61 ドガーン!ドガーン!ゴロゴロピッシャン!ゴロピッシャン! 怒る。空が怒っている。 荒れる。空は荒れる。 心を乱して、叫べない毎日を悔やんで、ああなんだ!叫ぶって楽しい!って叫んで荒れる。 空が乱れた時に聞く家鳴りなんてもうとにかく凄い。 がたごとがたごとがたごっとん!ぎったんばったんぎたばったん! ポルターガイストでもおこったのかってくらいに酷いからこっちの心までびくびくソワソワしてしまうから、心臓がいくつあっても足りないって思ってしまう。思って、またおっこちた雷にビクリとして隣のぬくもりに寄り掛かる。 ん?どったの。ああ…雷。怖い? 眼鏡をかけて本を読んでいた彼が優しく問う。 サイドテーブルのランプだけを灯して、余分な電気を消して。テレビの青白い光と、ランプのオレンジ色の光で染まった室内。窓の外から入り込む不躾な青白い光は一瞬にして影を濃く生み出すから怖い。 それでもなんだか負けた気がして悔しいからブンブンと首を横に振って恐怖もなぎ払おうとした。 ドガーン!ドガーン!ゴロゴロピッシャン!ゴロピッシャン! がたごとがたごとがたごっとん!ぎったんばったんぎたばったん! 「っ!」 浦原の小さい体が恐怖ですくむ。 少しだけ肌寒くなってきた秋の夜。ブランケットに包まれて大きなソファに座ってホットチョコレートをちびちび飲みながら映画を観るサタデイナイトに今夜は物騒な嵐がプラスされていた。 がたごとがたごとがたごっとん!ぎったんばったんぎたばったん! どこかでなにかがうごめく。 テレビの中ではしゃぐディズニーアニメの主人公達は悠長に冒険をし始めた。 現在時刻は午後の8時、そんなに深い夜では無いのに空が荒れているからどっぷり闇に浸かった心地を味わってしまって更に恐怖心を幼子心に植え付けた。 ドガーン!ドガーン!ゴロゴロピッシャン!ゴロピッシャン! ビクリと震えて体を寄せる。 ぴったりくっつくのにも関わらず怖くないとグリーンアイズは勝ち気に光った。 なんだか思いだすな〜、大人な彼は幼い頃の自身を思い出してくふりと含み笑い。 「ね。俺…ちょっとこわい…」 読んでいた哲学書をそうっとローテーブルに置いて、小さい体に縋った。 「怖いの?一護さん」 「ん…雷、怖いよ…」 「ふーん…」 ドガーン!ドガーン!ゴロゴロピッシャン!ゴロピッシャン! びく! 小さな胸に蹲った頭。一護の肩を抱きしめた両腕が震えた。 ドキンドキン、どくどくばっくん。 心臓部位にピタリとくっつけた耳から聴こえる鼓動が半端ないリズムを刻んで鼓膜を震わせても、一護は知らん顔ですりすりと頭を寄せ付ける。 「怖い…。なあ、キスして欲しいな」 「え。」 「ここ、チュってして欲しい」 計算付くに上目使いをして見上げるグリーンアイズは少しだけ恐怖色に染まってはいるが、今は雷そっちのけで一護の琥珀色に夢中。 人差し指で左頬を指してにっこり笑った後に眉を下げてみせる。 してくんないかな。キス。だって怖いんだ、あの雷。空が荒ぶってるのが何よりも怖いから。キス、してほしい。 寝る前にはいつだってしてるグッドナイトのキス。 「一護さんにも怖いものがあったんだね」 「フ、大人だって怖いもののひとつやふたつあるんだよボーイ」 「…仕方無い大人だなあ」 急に大人びた笑いを見せて、浦原は左ほっぺと右のほっぺにひとつずつキスを贈る。 そして三度目のキスは額に。 前髪をかきあげて額を出す手草はなんだかいやらしくて大人は再び含み笑いをひとつ。 空の彼方、どこかの空で雷がまた光るも、子供は甘え始めた大人に夢中で恐怖なんて物の見事に床下へ投げ捨てた。 ああ、本当に怖いのはお前がこの腕から飛び出してどっかにいっちまうことだよ。 本心を隠して大人は暖かい子供の体をギュウっと抱きしめる。 At tempestuous night |