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「うそだろ…」

ヤンキースショップの看板は嫌でも目に付く様に装飾されている。USAマークが施されたマジック帽にスティックがついてる看板がテカテカとマンハッタンを彩っている。街中酷い混みようだったが、店の横で待つ分にははぐれなくても良い、そう思っていたのが数分前。馴染みが居るコーヒーショップに入り二人分のホットドリンクを購入して戻ってきた浦原を迎えたのは数人の若者達だけ。
え…一護さん…?
なんで居ないんだ、紙袋を片手に持ちながらキョロキョロ辺りへ視線を張り巡らすも目印となるオレンジ色は周辺には居ない。
時計を見た、残り数十分でカウントダウンが始まり、その10秒後にはハッピーニューイヤーだ。
テレビでしか観た事ないから生で観てみたいんだ。一護がそう言うからレストランの予約をこっそりキャンセルしてここまで来たと言うのに…。
この中ではぐれてしまえば一巻の終わり。二人で2013年を迎えたい浦原にとっては絶望的にも思えたが落ち着けと自分自身に言い聞かせて深呼吸ひとつ。
コートのポケットにしまったスマートフォンを取り出してコールする。
RRR,RRR.
相手が取るまで、覚悟してかけるが2回目のコールで取ってくれた事に安堵した。

「ごめん浦原!はぐれた!」
「良かった…帰ったかと思ったんですからね」
「んなわけあるか!そっち向かう!でも…人が!」
「一護さん、どこらへんまで流されちゃった?」

電話越しにざわざわと人の声、そしてカウントダウンを盛り上げるBGM、街のざわめきが一斉に入り混んでくる。きっと電波も悪くなっているに違いない今の時間帯では電話は長く続けるわけにはいかないかも、浦原が焦り始めた時、一護がうわ!と叫び声をあげたのが鼓膜を貫いた。

「大丈夫!?」
「ご、ごめんな…ちょいこけそうになって…あ!マック!マックがある!」
「…そこまで流されたの?!」

しまった、反対方向だ。
きっとこちらからだったら中央区辺りだろうと踏んで足を向かわせていたが一護の言葉に踵を返して汚いアスファルトを蹴りながら足早に人ごみをかき分けて進んだ。
道路規制のされた今では車道にもわんさかと人が溢れている。残り10分弱、腕時計を見ながらも手元の袋を人にぶつけて零さない様に支えながら移動するとマクドナルドの黄色いロゴがでかでかとそびえ立つのが数歩先で見て分かった。

「一護さん、電話、切れてない?」
「あ、大丈夫!」

後少しでつきそうだから店前で待て、そう告げようとした浦原の背後から軽快な音楽が流れ始めた。
うわ!このタイミングで!?
良いんだか悪いんだか分からないタイミングに浦原はdammit!と柄じゃ無い言葉を出して電話向こうの一護へと告げる。

「一護さん!もしかして車道側とかに居ない?」
「え?なんで分かった?」
「はは…that is kidding…さいあくだ、今からそっち離れて!」

車道側、その真ん中に居た浦原も移動しようと足を進めるも電話向こうの一護は「え、なに、なにこれ!」と大袈裟なパニックを示してみせた。
まあ…初めて体験する事だから仕方ないか。ホールドアップして見せる浦原の周りにはわらわらと人が集まり始めてる。
軽快なポップミュージックはボリュームを更に上げて夜空へと流れる。聞いた事のあるメロディに観光客は一斉にカメラを準備し始めた。
まず初めに三人の男女がメロディに乗ってリズムを刻む。ステップワンツーステップツー、タップを踏んでみせた三人を見て周りの人間も同じようにリズムを刻み始めた。

「浦原!なんだこれ!」
「あー……フラッシュモブです」

ニューヨーカーには馴染みのニューヨーク名物となったフラッシュモブ。
ネット上で集められたダンサー達が公共の場で音楽をかけて踊り始める。踊るだけならストリートダンサーだと勘違いされやすいがフラッシュモブの場合は集められたダンサー達が普通の通行人や待ち合わせ中の人、電話中の人など一般人に化けている。一人が音楽を流し踊り始めた所で徐々にダンサーの数を増し、まるで一般人が一心同体になって踊っているかの様に見せるのだ。いつどこで何時何分に始まるのか予告なしの舞台設置とダンスは世界的にも有名になった。
何もこんな日にしなくったって…浦原は頭を抱えるも、この日だからこそ名物は名乗り出てやってくるもんだろう商売繁盛!と頭の中で悪友がコーヒーマグ片手に騒いでいるのが想像出来て更に頭が痛くなった。

「ちょ、浦原!浦原!車道から出れない!」
「はい、アタシもそう…」

時既に遅し、フラッシュモブの渦中に居てしまったが為に周りはダンサーだらけになってしまった。道を塞がれたばかりかミュージックが大きくなって電話越しの一護の声も小さくなってしまう。
これは…終わるのを待つか?
未だどこに居るのか分からない一護を見つけられずに2013年を迎えるのは嫌だ。諦めずに辺りを見渡す。フラッシュモブに巻き込まれているならきっと近い筈。

