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雨とキャンディクッキー甘い世界


カラッカラに晴れてた空が午後の訪れに癇癪起こして曇天モードになった事とか、雨の香りにつられて癖っ毛の髪の毛が跳ねたとか、そう諸々の事が積み重なって浦原の心を少しずつ荒らしていく。決め手としては彼の一言、「火曜?無理だな、遊子がケーキバイキング行くらしくって連れて行くんだよ。なに?予定でもしてたっけ?」頭の隅からすっかりデートの約束を消去して電話口でくああと欠伸までもした無神経な恋人に危うく携帯電話を握り潰す所だった。
彼がまだ小学生の妹を猫可愛がりしてるのを知っている。彼女が彼と同じく甘い物好きで上手にマドレーヌを焼ける事も知っている。母親を亡くし、妹達は自分が守らなければと馬鹿兄丸出しな一護が妹達を優先する事も全部全部知っている。にしても、それにしてもだ。

「しっつこいなあアナタ達も…っ!」

こう言う日に(不機嫌最高潮)限って血の気の多い馬鹿達はこぞって勝目の無い喧嘩を売ってくるから鬱陶しくって冷静さを取り戻していた心を乱暴に乱してくれた。
1対5じゃあ些かアンフェアじゃねーの?思っては居てもどうにもならない気持ちを解消させるにはもってこいなサンドバック。大歓迎、とにんまり不敵に笑んで最後の一人に右ストレートを決めた。
ドサリ、地面に伏せた相手を見るまでも無く不機嫌な空を仰いだその瞬間、タイミングを見計らって空が泣いた。
サアアアア、降り注ぐ小雨とグレイの色。
誂えたかの様な風景にいつぞや観た映画のワンシーンを思い出した。フ、口角が歪んで体の良い椅子に腰を下ろす。うう、椅子が呻いたから最後の一撃とばかりに全体重をかけて座りなおして黙らせた。
土と血で汚れた白シャツの胸ポケットからソフトタイプの煙草を取り出して一本抜く。ひしゃげたフィルターシガレットは火をつけた瞬間に口内に出来た傷を痛ませる。
ちくしょう、小さく呟いて空を仰ぎ睨んでも不機嫌な空は泣きやむ兆しを見せやしない。

数日前に親が勝手に借りたマンションで(世間体の良い厄介払い同然だ)二人っきりで映画を観た時も彼の手には甘ったるいクッキーが、夜にアポ無しでドライブに連れて行った時も夕食後のデザートを食べたばかりだった彼とのキスはチョコレートの味がした。
まだ片手で足りるくらいしか行っていないキスも、無理やりに奪った乱暴なキスに比べたらとてつもなく甘い。黒崎一護はどこもかしこも甘い。
人にも妹にも動物にさえも甘いからこちら側が苦労する一方。
騙されないかな、あの子。二つ年下の彼に向けて悩みの種が何個も何個も積み重なる。太陽の様な鮮やかな色彩に、太陽の様に眩しい屈託のない笑顔、その裏でちらつく蛇のような笑みを持った男が白と闇を背負ってにんまり厭らしく微笑む。
あーもう、本当頼むよ。
再び訪れるモヤモヤ感が胸に積み重なって紫煙をフーっと一息に空へ吐き出した。
チリリっ、切れた口端が痛みを伝える。
空は泣きわめいて空のグレイを輝かせる。

「甘いのは嫌いだなあ」

呟いた言葉が出来た真新しい傷よりも深く心を抉った。

「…おい」

空から声が降ってきたと思った。
サアアアと雨が鳴る、グレイはいやらしくも雲の切れ間から光を見せて晴れるのを期待させる。
振り返ったその先に立つ黒の学ランとオレンジ色の鮮やかな色彩。それに似合う黒の傘。
不機嫌だけどもどこか後ろめたいと感じさせる声色。
フ、浦原は笑うだけで突っ立ったままの一護を無視して再び空を見上げた。

「雨降ってんぞ」
「……」
「風邪引くだろうが」

5人の他校生が転がる中、風邪を引くはなかろうて。再びフフと、彼に気付かれない様に笑いながら紫煙を吐き出す。

「…浦原さん、」

あ、その声好き。
一護は何か後ろめたい事がある時だけサン付けをして浦原を呼ぶ。

「……ごめん…」

きっと本当に忘れていたのだろう。それでケーキバイキングに妹と行って食べてる時か食べた後で気づいたのだろう。それで、きっと。
…必死であちこち探し回ってくれたんだろうなあ。
フ、今度は自嘲気味でも無い笑みが浮かんだ。

「ごめんな…すっかり忘れちまってさ」
「……一護サン」
「え、なに?」

煙草を咥えたまま振り返って笑ってみせる。

「アタシにお土産は?」

ケーキなんて甘ったるい物もチョコもクッキーも浦原の口には合わないのにそう聞いてみせたら慌てた様にポケットを探って小さな袋を出す。

「えっと、クッキー。好き?」

サアア、泣いて喚く空の音が小さくなってきた。

「ええ、甘いのは大好き」

短くなった煙草を捨てて数センチ低い傘の中へと屈んで入って目の前で笑ってみせた。
ホ、目に見えて安心した様子の一護はハハと笑って甘い香りを浦原へ振りまく。
ああ、甘いなあ。
思えば傘に当たる雨音が強くなってまるで世界にたった二人のワンシーンが出来上がった気がしたから距離を縮めてチュっと軽く唇を奪った。

「…ちょ、」
「あ、一護サン甘いね」

バカヤロウ、不貞腐れた様に言ってのけた年下の彼氏は頬を真っ赤にして唇を尖らせた。
天然に甘く見せるのが上手な彼にいつしか荒ぶった浦原の心が晴れた。それでもまだ空は泣いている。グレイの色彩が空に広がっている。でも甘い世界が傘の中、直径数センチの範囲で広がっていた。




















甘い世界

◆久しぶりに学生ヤンキー物の浦一です^^やっぱクローズを見ちゃうと書きたくなりますね!でもちょっとだけ長くなりそうなんで今のところは敵さんチームは出しません。まだまだ温めておくヤンキー浦一。書きたい場面がたくさんあってもう!meruの頭の中はまだまだお花畑です(通常運転中)ここまで楽しんで頂けたら幸いです^^




あきゅろす。
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