[携帯モード] [URL送信]
スイートスポット


ほろりと出た言葉に自分が呆気に取られてしまった。翳した彼の手が拒否を示したから焦って出した言葉、意図も簡単に出せた言葉に体が遅れて硬直した。
キミが好き、たったそれだけ。音となった言葉に改めて実感した。ああそうだコレは紛れもない恋心って奴だ。映画やドラマ、漫画、小説の中で用意された甘ったるい雰囲気でもなんでも無い告白だったけれど、好きと言う単語はどうにも響きが良くて少なからず甘さを含んでいた事は確かだった筈。
それでも彼は頑なに否定した。翳した手、指の間に見える彼の琥珀色がそれは違う感情なのだと強く光った事に対し、浦原は嫌な焦燥感を味わった。
過去に一度見せた背中は彼の中で少しずつトラウマになってしまったようだ(現に彼は声を失ってしまった)。瞼を閉じれば、その暗闇に自身の背中が映るのだろうか。ソファに座る彼は視線をブラウン管へと移してこの話はもうお終いだと早々に気持ちを切り替えているみたいだ。浦原は体制を変えたまま一護をじっと見つめる。
罪悪感、ね。
脳内で開いた辞書にはこう記されていた。
【罪悪感:ざいあくかん】道徳や宗教の教えに背くこと。つみ。とが。罪を犯した、悪い事をしたと言う気持ち。
好意の言葉に反してあまり良い響きを持ち合わせていないこの言葉が浦原の胸に突き刺さったまま、取れることなく深く深く心中を抉る。
痛いな、瞳を細めて見る一護の横顔にほんのりオレンジが灯った。卓上に置かれたキャンドルがゆらりゆらゆら揺らめいては表情に影をちらつかせた。ほの暗い室内にキャンドルのオレンジと、ブラウン管からは青白い人工色が揺らめく。いたる所に影を作りあげる光の粒がフェイクならば、彼の持つオレンジと琥珀色はリアルだ。
伝えた想いと言葉を跳ね除けた彼の意思と、浦原の持つ想いは果たしてどちらがより強いのだろうか、変に焦燥感を感じては腕が自然と伸びて彼のオレンジへとそうっと触れる。いい子いい子、まるで小さい子供にするみたいに頭を撫でる浦原の手は大きい、横目できつく見た琥珀色に怯える素振りも見せずにやや真剣に撫でながら見る眼差しはキラリと輝いている。それに、ドキリ、少しだけ高鳴った胸に痛みを覚えさせたいと一護はきつく下唇を噛んで切に思った。
伝えてみせます、と宣言しておいてこのザマだ。下唇をきつく噛み締め、何かを伝えようとして諦めて飲み込んだ彼の言葉を上手くすくう事が出来たらこんな雁字搦めにはなっていない。何も言わず、まして撫でている手を払い除ける事もしない彼に許されている感じがして安堵するが、諦めにも似たその仕草に胸が痛い程締め付けられた。ああ、どうしたら伝える事が出来る?言葉なんていうのは声に成した瞬間、用いる重さを半減させてしまう。しかし、言葉に成せない事には目に見えぬ気持ちを相手に伝える事なんて出来やしない。
難しいな。
そう、とても難しい事なのだと今更ながら思った。かつてこれ程まで難しいと思った恋をした事がない浦原は久しく頭を悩ませている。目前にいる子に対する想いは爆ぜそうなくらい大きいのにも関わらず、言葉にする事を恐れてしまっている時点で浦原の負け。それでも諦めようなんて思いはもうなかった。
一護さん、言葉の威力が半減した今、アタシの気持ちをキミに伝える事は困難かもしれない。
指の間をイタズラにすり抜けるオレンジ色、指さわりが非常に良い髪の毛に浦原は強く誓う。
だけどねえ一護さん。アタシも諦めが悪い男なんスよ。
内側で苦笑し、アンニュイな横顔を写しながらシャッターを切った。
言葉がダメならアタシはアタシのやり方で想いを伝えよう、キミが小さいラブソングを作ってメロディに乗せて歌ったように。アタシは言葉無き歌をうたおう。

next>>>




あきゅろす。
無料HPエムペ!