「…チっ、GPSつけとけば良かった…」

小さく舌打ちしたら電話越しの一護がwhat?と聞いてきたので何でも無いと告げて考える。
これはもう…諦めるしかないか?
自問自答したと同時に後方から人がしゃがんでいくのが見える。ウェーブだ。

「一護さん!そのまま何があっても立っていて下さい!」

しゃがんでいくダンサー達を見て浦原が電話越しに叫ぶ。

「え?なに?」
「そのまま!ステイ!」

浦原の後方と目前のダンサー達が揃ってしゃがみこみ、視界が徐々にクリアになり始めた。現在時刻はシンデレラタイムの五分前。後方を振り返り目当てのオレンジが居ないのを確認して前方へと体を向け、スマートフォンを持ちながら沈んでいくウェーブを見る。
一斉にカメラを持ちフラッシュモブを撮影していた観光客の視線は浦原に集中した。嫌でも目立つからだ。
しゃがみこむダンサー達の群れの中で唯一立っている人物。なんだ彼は、人々がざわめきだしたと同時に浦原はア!と小さく叫ぶ。
彼の視線の先、同じように突っ立ったまま電話を片手に持つ青年がキョロキョロと辺りを見渡している。

「一護さん!」

彼が叫んだ。

「浦原!」

名を呼ばれたであろう青年も叫ぶ。
やっと見つけた一護の後方から元のスピードを保ったままダンサー達が一斉に立ち上がって逆のウェーブが出来上がるのが見てわかり浦原は駆け足でダンサー達をかき分けながら一護の元へと近寄った。
浦原、浦原!すげえよ初めて見た!フラッシュモブ!とやや興奮気味に笑い、近づいてくる浦原に腕を伸ばしてる所を見ると再会の感動よりもまず先にフラッシュモブが見れた事に感激しているらしい。呆れて苦笑しながら近づき、伸ばされた腕を取って引き寄せた。

「うわっ」

よろけた一護の体を支える様に抱き締めて耳元で良かったと呟いた。キュ、力を入れて抱き締められて一護も応える様に抱きかえしながらごめん、謝る。
恋愛映画にありがちなポップミュージックをバックにダンサー達は立ち上がり、ミュージックが途切れた瞬間、一斉に両手を上に上げた拍手喝采を貰っていた。
フラッシュモブが終わった後は何事も無かったかの様に皆、引いていく。再び騒がしくなった街のざわめきがよりいっそう大きくなって浦原と一護は笑いながら車道を出た。
2013年を祝うカウントダウンが聞こえ始めたのはそれから2分後、間に合ったなあ間一髪って感じ?ホットチョコレイトを美味しそうに飲む一護のホッペをつねりながらニッコリ微笑む。

「もう迷子にならないように」
「…らって、こんなひほいっひゃいらっておもわな」
「LAと違うんスよ?ここはニューヨーク」

むくれ面の後で素直にsorryと言ってのけた一護の頭を撫でてから二人もカウントダウンに参加した。

「スリー」
「ツー」
「ワン」

A Happy New Year!!
至る所で歓声が響く、頭上からは色とりどりの紙吹雪が舞い寒空をカラフルに染め上げている。ハグする人も、キスをする人も、仲間と腕を組む人も、隣の人とハッピーニューイヤーと言い合う人も、それぞれが好きに2013年を迎え入れているのを見て一護も自然と笑顔になる。

「おめでと」
「はい、おめでとうございます」
「素敵な年になると良いな」

Lovely yearsだ、イギリス訛りの英語で言ってニカリと無邪気に笑んで見せた一護に浦原は鼻のてっぺんをかきながらポケットから黒の小ぶりなギフトボックスを取り出して渡す。
なんだこれ、受取ながらも小首を傾げた一護の耳元まで唇を寄せて囁いた。
"Will you marry me?"
照れくさそうに囁く浦原の顔を間近で見て、金色がやけに真剣に光るから一護はコクリと生唾を飲み込んだ。
そうっと同じように今度は浦原の耳元まで唇を寄せる。
"Yes, I will"
小さな小さな返答はバックミュージックを全て消し去って浦原の鼓膜を強く揺さぶった。

「…やばい…キスしたい…」
「家に帰ってからな!」

ハグまでは許すけどキスはダメ!また笑った一護につられて浦原も小さく笑うが、本能にだけは逆らえないので代わりにホッペへ小さなキスをした。
驚いて目を見開く一護に向けて悪戯っぽく笑ってみせる。











In New York,
Concrete jungle where dreams are made of,
Theres nothing you can’t do,
Now you’re in New York,
These streets will make you feel brand new,
Big lights will inspire you,
Lets here it for New York, New York, New York.



◆バイバイ2012年、コンニチワ2013年!
A Happy New Yearです^^新年明けましておめでとうございます。去年はお世話になりました、今年も妄想爆裂で進んでいきたいと思います^^今年もどうぞ、hyenaとmeruを宜しくお願い致します。
May the Year2013 be excellent and totall awesome!
BGM:Alicia Keys/Streets Of New York.
2013/01/01
hyena:meru




あきゅろす。
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