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ディナーコース、セントラルパークは上品だった。運ばれた4品のコースの中で最も浦原の舌を驚かしたのはバターナッツスカッシュのスープとプリザーブドパンプキン、濃度の高い糖分糖液で煮たパンプキンがとろりと舌先に甘味を味わわせ、バターナッツスカッシュのスープが温かく胃を癒やしてくれる。
メインディッシュの茨城産常陸牛サーロインのグリルも絶品、柔らかくグリルされた肉の旨味が肉汁と共に口内へじんわりと沁み渡り、赤ワインの酸味に合っていた。
最も、一護の場合はデザートに目がないので食後に出されたハワイ島コナ産コーヒーのムースとマスカルポーネアイスクリームを大絶賛して浦原の分まで食べたくらいだ。お行儀が悪いですよ、とからかっても上品な甘さに舌鼓を打つのに忙しいらしい彼の耳に揶揄は届かない。子供みたいな彼にひとしきり笑った後、2人でゆったりとコーヒーを飲みながら夜の大都会が生み出す夜景を見た。
時計の針は早い物で19時を示している。そろそろ出るかと一護がカードで支払いを済ましているのを珈琲を啜りながら見て子供じゃないんだよなあと当たり前の事を胸で感じた自身に嘲笑した。
一介のステージモデルの自身とは住む世界が違うんだな、思ったら何故か面白くない。男と言うのはこういう所でダメだ、相手よりも優位に立っておきたいだなんてクソつまらないプライドが感情よりも先に出てしまう。行儀悪くもテーブルに肘を付いて顎を乗せ一護をじーっと見る。
サインをする右手、万年筆を挟む指先は男なのに綺麗。笑った時に出来るえくぼも可愛い。男だけど柔らかく厚い唇は時々あざとい具合でアヒル口になったりもするからその唇を食むのが好き。柔らかいほっぺたに触れるのも、整髪剤のついていないサラサラな髪の毛を梳かすのも、二重の瞼にキスを贈るのも、体に触れるのも全部全部好き。

「やばいな」
「なにが?済ませたよ、帰ろうか」
「ご馳走様です」
「いえいえ、お待たせしちゃって」

2人で席を立てばすかさずウエイター達がコートを持って準備していた。どこからどこまで…最後まで完璧なんだな、不慣れな浦原とこういう世界に躊躇なく綺麗に収まる一護。
コートを着込んだ浦原にはあの花束が手渡されてウエイターからは良い夜をと最後の挨拶まで貰った具合だから本当にニューヨークに移動してきてしまった感覚を味わう。
男二人で食事、そして贈り物の花束、11月22日。揃ったピースがぴったりくっつき合わさって見事なハートマークを描く。あーあ、この人って悪い意味でも良い意味でもオープンだよなあ。2年前に拾われた後、その一年後には恋人として関係を築き、今日まで持続している。飽き性な自分が良くここまで続いているもんだ、感心して三つ星レストランを後にした。

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「め、目立つな…ソレ」

買って渡した手前、浦原の整った容姿に真っ赤な薔薇の花束がプラスされては人目を引いて悪目立ちしてしまっている事にレストランを出てから気付いた一護は隣を歩く浦原と花束を交互に見て言った。

