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歳の2つ離れた彼は物心ついた頃から隣に居た。
浦原家の一人息子、アメリカ人の母に日本人の父を持つ彼は容姿が日本人離れしている為どこに居ても目立つ。
綺麗な金髪は少しだけ猫っ毛で梅雨時になれば緩いカーブを描いてまるでパーマをかけたんじゃないかって思わせるくらいにはフワフワになる事を知っている。
出会った当初は女の子だと勘違いしていた点もあったが彼は天使みたいな外見に反して中身は狡賢くも腹黒かった。先ず口がやたらめったら上手いし相手の心理を読む事に長けている。何をどう言ってどんな演出で自身を見せたら相手はコチラに気を許すのかを細胞レベルで熟知していた。
周りの大人たちよりも賢くて綺麗な生き物に一護は簡単に憧れの感情を抱いた。それが小学校5年生までの事。
持ち続けた感情は体と心が成長を続ける事に反比例してしぼんでいってしまう。
知識を得る事が出来たからだ。
様々な知識の中で成長を遂げる内に浦原喜助の嫌な部分が悪く目立っては一護の目を覚まさせた。
-彼に近付いてはいけない-
本能で察してしまった部分もあるが、彼はあの美しいだけの容姿で人をたぶらかし、口八丁で悪戯に人の心を弄んでは傷付ける厄介な男だと言う事を知ってしまった。一護が中学2年に上がった時、既に会話する事も接する事もなくなった彼と再び接するようになってしまったのが運の尽きだった、と当時は思っていた。
売り言葉に買い言葉、まんまと彼の策略にはまってしまった一護は昔大好きだった彼に手酷く抱かれてしまう。
ズタボロだった。
他人の手を知らない体に他人の温度が刻み込まれる。性行為の性の字も知らない無知な頭に快楽を埋め込まれる、一護の知らない浦原を見せ付けられて、熱を知らされて、悦楽を教え込まされ彼の内面を知ってしまう。あの時はもう頭が真っ白でただただ女みたいに悲鳴をあげるしか一護にとって術は無かった。
助けてを何度も繰り返した。
許してと無意味に叫んでしまった。
男である事のプライドをズタズタにされた。
女の代わりとして使われてしまった事よりも、一護は彼に対して…彼に抱かれた事に対して眩暈が生じる程の快楽を感じてしまったその事実に一番、プライドを踏みにじられた感じがした。
そこからスタートしたろくでもない恋は約半年も続いて終止符を打った。
ズタボロの精神で、ズタボロの体で、ぼろきれの様な心で叫んだ一護は初めて男の前でワンワンと泣き喚いた。
"好き"と言う気持ちが"嫌い"になる事を恐れて口に出した言葉のどれもこれもが真実であり、そしてどれもこれもが嘘っぱち甚だしい程にはちぐはぐだった。繋ぎ合せの綻びが目立つ不細工なハートがズキズキじくじくと痛んではポロポロと本音を溢れさせていく。
お願い、好きを嫌いにさせないでくれ。
ワンワン泣き出した一護を見た彼の金色が、ろくでもない涙を流させては一護の涙を呆気もなく止めた。
初めて彼が見せる涙に再び心が震えた。
"ああ、やっぱ無理だ。どう足掻いても俺はコイツが好きなんだ"
心に落ちた言葉は妙にしっくりと溝にはまって出来上がった穴を塞いでしまう始末。どう足掻いた所で成長しすぎた感情を今更覆す事は出来そうにもない。彼が途切れ途切れの言葉を縫い合わせて作り出したたった二文字の言葉に一護は捕まった。
"ごめんなさい…ごめんなさい。好きなんだ…、好き、好きなんです…ごめんなさい…"
痛々しい程の告白だった。

***

あれから一年は経っただろうか?
痛々しい映像を簡単に消す事は出来ないけれど、一護の脳内からはあの時の浦原の表情は消え去っている。時々、ふとした瞬間に過ぎって恐ろしくなる時もあるけど。今の彼は馬鹿みたいに一護には甘い。
今日だってこうして一護の時間を頂戴と強請ってくる。
大学生になった彼は高校時代に築き上げた不埒な交友関係をぶった切った。今では真面目に勉学と向き合って、そして一護と向き合ってくれている。
この人は、人一倍に臆病なんだ。
一護が新たに見つけた浦原喜助の奥底のピース。
笑顔を上手く作る事が出来る癖に、人様の真意を読んではイタズラに掻き乱す癖に、自身の本心だけは固く固くガードしたまま見せようとはしない。
それはきっと怖いからだ。一護はわかっていた。
傷付くことを恐れた人間は本心をひた隠しにする。隠して隠して曝け出すのはほんの少しの冗談と1ミリだけの本音。他人に嘘を吐く事が上手な男は、自分自身にも嘘を吐く事を得意としていた。それが、一護が嫌いな浦原喜助。

「一護さん」
「ごめん、少し遅れた」
「いーえ。大丈夫、時間は18時からだから」

学校が終わり放課後の誕生日パーティ(と言う名のカラオケ大会)を丁寧に断ってクラスメイトよりも早めに校舎を出、近場のコンビニへと向かう。
コンビニ前に設置されていた喫煙スペース横に立つ浦原は白いTシャツに黒のダメージスキニー、そして黒のブーツと言ったバイク乗りの軽装で煙草を吹かしていた。
周りには学校が多いと言う事もありこのコンビニは夕方辺りから学生の出入りが激しくなる。大学は無い為に利用する学生のほとんどはそれぞれのシンボルマークを記した制服を着ている中高生ばかりだ。ぽつりぽつりと他校と自校の制服が目立つ中で一人だけ煙草を吹かしながら黒いヘルメットを手に持つ浦原は嫌でも目立っていた。

「悪目立ちしすぎ…」
「え?なんて?」
「んでもねーよ…それより…早く行こうぜ…ここ、クラスメイトも利用してんだ…」

ああ、成る程。浦原は煙草を咥えたまま辺りを見渡し、灰皿に煙草を押し付け火を消した後で一護にヘルメットを手渡した。
普段は危ないからと言う理由で乗せてくれないバイクのヘルメットを被って後ろに跨る。
捕まってて。
浦原の声にひとつ頷いて腰へと手を回して密かに心を高鳴らせた。
変なの。一護は思う。
ブォン、重低のエンジン音を高鳴らせてバイクは機動し走り出す。腰に回した腕がやけに暑い。梅雨明けの時期に感じる真夏の暑さとは異なった熱が一護の腕を刺していた。
やっぱり…変なの。
あんなに乱暴に触れていた手が、今では一護に触れる事を躊躇っているのが分かる。そして、今度は一護が彼に触れる事を止められなくなってしまっていた。

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