。彼の琥珀色が掌の皺一本一本を舐めるように見ている事がくすぐったいのに不思議と嫌な気はしなかった。 じとりと眺めて数秒、今度はぴとりと子供の指が触れる。 指先一本一本を今度は丁寧になぞる。皮膚と皮膚がくっつく感触が今度はリアルなこそばゆさを感じさせた。 掌の中央、窪んだ場所に置かれた人差し指の先がツツーと皺を辿って中指の付け根へ触れてそれから流れる様に指先の腹をなぞる。 「くすぐったいっスね」 「嫌か?」 「…嫌かと問われたら……微妙っス」 ふーん、空返事をする一護の瞳は浦原の手に集中。その瞳を追って浦原の金色は一護に集中した。 「やっぱ長いな」 「なにが」 「指」 「そう?」 「合わせて良い?」 今度は肩から力が抜ける感覚を味わう。 触れても良いか、に続いて合わせても良いかと子供は律儀にも聞く。そんなの、別に…許可を得てする事だろうか?何が楽しいんだこの子は。脳内で巡る疑問符の応酬がほとほと浦原を疲れさせるから、小さく溜息を吐きながら良いっスよと許可した。 ピタリと合わさる手と手。付け根からきちんと合わせて指を揃えてくっつける。皮膚越しに子供の体温がじんわりと滲みこむ感覚が酷い。やっぱり子供体温だね、なんて言う茶化しは喉元で殺されて呼吸と共に飲み込んだ、だって子供の目がやや真剣だったから。 「やっぱ…大きいのな」 あまった指の第一関節。一護の手は決して小さくないはずなのに、合わせてみれば見て分かるように浦原の掌が大きかった。大きいというよりは指が長い、綺麗に揃った指先、けれど小指だけが少しだけ内側に曲がっている。 「曲がってる」 「ああ…くせですかね?」 「癖?」 心なしか内側へ曲がって変形を見せた小指をちょいちょい動かして浦原も自身の小指をまじまじと眺めた。 「筆を持つときとか、刀とか、煙管とかね。きっと無意識の内に小指だけが内側に曲がるんでしょうね。良く気づいたね?」 アタシだって気付かなかった。 苦笑を見せながら浦原が言う。自分の事なのに、自分の体の事なのに男は良く気付いたねと笑う。なんだかそれが妙に気恥ずかしかった。だってだって…これじゃああんたばっか目で追ってるって気付かれてるみたいじゃんか。意識せずとも一護の頬にうっすらと紅が乗り、これ以上目を合わせられなくて反らす。視線を反らしたと同時に合わせていた手も引っ込めようと微動した、したがそれは簡単に束縛と言う形で阻止されてしまう。 ひんやり冷たい彼の指先がキュっと一護の手を握った。長い指先が指の間を通り、手の甲を包み込むみたいに繋がれる。文字通り、大きな浦原の手は一護の手を包み込んだ。 「へえ、意外にちっちゃい」 「…あんだよ、普通だ。あんたのが指が異常になげえんだ」 「すべすべしてますね」 「へ、変態っぽいその発言!」 「そう?」 まじまじと手を眺めていた金色の瞳が再びゆっくりと動いてこちらを見る。そう?あっけらかんと言ってのけた男の声と吐息が手にぶつかって暖かい。 彼の手に触れれば何かが分かるかと思って触れた。触れて分かった事はそんなに冷たくないと言う事、いつだって冷たい眼差ししか得られなかったから、きっと温度までも冷たいのだろうと思っていた彼の手は少しだけ暖かかった。そしてやっぱり大きかった。未発達な自身の手が小さく感じられるくらいに、彼の手は大きくて(少しだけ暖かで)そしてなによりもちゃんと男の人の手をしていた。 だから、触れてみてますます分からなくなった。 一体全体、この摩訶不思議な感情はどこからどうやって湧きあがってくるのだろうか。 俗に言う恋人繋ぎをした手に心臓が移ったみたいにドクドクと忙しなく高鳴る。ああダメだ、この男は人一倍勘が鋭い。だからダメだ、気付かれてはダメだ。気付かれては… (一体、何を?) 「一護さん」 「っ!」 「手、汗かいてる」 「離せばか!」 見た事のない眼差しに、触れた事のない温度に翻弄され、恥かしさがハタと舞い戻ってきて乱暴に繋ぎ目を解いた。 あなたが触れたいって言ったのに、意地悪く言った男の顔は拝んだ事のない極悪非道そのものの笑顔だった。 触れてみれば分かると思った温度が曖昧すぎて、彼という人間がもっと分からなくなった ◆お手ておさわり原作ver浦一。浦原氏の手は大きいと萌えるって言う話し。あと、一護さんの手は刀握ってるくせにぷにぷに柔らかかったら尚萌えるという話し。 |