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7萬打

浦原喜助がソサエティを追放になって、もう二度、この地を踏む事なんて出来ないと知った時からこうして時々、浦原喜助の為にソサエティまでお遣いする様になった代行死神の少年が一人、細長い歪な椅子に腰を下ろして足をぶらぶらと子供宜しく揺らしながら技術開発局にて暇を弄んでいた。
浦原喜助から頼まれた書類といくつかの研究道具を倉庫へと取りに行った阿近を待っている間は極力、静かに何にも触れずに(きつく浦原から言われているのを従順に守って)、それでも視線はキョロキョロと珍しい機械が並んだ部屋を一通り眺めている。
そんな退屈そうな一護の姿を見て、局の中では一番下っ端のリンがお茶と白衣のポケットから取り出したポップな包みにくるまれたラムネを一護に差し出している同時刻、倉庫の中を億劫そうな動作で頼まれた品々を探していた阿近はテーブルの上にある筈の色とりどりな包みにくるまれた物体が無いのを見て、一瞬唾を飲み込み、駆け出した。

「黒崎!食うな!!」
「へ?」

ゴクリ。阿近が放った言葉に驚き、口内に含んだ物質を飲み込むまでそう時間はかからなかった。それが黒崎一護現在15歳の悪夢の始まりだった。





頼んだ書類は過去自分が研究していたのをまとめた2冊の書類で、研究道具はどれも小さな物だから危険も無いし、重量も無いから時間はそんなにかからないだろうと浦原は踏んでいたのに、アチラ側に行ったきり、お遣いを頼んだ子供は数時間経っても帰って来ない。
誰かと遊んでいるのだろうか?訝しげに思っていた浦原だったが、その瞬間、子供の不安定で小さい霊圧を感じ、背後の門が開く音を聞き、そちらに顔を向けた。

「おかえりなさい、遅かった………ってあれ?阿近さん?」

久しく見た部下の隣に俯いた状態で浦原とも目を合わせない一護をその金色に収めて、浦原は知らず知らずの内に眉を潜めた。


数時間前、ソサエティ技術開発局にて。
幾分かぶかぶかになって歩き辛くなった死覇装を引き摺り、一護は自分の体が軽くなった感覚と、はだけた胸元に違和感を感じて阿近の言葉を信じられないと言う様な目つきで聞いていた。

「……は?」
「いや…だからな、さっきリンがお前にやっただろう?菓子」
「うん……で?あれが………は?」
「待て、落ち着け黒崎」

一目に混乱しているのが分る一護を目の前にして阿近は頭を抱えた。
リンが自分のポケットの中に入れたのは菓子でもなんでもない、劇薬だ。しかも現技術開発局長涅マユリが自らの手で生み出した劇薬。厄介な物。それをテーブル上に放置したまま存在を忘れた局長も局長だが、それを知っていたにも関わらず厳重な保管をしていなかった自分にも責はある。
時間が経つに連れて一護の表情が変わっていく様に阿近自身も手に汗を握る。
元から長かった睫が更に長くなり、その大きな瞳に影を作る。華奢だった体のラインがなだらかなくびれを作り、その艶かしいラインが目に毒だ。
子供独特の声から、女性特有の声に変わり、サイズの合わなくなった死覇装の胸元がはだけ、そこから鎖骨が露になる。唯一の救いは彼、いや、今は彼女と呼ぶべきだろうか?変形した黒崎一護の胸がBカップにも満たないであろう小さな胸だと言う事だけ。まあ、それも本人からしてみれば大した救いにも何にもなっていないのだが。
心なしか、一護の霊圧も低くなっているのに阿近は気付く。

「……まあ、その…なんだ。……リンには後できつく言っておくが……お前、一人であの人の所に戻って事情説明、出来るか?」
「すんげー自信無い」

だろうな。そう溜息を吐きながら阿近は重たい腰を上げ、白衣を脱ぎ出した。

「局長には後で報告するとして………さ、行くか」

立ち上がった阿近を目で追うと自然に上目遣いとなる事に気付かない子供は不安が詰まったハニーブラウンで阿近を見つめるのだから阿近は必死に無表情を装った。
ああ畜生、俺ある意味で死亡フラグだコレ。
今からあの人に会って事情を説明するだけでも神経を削られそうになると言うのに、このハニーブラウンにも神経を擦り減らされる。取り敢えず、そんな目で見ないで欲しい。