「自分で持たせたくせに」

四方八方から集まる好気の視線に晒されても尚、平然とした面持ち。流石モデル、と慣れない視線に居心地が悪くなった。

「こういう視線に弱いっすね本当」
「ダメなんだよ…お前が見られてるってのが本当ダメ」
「なにそれ、ジェラシー?」
「や、違うな…なんつーの?劣等感?」

BMWのキーを指先で遊びながらアヒル口でぶつぶつ言う一護に浦原は立ち止まって眉間を指で摘み押しながら笑いを押し殺す。

「れ、…劣等感とか…っ。く…くく…っ、大企業の専務が…一モデルにれっとうかん…れ、くくくったまんない…っ!」
「笑うな!」

顔を真っ赤にさせ、浦原の二の腕を小突きながら廊下を渡る。
すれ違う女性陣は勿論の事、ホテルマン、受付嬢、男性客まで、きっとこのホテル内にいる人間なら1度は視線を奪われてしまうのではないか、大袈裟だがそう思えてもおかしくないくらいに浦原は目立つ。
身長だって一護より8pも違うし、均等に付いた筋肉は美しいボディラインを生み出す、イギリス人とのハーフでもある顔は文句の付け所がなく整って逆に嫌味だし、鮮やかな金髪が人工的ではないからとても上品。
神様って不公平だよなー心中で思いながら尚も唇を尖らせて未だに笑いから抜け出せない浦原の脇腹に小さなパンチをお見舞いしてやった。
いたたた、だなんてへたっぴな演技で脇腹を抑えている浦原を放置して回転ドア前に移動された車を確認して外へ出ようとしたが腕を取られたので振り向けば不意打ちでキスされた。
頬にならまだしも、唇だ。
くっついた唇を隠す様に薔薇の花束が目前に迫る。けれど視界は浦原でいっぱいになった。とくん、ひとつだけ唸った心臓が唇の感触と冷たさを味わった瞬間にどくんばくんと破裂。
嘘だろ…呟く間も与えられずにフレンチキッスが深くなった。

「んっ!」

まさかこんな公共の場でキスされるとは思わずに不意打ちのキッスに一護の体は強ばって施される慣れた愛撫をいつも通りに甘受した。薔薇の強い香りが鼻を刺激して浦原の舌先が粘膜越しに刺激を与える。鼻にかかる自身の声で脳内で警告音が響いた。

「ばかばか!ばか!」
「おっと、危ない」

これ以上目立たない様に小声で抗議して顔を真っ赤にしながら胸を押しやった。
よろりとわざとらしく体制を崩した浦原を人睨みして足早にドアをくぐり抜ける。
車前で待つホテルマンも、回転ドア前に立ったドアマンも呆気に取られたアホ面で見てるから居たたまれなさが増幅して一護は早々に車に乗り込んでシートベルトを着用、浦原が助手席に乗り込んだのを合図にエンジンを吹かして走り去った。
怖くて後ろなんて振り返ってられない。

「も…あのホテル使えない!」
「あはは!!」
「笑うな!ばかたれ!」

尚も大笑いをしてみせる馬鹿に今度こそ牙を向けて吠えたらすかさずホッペにキスを施されてうぐうと唸ってしまった。
年下の彼の方がこういう事には長けている。一枚上手のプレイボーイに絆されてから早二年、気付けば毎日の様に彼に惹き付けられている。

「一護さん、知ってた?今日が何の日かって」

車内で流すBGMは小粋なロック、先程のレストランとは打って変わったメロディが夜のドライブを色鮮やかに染める。
隣で意地悪く笑った浦原からは嫌な予感しかしないが一護は無言で首を横に振った。
それから含み笑いと共に吐き出された言葉に危うく急ブレーキを踏みそうになったから手に負えないなあだなんて溜息吐いて帰路に付く。
車の中で施したキスは計10回以上、数えてしまう自身にも呆れてしまった11月22日の夜、大都会の人工的光は今日も変わらず目の前に広がっていた。














好きが倍増する夜に早変わりした2年目の記念日


◆良い夫婦の日11月22日!^^うらいち百景のハルナさんとツイッターで盛り上がったのは良いがmeruはすっかり23日が良い夫婦の日だと勘違いしてました^^なんで23日だと思った私。
専務一護さんとモデル浦原さんのラブラブ夫婦記念日をテーマに書いたけど一護さんがとても重役に見えないわ30代に見えないわで最終的には笑うしかなかったですハハ。最近のブームが薔薇の花束なので色んな場面で出てくるな…が今回の反省箇所ですね、もっとこう色んなシチュエーションを想像出来る様になりたいです。ここまで読んで頂けて嬉しいです^^ありがとうございました^^
meru




あきゅろす。
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