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なんてタイトルだっけアレ。15歳の主人公が父親にかけられた予言に立ち向かう。ファンタジーなのかメンタリティ溢れる話なのかはたまた推理小説なのか。印象に残っているのはパラレル進行によって語られる二つの世界が混同していた事。後は猫と話の出来る老人。ああ、思い出した。海辺のカフカだ。

浦原は今年で22歳になる。大学も来年で卒業だ。なんとなしに入った文学系大学は予想していた以上に浦原を楽しませた。
講義の最中でも活字を追う事が出来るのだ。遊び盛りの大学生にとっては苦痛でしか無い膨大な量のレポートも浦原からしてみれば頭の中で渦巻く言葉を吐き溜め、保存しておく事が出来るありがたい物。子供の頃から大量の小説、専門書、伝記、哲学、外来諸本、隅から隅まで、それこそピンからキリまで読み上げていた浦原は自分がこれからどの道を辿るのかがうっすらと見えていた。小説家。そうだ、小説家になろう。





「ん……んぅ…」

人は自分の日常に無い非現実を求める習性がある。漫画の世界、小説の世界、映画の世界にドラマの世界。
この世界にはありとあらゆる場面、場所に安易に非現実は蔓延っている。例えば映画館だったり、漫画だったり、書籍だったり、ゲーム機だったり、非現実の形は様々だ。
煌びやかなフィルター越しに見える世界はきっといつまで経っても色あせる事など無い。
視聴者、聴取者、読者、彼等にとってフィルター越しの世界は全てフィクションであり、日常と非現実の隔たりがフィルター(壁)としての役目を果たし彼等にとって非現実を日常から切り離していた。それでも彼等が望む非現実は、目につく簡単な場所にある。存在する非現実(フィクション)を見落としがちである。要約すると、皆非現実に夢を見過ぎなのだ。
ドラマみたいな恋がしたいだとか、映画みたいなスリルある日常を送ってみたいだとか。人其々ではあるが、彼等は気付いていない。常に過ごしている日常の中で垣間見る非現実を、ただ見過ごしているだけなのだ。物語はいつだって人の周りに存在し息をし続けている。
今、浦原の目の前にある現状だって言わば一つの物語だ。

「はっ、……ふ、んぅ……っ」

オレンジ色した派手な頭が揺れる度、その毛質の悪そうな色彩がゆらゆらと揺らめく。まるで炎の様。
ベッドに腰掛けた状態の浦原の足の間に膝立ちのまま、先程から必死で浦原の性器に舌を這わして卑猥な水音を生み出している。時折触れる歯の感触に低く呻く。痛みが快感になると聞いた事はあるが、浦原は基本与えられる痛みは嫌いだ。痛みは与えるからこそ、そこにオーガズムを感じる。
下手糞。ひっそりと思う。口に出して言わないのはまだそこまでの仲では無いからだ。
一夜限りの相手を探しに入ったBARで声をかけられた。
女を愛せない性分だと悟ったのは両親が離婚して直後の事。母親がいつもしている口紅の香りと香水のきつさ、ヒステリック気味に怒鳴り喚き泣き散らかすあの煩わしい声。己の武器だと言わんばかりの胸の柔らかさ。全てにおいて浦原の母親は浦原にトラウマを植えつけてさっさと去って行った。




「…あの、…一人、…?」
「ええ、残念ながら」

おずおず、と言う言葉が凄く似合っている。派手な頭にしては偉く慎重深い所が一目で気に入った。
薄暗い店内で青年の髪の色が眩いまでのオレンジだとは分らなかったが、時々当たるライトの灯りがキラキラと彼の頭上に星を描いたので綺麗だと思った。不機嫌そうに眉間に皺を寄せながらも言葉を選び、発している所はビギナーらしいと思う。だが、目を合わせようとしない所が少々癪に障った。

「君も見るからに一人って感じですけど?」
「…あ、……うん…一人…」
「そう。良かった。もし一人じゃなかったら妬いている所でしたよ。何か飲む?奢りますよ」

ぐい、と引き寄せた腰は細くて布越しでも分るそのラインに手の平が馴染んだ。然程浦原と年齢は変わらないであろうその青年は終始ドギマギとしていて、およそ夜の世界に慣れていない風に見て取れる。きっと彼は朝が性に合っているであろう。だってなんだかガキ臭い。
ホテルに入る時までも互いに名乗ろうとはしなかった。そう、それで良い。干渉し合わない関係が一番手っ取り早くて一番軽薄。浦原の性格にはぴったりのお付き合いだ。




「も、良いよ」
「っ」

これじゃあいつまで経ってもイケやしない。そう言語に含みながら、それでも浦原の神経質な指先は青年の顎をクイっと優しく上げる。口内を犯されたせいで快楽に歪んだ瞳は綺麗に潤っていた。その様を見て浦原は喉元で低く笑う。

「君も辛いでしょう?」

青年が息を飲んだのが聞こえた。
灯りは点いていると言うのにトーンを落とした照明は部屋の隅の汚れまでは映さずに綺麗にフォーカスをかける。壁の色はクリーム色なのか、それともヤニ汚れで色素が沈着したのか知れない色をしていて、それがぼやけて余計に厭らしさを演出をする。
皺の寄っていないシーツ。その上に青年を抱き起こし、埋める。ギシ、小さく唸りを上げたベッド。その音にビクリと震えた肩が華奢だ。薄暗い室内でも分る様に青年の肌は健康的な焼け方をしている。少し赤みが残るその肌はしとりと湿り火照っていて手触りが良い。なめらか、そう形容するに相応しかった。
浦原の指先が肌を伝うに連れ、ゴクリと生唾を飲むその喉仏が動く様を見て浦原の中に燻っていた嗜虐心を煽られ思わず噛み付いてしまう。

「…っ!」
「…ああ、すみません。つい、君の首筋が凄く色っぽかったから。良く言われない?」

そう意地悪を含んだ笑みで問うと、当の本人は顔全体を真っ赤にしながら無言で首を横に振った。何度も、振った。
零れ落ちそうだと思う。その見開いた琥珀色の瞳。甘そうに色づいたそれは口に含んだらきっと甘いだろう。鼈甲飴の様に舌触りが良くて程よく甘いそれは打算的とも言える。

「…は、っ」
「もうこんなんだ。舐めて興奮した?」

再び赤面する。こんなに真っ赤にして、いつか爆発してしまうのでは。そんな馬鹿みたいな危惧をする。様々な表情を持つこの青年がなんだか可愛い。
クク、笑いを殺さずに音に成して浦原はジッパーをゆっくりと下げ、熱を発して形を変えている性器にそうっと触れる。その際に震えた足があどけなく、初心だ。演技にしては自然過ぎる。まさかと浦原は思い、眉間に皺を寄せ青年を眺めた。

「…ねえ、まさかとは思いますが……初めてとか、言わないよね?」
「っ!…ち、違うっ!」

違うと否定しておきながら、その震え方は異常。面倒臭い。そう思った。

「アタシね、初心者だけは相手にしないんだけど……慣れてるなら、どんな抱かれ方されたい?」
「……へ?」

自分でも思っているより優しく、それでも心に後ろめたさを飼っている人間から見たら酷くゾっとする様な笑みで青年を見つめた。

「激しくされたい?それとも、優しく抱かれたい?」


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