「えと、……取り敢えず立て、黒崎……」
「………お言葉通りに行動出来れば良いのですが……ごめん阿近さん……この服がでかくて歩きづらい……」

一護の身長は175センチから一気に160センチにまでダウン。そりゃあ男性用の死覇装が女性に合う訳が無い。その事実も確認し、阿近は再び頭を抱える。





「……で、その浴衣って訳ですか?」
「着替えは一人でやらせましたよ」
「当たり前だろ」

急に低くなったその声にビクリと肩を揺らせたのは未だ阿近の隣で座っている一護だけ。
阿近の方は慣れたとでも言わんばかりな無表情を保っていて、なんだか一護だけが説教を受けている様な図となる。
全ての事情を把握した浦原はあからさまな溜息を吐き、一護との距離を縮めた。
その瞬間、分る程体を揺らしながら目を瞑る一護を横目に見て阿近は可哀相にと心中で思う。
伸ばされた浦原の手が一護の顎を取り、動脈辺りをその長い人差し指が辿る様に撫でる。一瞬、その感触に背筋がゾワリと鳴いたが、浦原の顔を見れば真剣そのもので、その金色が実験対象、まるでモルモットでも見ている様な目つきが凄く嫌だった。

「ふーん…細胞組織全部変えたって訳?ホルモンバランスもか…何使ったんだあいつ……脳に障害は?」
「今の所ありません。念の為調べてみたんですが、霊圧くらいっすかね。障害が生じたのは」
「うん。確かに、低くなってる。にしても…細胞組織全てって……興味あるなあ」
「さっ、触んな!俺はモルモットじゃねーぞ!立派な被害者だ!!」

浦原の非道とも言える発言に一護の怒りが爆発し、手を叩いたのと同時に、あの冷めた金色と視線が合う。
最初は怒っているんだと思っていたけど、今は浦原が怒っているのか、それとも本当に一護と言うモルモットが気になるのか、どんな感情を持って一護に触れているのかが定かでは無い。
浦原は時々、人として何か大事な物が欠落していると思う様な行動、言語を取る。
それが一護にとっての浦原の嫌いな所だった。

「ああ、そうでした。そうだった。すみませんねえ、つい。で?報告はいつするんすか?」
「今しがたしてきましたよ。まあ、この薬の効果がいつまでなのかも含め、また連絡します」
「急いでね」
「………ちゃんと連絡しますよ、お願いですから無茶しないで下さいよ。あいつだって被害者なんすよ」

小声でそう言った阿近の言葉を浦原は冷めた金色で見るだけで無視した。
そう言う所は本当、変わってないと阿近は思いながら最後に一護に謝って現世を後にする。
阿近の去った後に残された二人。
お互いが嫌な沈黙を守ったまま、一護はちら、と浦原を見る。
男の体の時はそんな大差ないと思っていた身長差も、女性の体になり身長も縮むとかなり高く見える。
浦原は平均をすっとばして高い方だが、女性の視点から見ると少し怖いかも…。と心中で思った。
それは普段のおちゃらけた浦原にだったら感じない恐怖だが、今の浦原は怒っているのかさえも分らない状況なので、変に刺激出来ない。だけど、一護自身、被害者なのだから浦原がその気ならこちらだって!と子供の意地とプライドが変に交じり合い、自ら沈黙を押し通した。
俺、絶対悪くねーもん!
そう思いながら、だけど浦原を直視する事は出来なくて借り物である浴衣の裾をただただ握り締めるだけだ。

「テッサイ」

急に立ち上がった、その動作に驚いた一護が浦原を見ても、当の本人は気にする様子も無く襖を開けて彼の部下である大男の名前を呼ぶ。
少しの間があったが、すぐさま現れた男に何やら告げると部屋の隅に置かれていた愛刀(今は杖だが)を持つ。

「え……どっか、行くのか?」

男の無言の行動に些か腹も立つが、それでも不安感の方が大きくて一護は恐る恐ると言った口調で問う。チラリと横目に金色が一護を映し出すも、相変わらずな帽子の影に隠れて感情が読み取れない。苛々する…。

「ちょっと出掛けます。君はここに居て、何かあったらテッサイを呼んで」
「…………怒ってんのか?」
「…………少しだけ」

それだけ告げれば十分だと言う風に浦原は冷たい空気を纏ったまま、部屋を後にした。
一人残された一護は誰も居ない、浦原の霊圧だけを残した部屋で力無く自分の両膝を抱くしか術はなかった。






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