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男同士のセックスなんて普段の生活圏で思いつく事も無ければ耳にする筈もなく、叔父さんに触れられてから初めて、男同士でもセックスが出来る事を知った。
シュ、シーツが擦れる音が卑猥に聞こえる。一人で眠る時も思い出してしまうくらいにはクリアに記憶されているその音に耳があざとくも反応する。記憶と言うのは厄介な代物だ、音、香り、場所、温度、味覚、感触、全てに刻まれているからその都度思い出してしまう。
例えば、叔父と同じ煙草を隣の席に座る男性が吸い始めた時。思い出すのはあの冷たい金色の瞳。
例えば温度、冬の寒さがコートの隙間を狙って入り込んできた時。思い出すのはあの人の冷たい指先、そして唇。
そして声、少しだけ低くて掠れていて甘いと思われる人の声には耳が直ぐに傾いてしまう。

「おい黒崎、寝るな」

丸めた教科書でぺシンと叩かれて、ウスと小さく会釈しながら耳を塞ぎたい気持ちに急かされた。歳若いだろう数学教師は少しだけ、あの人の声に似ているから厄介。
"一護さん"
あの声で呼ばれて、冷たい瞳で見られて、冷たい唇で唇を食まれたらひとたまりも無い一護は決まって最後は彼に降参のサインを示してみせる。ホールドアップ俺の負け、そう言わんとする震えた体を組み敷いて彼はにんまりと大層意地悪く笑んで見せる。ニヒルにも捉えることが出来る性質の悪い笑みに心臓が弱まるから呼吸困難にも似た苦しさを毎回の様に味わってしまう。
叔父さんは性質が悪いオトコだ。
苦手な数学の授業、黒板にスラスラと数字を描く男性教師の指先は彼の指とは違って男らしく骨ばっている。声だけ、彼に似ている。一護はそうっと瞼を閉じて彼よりは少しだけ高めの声を耳に入れて時間を潰した。

***

「で、ここにさっきのエックスから出た数字を入れるの。分かる?」

とんとん、羅列した数字を叩く指先は神経質で男の指にしては綺麗。やや冷たい声が感慨も無く発するのに対して一護はゆるうく首を横に振るう。

「いや…全然」
「フ、キミって意外に頭悪いんですね」
「っ!数学が苦手なだけだ!」

吐き出された言葉にカアっと熱くなって開いた教科書に手を置けばスプリングがきしりと小さく唸る。素肌に羽織った白いマイクロミンクのガウンは仄かに甘い香りを漂わせて一護の体を包み込む。ガウンの中は黒のボクサーパンツのみと中々に大胆だが、キングサイズのベッドを広々と使い、その上で教科書とノートを開いては数式に悪戦苦闘している高校生にとっては羞恥心と言う境界線さえも未だ生まれてないに違いない。
ノンフレームの眼鏡奥に冷たいと酷評された瞳を隠しながら浦原はにんまりと笑ってみせた。目を通していた経済新聞を折りたたんでサイドテーブルに置く。それから肩肘だけで体を支えるようにして寝そべり、子供を見上げた。なんだよ、アヒル口になった唇で不満を訴える子供の、少しだけ濡れた髪の毛へと指をはわせた。

「現国?が得意なんですっけ?」
「…ああ、…担当の教師が担任なんだ…教えるの上手だし…」

ふーん、然して興味なさそうな空返事をしたのは本当に興味がなかったから。
今は指先にしっとり馴染んだオレンジ色の髪の毛を触る事が楽しい。指先の腹でくるくると捻って梳かしてを繰り返せばくすぐったいと彼の腕が上がる。
嘘、くすぐったくなんて無い癖に。
内心ほくそ笑んでベッドに転がったボールペンの一本を手に取って、オレンジ色の代わりにくるくると器用に回してみせた。

「わ…器用だな喜助さん…どーやんの?啓吾のヤツもめっちゃ回すの、しかも神業っぽい事までしてみせるんだぜ?」
「…その子、勉強出来ないでしょ?」
「え、なんで分かった?いっつも赤点ギリギリ」

やっぱり、苦笑してから回してみせる。人差し指と中指でペンを弾き親指の背に乗せてくるりと回転したペンを見、見よう見真似でペンを回そうとしてもペンは指先からポロリと落ちるだけで彼の様に上手く回せない。
教科書の上にポトリと落ちたペンを見てブーと膨れっ面を見せる甥っ子に浦原は耐え切れずにクハっと笑う。腹を抱えて笑えば彼の機嫌は一気に急降下を辿るだけだと言うのに、こうも幼さを露わにされては笑うしかないと大人は内心で打算するのだ。
イギリスから取り寄せたキングサイズのベッド、大の大人二人が寝そべっても充分にスペースが余るベッドに色気の全くない教科書とノートを乗せ、胡坐をかきながらうんうん唸る男子高校生。まさかこのベッドで教科書を開かれる日が来ようとは浦原自身、思いもしてなかった。予想外な子供の行動力には大人の下心と言うヤツもいそいそと夜の影に隠れてしまう。

「わらーうなっ、意地悪いぞあんた」

軽く頭を叩かれる。何の気なしに触れてくる子供の暖かい手は夜のベッド上では多少なりとも背徳を生み出していて、大人の伸ばした手を引っ込めさせるだけの要素を備え持っているから中々の強敵。
再び冷たい笑みを見せ、意図してオレンジ色に指を伸ばし触れた。

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