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Definition of equal happiness


「サンタさんは来ないの?もしかして……お兄ちゃん、サンタさん?」

幼くも若干震えて出された声色に、ああ今日はクリスマスか。だなんてぼんやりと思った。

「…そうだよ、プレゼントは持ってないけど……キミ専用のサンタさんになるよ」

極力優しい声で言う。
蹲りくまのぬいぐるみをぎゅうっと抱き締めた少年の前に屈みこんで柔和に笑んだ。
蕩ける様な琥珀色が薄暗闇の中、やけに綺麗に光っていたので少年は心の中がほっこりと暖かくなった様な気がして照れてしまった。
凄く、暖かい。
さっきまで氷みたいな冷たさが身体のあちらこちらを突き刺して痛かったのに。今ではそれが嘘の様に暖かくて心地良い。

「プレゼントは……そうだなあ……あっちで貰えるかもな」
「あっち?」

そう、あっちでママが待ってるからな。
冷たかった頬に暖かな温度が触れ、瞼がトロンと重たくなる。もう少し眩い色彩を発光させているオレンジ色の髪の毛を見ていたいのに……落ちてくる瞼が対照的な黒を誘い、暖かな色彩を消し去った。

「………」

黒崎一護は細かな粒子が舞うのをしかと琥珀色の瞳に焼付け、宙に舞った小さな小さな粒が消えて全て無くなるまで暫くの間眺めていた。
斬月を使わないで良かった。
心中で思いながらホルスターに装備されている愛銃を指先で撫でる。
この部屋には光りの漏れる隙間なんて無く、辺りに蔓延るのは全て黒い闇だと言うのに。一護の前で舞っている粒子はキラキラと美しく光り輝く。まるでイルミネーション。成る程、クリスマスには相応しい美しさかもしれない。ちょっとロマンチストな事を思った。

季節は冬。誰も彼も、街も国も、もしかしたら世界でさえも。この時季には気分を弾ませ幸せな気持ちになるのだろう。
年中無休の死神業、与えられた地区内をせかせかと駆け巡るお仕事。
その為、現世のイベントにはとんと手をつけないし見向きもしないが、先程浄化した少年の魂が散り行く様を眺めていたら心なしか寂しいクリスマスソングが鼓膜を揺さぶった。
そうか、仕事三昧で忘れていたな……。

「……クリスマス、ねえ……」

黒のダウンジャケットに黒のスキニー、黒の皮ブーツに黒いベレッタ。どっからどう見ても自身の格好はサンタクロースだなんてファンタジーめいた物とはかけ離れている。




「お疲れ様」

すっかり草臥れ廃墟と化したアパートから出た後、耳に入った透明でやや低い声に一護はゆっくりと前を見た。
まさに今の自身と同様な格好をした男が暢気に煙草を吹かし、停めていたVFRに凭れ気だるい動作で右手を上げたのに対し一護もコキリと首を鳴らした。
お互い、外気の凍てつくような寒さを感じる事は無いが、現世での仕事が主な両者にとって、ずっと霊体で居る事は困難に等しいので敢えて義骸に入り仕事をこなしている。
夏は半そで、冬はトレンチコートかダウンジャケット。人間から見てもちゃんと人だと識別できるような風体で現世に居座って早半年は経過していた。

「なあ……」

短くなった煙草を道路脇に捨て、最後の煙を吐き出した男は目線だけで「なあに?」と告げている。
金色の中に薄く光る緑色がちょっとクリスマスっぽい。
手渡されたヘルメットを受け取りながら唇を子供っぽく尖らせた。

「サンタさんって、言われた…」

吐き出した台詞も随分子供っぽかったのでトレードマークでもある眉間の皺を濃くしながらヘルメットのベルトを調整する。そんな俯き加減の一護を眺めた後、男は小さく笑い、一護の顎を人差し指で撫で上げた。

「今日だけの特別キャンペーンって所っスね。」

猫を愛でるみたいに撫でる指先がくすぐったくてそのまま顎を上げ真正面から男を見上げる。
フ、と再び笑いながら最後にひと撫でした後離れていった指先からはブラックストーンの甘くて苦い香りがした。

「……じゃあお前はトナカイってとこだな」
「えー?トナカイっすか?…うーん……なあんか納得いかないなあ……」

今度は男の方が唇を尖らせたので一護は笑いながらヘルメットを被った。
ヘルメットの色も真っ黒で男が愛用するバイクも黒。
サンタクロースからも……況しては天使からもかけ離れた色だよなあ。
一護は小さく思いながら凍てつく寒さを彩った様な黒い夜空を見上げた。


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