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「僕に恋をして」と、なんとも甘ったるい声でその男はシニカルに笑みながら言った。



カメラ越しにキッス



軽いシャッター音だけがBGMの室内はやけにシンと静まり返って居心地が悪い。ワインレッド色の革貼りソファに仰向けで寝転び、頭を手掛けへと乗せ視線は上。多少苦しいこの体制でもカメラ目線になった琥珀は苦痛を映し出さない。
早朝6時起床、7時から某有名ファッション雑誌のロケ。9時半からはラジオ生放送の収録、11時から雑誌の撮影とインタビューに応え、12時からドラマの収録。午後14時に遅いランチを取って15時からはスタジオ入り。16時まで音取りをし、18時から再びラジオ収録。それで20時には写真集の撮影と来た。今がその時間だ。昨日も似たような過密スケジュールだったので流石にこの体制では睡魔が襲ってくる。瞼が落ちない様、目に力を入れて見たらくすりとカメラ越しに笑われた。

「……何?」
「睨まないで」
「……らんでねー」
「眠いんでしょ?」

やっぱりバレたか。と思う。あの金色の瞳には敵わないみたいだ。
彼はカメラ越しに世界を見て、世界を魅了する。一度、彼の視線から世界を見てみたい等とどっかの評論家が詩人宜しく言ってのけるテレビを見た。メディアでデフォルメ化された彼の作品に凄い嫌悪感を感じた事は内緒にしておく。





「今度写真集を出す」
「………絶対ぇ嫌だ」

毎度毎度思うんだが、コイツはいつも主役をのけ者にして事を進めるの上手いな。と一護はマネージャーでもある斬月を見ながら思った。真っ黒い髪の毛は少しパーマかかっていて、無精髭がダンディーねだなんて少しばかり人気がある事も知っているが、SP宜しく常にかけているサングラスだけは外して欲しい。

「出すぞ」
「だからヤダっつってんだろオッサン!」
「なぜだ」
「馬鹿かっ!んな羞恥プレイ!お断りだ!恋次達にでも頼めば?」
「もうヤツ等は出した」
「マジで?」

ロックバンドBLEACHはベース兼リーダーでもある修兵が結成。インディーズからのし上がりデビューシングル「ROST」でメジャーデビュー。バンドの華でもあるボーカルの一護の低く甘い歌声がベースの生み出すスケールに乗り、それをギタリストである恋次が派手に装飾、そしてその上から奇抜なリズム感を持って叩くグリムジョーのドラムがデコレーションする。
結成3年と言う異様なスピードで有名になった彼等だからこそメディアが放っておく訳が無い。それでも、一護は少しだけ不満だった。音楽がやりたくてバンド組んだのに、今ではやれドラマだとかラジオ放送とか、ファッション雑誌とかしまいにゃあ写真集だと?俺は音楽がやりたいんだ。歌いたいんだ。と我侭を言った所でこの商売優先のオヤジが素直に聞いてくれるとも思わないが、あまり良い気分では無いな。とも思った。

「…俺、ただのボーカルだぜ?」
「ただのボーカルが生み出す音に魅了されて今じゃ日本を代表するバンドだろう。歌だけ歌っていたいと言うお前の意見も尊重はするが今はメディア優先のご時勢だ。兎に角、一度だけカメラマンに会ってみないか?」

そしたらお前の気が変わるかもしれん。等と言った斬月の瞳がサングラス越しからでも光っていたので止む終えず一護は素直にコクンと頷いたのだ。
まあ、いざとなれば頑なに拒否をしたら良い。そう思ってはいたものの、斬月が選んで連れてきたカメラマンとやらがひと癖ふた癖もある厄介な男だったので断る所か一護からやる!と言ってしまったのだ。一護の気質を誰よりも理解している斬月の思惑通り。売り言葉に買い言葉、策にまんまと嵌った当の本人は自分の不甲斐無さに奮闘する。






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