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Blackmagic2


子供は時に我儘で残酷な生き物だと大人は心中で思う。
まだまだ大人の境目を越さない彼の腕はほそっこく不器用な華奢さを醸し出しているから折れてしまうんじゃないかと危惧してしまう。危惧するからこそ、大人は力を弱めてしまうのだ。
不安気な子供の甘い琥珀色はあの子にそっくりでたまに昔の幻影と重ねてしまう。
きーちゃん、彼女だけに呼ばれていた間抜けなあだ名は最初の内こそ嫌いだったが、呼ばれ慣れてしまえば次第に好きになっていった。
彼女の声、彼女の笑顔、彼女の怒った顔、なきじゃくる顔、静かに涙を落す時のその涙の流れる所までいつしか惹かれていっていた。あんなに焦がれて、今でもこの子に面影を見るくらいには愛してる筈の女はもうこの世には居ない。最後の時まで彼女の中で自分の立場は可愛い弟だったくらいだ、病床に伏せった彼女の隣には毎日のようにあの男がいた。仕方のない事なのだコレは、とクールぶり心中深くで思い押し潰して殺した。彼女が消えてなくなるあの時までずーっと。そして自身が朽ちるまでずーっと、この心は彼女に囚われたままなんだと人生の半分を諦めて過ごしていた筈なのに。浦原はここまで物の数秒で感じた後に困惑している一護を見た。
カフェから無理矢理引っ張り出して車に押し込んで自宅へ連れ込んで、玄関を閉めた後で思いっきり強く後ろから華奢な体を抱きしめていた。どうするんだ喜助、これで後戻りは出来ない。後頭部辺りから責めるような自身の声が響くが心はそれどころでは無かった。だって、彼女が消えてしまうんだ。あの屈託のない一番好きだった筈の笑顔が、いつの間にかこの子の笑顔にチェンジしていたんだ。

「浦…原さんっ」
「……」
「まただんまりかよ!…なあ、なにこれ…こええよ…」

うっかり本音を出した子供の声と体が震えている。
彼に恐怖を与えんとする自身の抱擁に自分自身が震えているのにも気づいたら後なんてもう無いのだと諦めが付いて更に強く抱きしめた。
数十センチ違う彼との身長差、でも…いつの間にこうもでかくなったんだろうなあ。考えてはフフと気付かれない様に笑んだ。

「一護さん、恋をしたことは?」

一護の体が面白いくらいに震える。
わざと耳元に囁きかけた声色はとびっきり甘くて低い声で囁いてやったからだ。きっと彼はこの声を知らない。

「ねえ、恋をしたことは?」

答えを急かす様に再び問えば、震えた小さな声でナイと答える子供にフと笑う。

「なら、恋って言うのはどういう事だと思う?」
「はあ?」
「恋をするとどうなるのかって聞いている」
「っ!……ど、ドキドキする…とか?」

一護の心は今、正に震えていた。怖がっていた、言葉遊びが好きな彼とのゲーム。彼が質問してそれに一護が答えるなんてことないゲーム。正解も不正解も無い、彼がただナンセンスだと思えば不正解に近いし、面白い見解だと思えば正解に繋がるゲームが、今はなんだか怖い。
もし、ここで一護が不正解へと繋がる言葉を発したのなら彼の興が削がれて今後一切、彼との関係が無くなってしまうのかと思えば怖かったからだ。
なぜにこうも自分は恐れるのだろう。もう無くなってしまうんだと思った瞬間に、心が痛くなってしまう。きっとこれは恐怖に近しい感情だ。ドキドキには程遠い心の動悸だ。

「……まあ、そんなところでしょうね」
「あ……まっ、」

待て、と制止までかけようとしていた。背後で抱きついた表情を伺えない男の顔が安易に想像出来て心が焦り始めたのだ。
離れていく体温、先ほどまであんなに強く抱きしめられて熱いとさえ感じていたものが容易く離れていってしまう感覚に心底怯えた瞬間、自分はこの男を失いたくないのだと認めてしまう。なんてことだ、これは恋だ。まぎれもなく、今、目の前にきて手を差し伸べて不敵に笑んでいるこの意地悪な大人に、自分は恋をしていた。

「アタシはドキドキなんてのはただのデフォルトに過ぎないと思っている。アタシが本気の恋をする時は…そうだねえ、世界が全て敵に回る感覚に陥る。もう、この人だけだと決めてしまったら、世界は自然とアタシの敵になるんだよ一護さん」

なんて、なんて乱暴な目で、そして優しく笑むことが出来るんだろうこの男は。
乱暴に光ったグリーンアイズと優しい笑顔がマッチしていない。
この男の恋は危ない。後頭部からくる警告音が一護の体を麻痺させるのにも関わらず、手は浦原の差し伸べた手を取って、ゆっくり家の中へと足を踏み入れてしまっていたから不思議。きっとこのグリーンアイズに囚われてしまったのだと気づくには全てが全て遅かったみたいだ。
後ろで閉じてしまった扉はもう二度、開くことはない。














恋をしている筈なんだ、乱暴でいて不器用なまでに一途な恋を、とグリーンアイズが優しく語った
BGM:Magic Wands/Black Magic




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