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アタシのナイト様は身長150センチの男子中学生。
近くの空座中学二年生の14歳、来年で15歳そして受験戦争に片足突っ込む一歩手前の男の子。6つも年が離れている男子中学生は一等の一に守護神の護で一護だと変声期前のあやふやな声でぶっきらぼうに言った。
数十pも背丈が変わる子供に助けられてからと言うもの、何かと心配されて付きまとわれる始末なアタシは今年で21歳製薬会社研究員局長。肩書きは立派だが研究員生がたまたま空いたポストにすっぽり収まっただけ。なんとも味気ない出世をした物だと幼馴染みに笑われたのを記憶してる。
朝の8時からタイムカードを押して夜の0時まで居残り続けて研究に没頭、もとより研究が3度のメシよりも好きだと言うのが手伝って苦とも思わないでいたが、久し振りに町に出た瞬間に厄介なのに絡まれて危うく集団リンチを受けそうになった時に現れたナイト様は剣道着のままで格闘ゲームばりの技を披露し、ばったばたと悪者基地元のヤンキー連中をなぎ払ってくれた。
終いには地面に尻餅をついて唖然としているこちらに膝を突いて手を差し伸べてくるナイト振りを披露。

「大丈夫か?オッサン」
「ごめんなさい、意義ありっす。オッサンじゃない、まだ20代っす」
「おいおい20代のくせにヤンキーに絡まれるとかトロイな、あんた」

差し伸べる手は紳士的、だけど言葉は攻撃的。それがアタシのナイト、黒崎一護さんとの出会い。

*******

まだ数ヶ月しか経ってないのにこのザマかよ、浦原は天を仰いでそう思いながら威嚇する様に紫煙を空へ吐いてみせた。
何様だ貴様!とその咥えた煙草も叩き落とされて挙げ句に頬を平手打ち。打撃は拳には劣るがパアン!と気持ち良いくらいに鳴り響く音が鼓膜を突き破りそう。普通に痛いし…、平手打ちと言うか最早張り手の容量であるその攻撃に首は横を向いたまま尚も青空を視界に入れていた。
やあだこれ、ヤンキーに絡まれていた方がまだマシー。と心の中で今ドキの女子高生口調で気を紛らわしたとしても目の前に広がる最悪な風景は変わらずリアルとしてそこに広がるから疲労を増加させて背中にのし掛かる。

「あのですね夜一さん、」
「おいてめえら、何してんだ」

黒スーツ集団の中央でパーフェクトボディを黒のタイトスカートと黒シャツで完璧に正装しながらも腕を組んでふんぞり返る美女に声をかけたその時、タイミング悪くも浦原の背後から飛び出した声におそるおそる振り返る。
どこかで見たヒーロー映画みたいだ。真っ赤な夕焼けをバックに背負って黒の学ランが影をアスファルトに落としている。靡く髪の毛は力強いオレンジ色で、正義感の強い眼がギラリと光って獣みたいだ。

「…あちゃあ…」

浦原は咄嗟に項垂れて痛む眉間を指先で押した。
今、キミに登場されちゃあ話しがややこしくなるなあ。本音は言えないで飲み込む。凄く、ニコチンが欲しい、と言うか安息が欲しい、研究室に戻りたい。浦原の心情を知らずに一護はズンズンと浦原の隣を通り過ぎ、スーツ軍団の前に立ちはだかる。
ニンマリと笑って八重歯をちらつかせているどこかの女王様と対峙しても子供はびくつきもしない。逆に射殺す様一直線に姫君だけを射貫いている。ニヤリと姫君が物騒に笑った。

「一護さん、ちょっと…一先ず引きましょう…」
「なあおい、おばさん。コイツになんか用かよ?」
「喜助ぇ、この小僧はなんじゃ?大層な口を叩くなあ」
「一護さん!お口が下品ですよ!謝りましょう!彼女は30代です!貴方からしてみたらオバサンですけどまだ…って痛い!!」

