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雨の音がして窓から外を見た。ぽつぽつ降り出した雨粒が適度なリズム、そして速度を保ってサアアと音を成して窓を打ちつける。dotdotdots,単調に刻まれたリズムにメロディを奏でて誘うから、一護は立ち上がり窓の前へと立って空を眺めた。薄い灰色かかった空の切れ目からうっすらぼんやり見える青空が雨粒に光を当てて綺麗、窓にぶち当たって弾けて流れる雨の筋も綺麗で指先でそうっと撫でて遊ぶ。ツツツー、ガラス越しに触れてみた雨粒が音も無く流れんとするのを指の腹で追う。真夏に降り注ぐ雨はアスファルトの熱を冷まし、蝉の煩い声も静めてくれるから好きだ。好きではあるがやはり嫌いでもある雨の音を何となしに聞き流して、何となしに指の腹で雨の筋を追った。
コツン、窓ガラスに触れた何か、そして目の前には黒の着物と白の羽織りを装着した浦原喜助が妙に真剣な面持ちで現れた。ああ、びっくりした、突然現れんなよ。憎まれ口を窓越しに伝えるも、きっと外の彼には聞こえていない。だって、dotdot雨は煩いからだ。
眉間に似合わない皺を寄せて緑色の瞳をギラリと光らせる。雨に濡れない霊体の癖になぜかしな垂れた金色の髪の毛は灰色を反映させて曇っていた。未だに触れたガラスの温度が手のひらから伝わってきて、外の彼の温度に似てると感じれば自然と口角が上がって声もなく久しぶりと彼に告げる。きっと口の動きだけで言葉を読み取ったに違いない薄情な男はやはり眉間に皺を寄せながらも悲しげに瞳を光らせてガラスに手を這わした。
ツツツーっと流れる雨の筋が浦原喜助の手をしっとりと濡らす。ガラスに触れているのにまるで透明を隔てて彼の温度がこちらに伝わってくる感覚がしてビクリと心臓が揺れた。数年しか経ってないと言うのにまだこの体は彼の体温を覚えている。やたら熱くて夏の日には手も繋ぎたくない程の子供体温な彼の温度を嫌っていた筈なのになぜこうも忘れる事なく寧ろ欲してしまうのか、不思議ではあったが内側の彼はただただ困った風に笑んでいるだけで微妙にこちらと視線が合わないことが酷くもどかしい。透明なこのガラス、きっと彼の琥珀色は透明を通り越してこちらを映しているのだろう。アタシの体、透けていますか?アタシの目、ちゃんと見れてます?あなた、アタシの事ちゃんと認識している?ねえまだアタシが見えますか?飲み込んだ言葉のなんという残酷さ。ツツツーと指の間を流れた雨が鬱陶しいのに夏の雨は冷え切っていて体温調節が出来ないでいる。心地良いのに鬱陶しいだなんて。

「ねえ、泣いているの?」

告げた言葉の先にある窓ガラスが自身の声を反響させてドッドッドと打ちつけては唸った雨音にかき消された。ガラス越しに黒崎一護が居る。いつの間にか合わさった二人の掌からは昔の様に安易には温度を感じられずに、ただ二人の間に見えない壁を産みつけた。
流れる雨の粒が黒崎一護の頬を流れる。泣いている、泣いているのだ彼は。雨の音がいやらしく笑って浦原の耳を煩わせた。一番悲しい事を知っている筈の彼は泣いていないのに自分はなんて不様なのか。
彼が流す筈だった涙をこの指は掬いあげる事が出来ずに真夏の雨はやっとこさ終わりを告げて青空を世界に咲かせた。
























このLINEを超えた向こう岸で君が笑う




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