62 白のタキシードなんて人生で初。 少しだけ裾が長い一護のタキシードとは違って浦原のは短めで腰辺りで終わっている。いつもは互いに細くて足のラインが分かるくらいのスキニーを履きこなしているが、今は少しだけゆったりめのズボンを履き、お上品にも真っ白なスカーフを襟元で巻いている。 ポケットの中には小さくも愛らしいパステルカラーな花をさし、持たされた白の手袋を持って二人して並ぶ。 シャンパンをどうぞ、礼儀がなっているウエイターはにこやかで優しい笑顔を残して去った。 「ピンクロゼだなんて」 「ちょっと奮発しましたね。その代り最高なサービスを受けている」 にんまり顔の浦原はオールバックにした金髪のままでグラスを傾けた。 一護も呆れた溜息を洩らしてその仕草に習い傾ける。チン、華奢なシャンパングラスが軽くて上品な音を奏でる。シュワシュワ中で鳴る音も上品に聞こえてしまうから、何から何まで普段の自分達とはかけ離れているなあ、だなんて思っておかしくなって一護は笑った。 生粋のロックンローラーの一護はいつだってエンジニアブーツをカツカツ鳴らし、年中無休でイメージカラーは黒とメタリック一色。 浦原に関してはIT企業者らしくカジュアルルック。夏は暑いからという理由だけで日本からわざわざ取り寄せた下駄を履きこなしているから変わり者として社内ではある意味の評判を背負っている。要はずぼらなのだ。ファッションよりもメカニックが得意中の得意で一日中パソコンに向き合っているから視力がすこぶる悪い。それなのに、黒縁眼鏡のブランドだけはシャネルってところがなんだか気に食わない一護はNYの方で何店舗か店を構えるファッション界の若きデザイナー。 そんな二人が出会い、恋に落ちて数年目の六月。 ここまでくるのに何度か別れはあったものの、なんとかここまでやってこれた。 二人で手と手を取り合い、つなぎ合い、心を合わせて。二人三脚でやってこれたのは白一色のチャペル。 都内でも有名なチャペルのイメージカラーはロックンローラーの一護とは正反対であり、ファッション業界云々の情報にはてんで疎い浦原にも正反対な位置に属していた。 そんな二人が今日、結婚する。 「お前ってオールバック似合うな。初めて知った」 「そうっすか?」 「な、今度さファッションウォークあんだけどさ」 「モデルは嫌っす」 「えー…なんで?身長たけえし、意外にがっしりしてるし…ギークにしとくの勿体ねえよ」 「余計なお世話。つーかギークってなんだギークって!僕は心底コンピューターを愛してる。ただそれだけの話っす」 「…それがギークだっていってんだよ」 化粧台に行儀悪くも肘をつき、頬を膨らましながらぶーぶーぶー垂れる一護を見て浦原が笑う。 5歳年下の彼は出会った時もそうだったが野心だけはいつだって燃えていて、その炎が熱くも彼の瞳を焦がしている。なんて綺麗な琥珀色なんだろう。久しぶりに思う。 燃える様なオレンジ色の髪の毛と、琥珀色、優しい色彩が今は白一色で綺麗に包まれて統一感を出していた。 東洋の血を濃く受け継ぐ彼のオリエンタルな香りより一層、白と言う純白をイメージさせる色に包まれているからこちらの欲求を膨らましてしまうな。浦原は柄にも無く自分が抑え様のない欲望に包まれていることを自覚して再び笑った。 「あんだよ」 「ハハ、…いえ。ねえ一護さん」 「ん?」 「キス、しよっか?」 「はあ?…まだ駄目だろう」 「え、なんで?」 「…これからするから」 「キミってば、フ…かなり乙女思考」 「うっせえ!大事にしたいの!」 「ふふ、ならフレンチキスじゃない方にしようよ」 「え?」 とびっきりいやらしいキス。しよう? そういって笑った男は普段はこちらが焦れるくらいに淡白な癖に、時折箍が外れたかのように男を見せる時があるから一護はぐぬぬと呻ってしまうのだ。 ああこんちくしょう!お前のその瞳に俺はべらぼうに弱い! ギラリと光った雄臭い金色の瞳に根負けして貪るようなキスを互いに仕掛けた時にタイミングよく入ってきたウエイターはきゃあ!と黄色い声援をあげて一足早いコングラッジエイションを叫んでは二人の永遠の愛を祝った。 ホワイトチャペルで乾杯 |