すかさず真正面から飛んできた黒のヒールが額にクリティカルヒットした、目前に有り得ないけれど星が散る。一護の前に立ちはだかってメンチ切った砕蜂が可愛らしい足に似合わないごついヒールを脱いで浦原に投げつけたのだ。ぐるるるる、喉がそうなる程に彼女は今怒っている。

「一護さん!危ない!」

主人の顔に泥を塗ったであろう輩に彼女の牙は容赦無い。充分に知っている浦原だからこそ一護へとそう叫んだが、彼女の牙の方が断然早く一護のみぞおちを貫いた。鈍い音と唸り声が小さく響いた後に一護の体が正面から飛んでくる。それを両腕でキャッチ、項垂れた一護の表情には今まで見た事の無い苦痛が浮かび上がっている。
ケホっ、小さく咳払いをした一護を見て浦原の中のスイッチがオンとなった。
一護の頬を撫でてからゆっくり顔を上げる。真っ直ぐ、一直線に、先の一護と同じ動作で、けれども瞳に込められる殺意は先程の数倍。金色の瞳を見て夜一以外の体がぶるりと震えあがった。

「義姉さん、殺しますよ」

低くて通る声だ。今まで誰も耳にした事が無いんじゃないかと言う具合の声色に一護は片目を閉じながら浦原を見上げた。まだ、酸素が足りないと体は悲鳴を上げている。喧嘩相手はそこら辺に転がっているヤンキーか同じ年の連中ばっかりだった、たつきと組み手をしたときもこんな打撃を受けた事はない。本物だ、あの女の殺意ある蹴りはおままごとのそれではない、確実にこちらを再起不能にする為だけの蹴り。
ケホっ、またひとつ咳が出た。浦原がちらりと視線を移す。
オッサン、なんて顔してんの…
笑いたいのにあばら付近が痛んで上手く言葉も発せられない。これ…何本かいっちゃったか?確かめようにも経験が無いので自らの手を脇腹に持って確かめようとしたらその腕を取られた。

「ダメ、動かさないで。」

優しい声が耳元で聞こえる。ハっ、と息を吐けば今度は泣きそうな表情で見下ろされた。柄じゃない、心配されるのなんて柄じゃないのに、どうしてだろう…この人の泣きそうな顔はいやだ。
先程まで殺気だらけで物騒に光っていた金色が切なく歪んだのを一護は見た。痛みをこらえて浦原へと伸ばした手を優しく取られる。

「…ご、…め」

絞れるだけ絞って出した声は自身でも驚く程に掠れて酷い音質だった。上手く言葉にならないじれったさと痛みで眉をしかめる。
ごめんって謝るのは僕の方だ。
優しい声がまた聞こえたけれどそこで一護の意識はフェードアウトした。
目を閉じて力が抜けた体を負担をかけずに横抱きにする。そしてもう1度向き直って夜一を射貫いた。

「話しは後で聞きましょう。気が向いたら電話下さい」
「喜助ぇ、良いナイトを持ったじゃないか」
「うるせーんですよ、今後この子に手を出してみなさいな、八つ裂きにしますよ。そこのお嬢さんの可愛らしい足、ズタボロにしてあげますから」
「出来もせんことを。言うようになったなあ、なあ?喜助坊や」
「アタシを誰だと思いで?」

にんまり、褐色肌が印象的な彼女と同じ笑みを見せた浦原に誰も近寄る事が出来ない。笑い方が下品だと何度も2人して怒られていた幼少期が頭を過ぎるが、今は怒りと殺意でいっぱいっぱいの頭は人体の切開図を瞬時に反映させては急所を赤丸で囲っていた。ああ、ダメ、こんな感情ではダメだ。横抱きにした一護の額にキスを贈ってバイバイとかつての家族に別れを告げて踵を返す。
マッドサイエンティストが。背後から数々の罵倒が聞こえたが吠えてる犬には興味がないとその背中は語っていた。














アタシの小さなナイト




あきゅろす。
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