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7/15

おめでとう〜〜!!!
パンパンパンッ!
黒崎一護の瞳はこれでもかって程見開き、横から見れば目玉がポロリと落っこちてしまうのではと危惧できるくらいには見開かれていた。それほど、驚いた。
朝は7時半に起床、顔を洗って歯を磨いて朝食を食べて(今日は朝から少し豪勢だった)行って来ますと家を出て普段通りに登校してきた。
最近お気に入りのミュージックはHollywood Undead、ポップミクスチャーロックバンドの軽やかでいて少しだけ重たい音楽を耳にしながら正門を潜った。玄関先では生徒や教員も入り混じっているのでイヤホンを片方だけ外してクラスへ向かう。
高校二年に上がってもクラス替えは無く、一年時とまんま変わらないメンバーが居るクラスの扉を開けば彼の騒音が一護を待ち構えていた。
パンパンパンっ!軽やかな爆発音を発したのは俗に言うクラッカーで、おめでとう!と声を発したのはクラスメイトほぼ全員。
は?
一護の口は「は?」の文字を象ったまま止まり、ハラハラと目前を舞う色とりどりの紙ふぶきをただ見るだけの形となって7月15日の月曜の朝はいつもとは違った風景を目前に晒してスタートした。

「永遠の16歳、黒崎一護さんおめでとーごぜーます!!!」
「…啓吾…煩い…お前これ掃除しとけよ?」
「うええっ何その反応!そのリアクション!薄っ!薄すぎる!」
「それ、全く同じ単語だって気づけよ馬鹿」
「ああ!そーいうのは律儀に突っ込むのに!!!こーいう事だけは完全スルーとか!ぶんなぐるぞ一護!」
「ああっ!?」
「ごめんなさい許して殴れない俺にはお前を殴るだけの力がないザ非力男子ですから僕!」

いつも以上にテンションが高い友人を横目にして自分の席へと向かえば所々からおめでとう!黒崎誕生日おめでとう!と響いてきて苦笑してしまう。
そういえば、と制服のズボンポケットから携帯電話を取り出してカレンダーを確認。

「…ああ…成る程」
「成る程ってアンタ…やっぱコイツ忘れてたよ自分の誕生日」
「うるせーよたつき。つか女子があぐらかいて座んなってあれほど言ったのにお前は…パンツ見えてんぞ」
「やーん一護のエッチー。残念!パンツじゃねーよスパッツだ!」
「…尚更ドン引きだわ…」

自席のひとつ前の席、椅子の上に行儀悪くもあぐらをかいて座る彼女は昔からの馴染みなので互いに分かりきった反応を好き勝手に返す。男と女と言うよりも戦友と形容した方が適してる一護とたつきの間には男女間の遠慮と言う物が一切感じられない。だから時々、本当に稀に、カップルだと思われる。それに関して聞かれでもした日には両者共、苦虫を噛んだ様に顔を顰める。

「やーっぱり一護は忘れていたんだね。だから僕達が率先してお祝いしてあげるんだよ」
「そーだぞ一護!ありがたく俺たちの愛を受取れ!さあ!ハグミー!」
「浅野さんのそのハイテンションはもう少しどうにか出来ないですか?ミュートボタンって無いんですか?」
「敬語使われるのって精神的ダメージが強すぎるよね。そう思わないかな?一護よ」
「思わんな。取り敢えず啓吾、ミュート」

酷い!と演技臭く吠えては床に伏した馬鹿は放置して、後ろの席でニコニコと満面な笑みを浮かべている水色と見た。
机に肘をついて両手で顎を支える、なんて言う女子的ポーズが一々似合うこのあざとい男は流石の一護でも敵に回すと厄介な友人その1、だ。

「一護」
「んー?」

イヤホンを外してブラックのアイパッドナノをバックの中へと納める。音楽だけが充満していた世界から一気に日常へと引き戻された感覚が強い。

「誕生日おめでとう」

空返事をしたら背後から優しい声色でそう告げられたから思わず笑ってしまう。

「ありがと」
「くっろさきくーーん!お誕生日おめでとう!」

笑顔で礼を述べたのをきっかけに今度は四方八方から様々なおめでとうが飛び交う。
床で伏せてさめざめと泣いていた啓吾にも、ケーキなのか食パンなのか分からない物体を手に持って微笑んでいた井上にも、不機嫌そうに眼鏡をあげながら無愛想にした石田にも、無言で隣に立っては小さな紙袋を渡しながらおめでとうと言う茶渡にも交互にありがとうと述べて一護は照れくさそうに微笑んだ。
祝われるのは柄じゃない。そんな一護の性格を知っているから、だからこそクラスメイト達はこうして祝ってくれる。
(悪くは…ねーな)
照れくさくもむず痒い気持ちが心の中に充満してゾワゾワとさせるが素直な感謝と笑みがこぼれて憂鬱な週初めの月曜が少しだけ気持ちの良い曜日に早変わった。

***

お昼ご飯は屋上で男子会ーーー!とテンション高めでそう叫んだ啓吾を一先ず沈めながら皆で階段を登っている最中に唸ったポケット中のスマートフォン。
新着メールを知らせるボタンをタップしたら一護の胸がざわわと唸る。
"今日の放課後って何か予定入ってる?"
たったそれだけの文章だったのに、送り手の名前が一護の胸を騒がせた。
"なんも無いけど…"
取り敢えず友人達からの誘いはまだ無い。
そう返信したら5分も持たずにメールが返ってきた。
真夏の青空の下、屋上の数少ない影に隠れながら友人たちとの一時。一護の手に持たれた携帯端末の中でだけは別世界の様に感じられる。
"じゃあ一緒に映画観ない?アクション映画、観たいって言ってヤツ。チケット買ったんス"
映画?と小首を傾げ上映中の映画スケジュールを脳裏に浮かべてアアと思った。
"ブラピ主演の?"
"ええ、そう。ゾンビ物"
"何時から?"
"17時っス"
"門限あっからなあ…"
"アタシが一心さんに言っておきましょうか?"
"いや、大丈夫。俺が言っておく。どこで待ち合わせする?"
"迎えに行くよ。電車よりもバイクの方が早い"
"…乗せてくれんの?"
"今日だけ。特別"
脳裏に浮かべたハーレーのVロッド、小さくガッツポーズした。
"じゃあ16時過ぎに。あ、正門前はダメだ教員たちがうるせーから"
"OKそれなら近場のファミマでどう?"
"いーよ。"
"じゃあ16時にね"
簡単過ぎる程要件のみの彼との連絡は疲れないから良い。一護はメールも電話も苦手だと言う事を配慮しているから彼は滅多な事で電話もメールもしてこない。
こう言う時だけやたらタイミングが良いのだけど、きっと彼の事だから覚えているのかもしれない。
了解メールを確認後にスマートフォンを傍に置いた一護を見計らって水色がにんまりと笑んだ。

「なあ〜に〜一護、もしかして〜」
「ストップだ水色。啓吾が煩くなるから弁解しておくが、彼女とかそう言う類ではない。妹だ」

あからさまに嘘を吐いたが、これで知り合いだ幼馴染だなんだと言えば深く追求される事は必然だったので釘を刺しておく。
案の定、一瞬だけ煩く啓吾は喚いたが「なーんだ遊子ちゃんかあ」と唇を尖らせて弁当へと視線を戻した。
水色だけは「ふーん」と意味深な空返事をしたっきり後は何も聞いてこない。こればかりはどうしようも無いから内心では友人たちに嘘を吐いた事を謝罪しながら一護も中断させていた昼食を再開させた。

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