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過度なスキンシップは好まない、特に髪の毛に触れられるのは生理的にいやだ。なのに、ふわりと極自然に触れた指先は優しく髪を梳く。男にしては綺麗な指先が優しく触れた瞬間に一護の心臓は爆ぜそうなくらい高鳴った。
彼が何のつもりで触れてきたのかは分かる。分かっちゃいるが、どんな理由を前提にしても彼の気持ちだけは分からないでいた。否、嘘だ。本当は分かっているはずなのにそれは勘違いが引き起こした感情だと心が浅はかにも決め付けてしまう。
もう傷付くんじゃない。
勝手に一人で傷付いておいてなんて情けない。取り留めのない感情がランダムに心へと出入りするから苦しくって仕方がない。だって、恋愛なんて初めてに等しいんだ。そりゃあ学生の頃は告白も体験はしたが、恋愛に発展するには何かが欠けてしまっているようで、真っ赤な顔をした女生徒にNOと伝える事しか出来ないでいた。それでもあの頃は音楽が傍にあったから女性と御付き合いは勿論の事、恋愛なんてしている暇がなかった。それくらい、一護の人生において音楽は必要不可欠なものだった。
NO MUSIC,NO LIFEとは正にこの事。要は音楽一筋、修兵曰く音楽馬鹿の一本道をずっと歩んでいた。だから初めて音楽以外の事が胸を占めて苦しかった。自身の音さえも失ってしまった。
もうこれ以上、傷付くんじゃない。
優しく髪を梳かす彼の指先に反して心はそう叫ぶ。頼むよ、俺はあんたの様に器用でもなんでもないんだ。きゅっと唇を結んでキっと横目で強く浦原を睨んだ。
全ての感情を、言葉を瞳に詰め込んで睨んだというのに彼は笑った。ふにゃりと眉をハチの字にしながらの情けない笑みを見せた。
なんなんだよ、その…やれやれみてえな面!こっちがやれやれだわボケ!
好きですと、意図も簡単に言ってのけた彼の言葉に怯えた心臓が今度はバクバクと高鳴り始める。始めはトキトキと小さく脈打つだけの心臓が次第にリズムを大きく変動していき、最終的には大太鼓を打ち鳴らすようにまで至る。ドンドンと、ドンドンと、やや乱暴なのに、息苦しくて堪らないのに、まるでノック音にも似た高鳴りが少しだけ心地良く感じられてしまう。
一護はキっと横目に浦原を見る。強い視線とぶつかった金色はこれ程とない具合に甘く蕩けては一護を驚かせた。
なんでそんな目が出来るんだ。
キラリ瞬く金色、カーテンで遮られた光がやや強弱をつけてオレンジ色に光る。反射するオレンジを金色に混ぜて彼は柔らかくも甘く微笑む。
意地悪な事ばかり吐きだす筈の唇は口角を上げて優し気、甘い金色はゆらりと揺れて、やや神経質で細長い指先は髪先に触れてはくるくると弄ぶ。
ブラウン管越しの物語はエンドロールを奏でた後にやっと終わりを告げて、画面上を黒く黒く染め上げていた。時が、止まった感じを味わう。
言葉等ない、声が響かない、テレビの音も止んだ。二人分の鼓動と呼吸、部屋の隅の小さな雑音、窓の向こうでざわめく風の微量たる音、響いてるはずの音たちも耳に入らないくらいの沈黙と言う名の音が時を止めた気がした。
音楽を愛した一護の耳に響くのは浦原の瞳から伝わる言葉のみだった。











貴方の魔術ひとつでホラ、今日もまた…

BGM:東京事変/スイートスポット




あきゅろす。
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