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フ、鼻で笑うように小さく笑うのが癖な叔父は冷笑がとても良く似合う顔立ちをしていた。
一護の母親でもある真咲の義理の弟、初めて彼の存在を知ったのは一護が10歳の頃。場所は火葬場、出会い頭に言われた一言は幼心に充分な打撃を与えてくれた。
泣き虫、たった一言を放った彼の瞳は真っ赤に染まっていた。それがとても印象的だった。

キミは彼女に似てるね。
中学に上がった一護の前に現れた彼はイギリスから帰国してきたばかりで、突然の再会に捨てた筈の幼い心が舞い戻ってきてしまった。泣き虫、あの冷たい声はずっと一護の心に棘として刺さったまま、抜く事は出来ない。また何か言われるんじゃないかって構えた瞬間、違う言葉が投げかけられた事に対し首を傾げてしまった。
うん、良く似てる。
笑いながら髪の毛に触れてきた彼の指先を拒む事は何故かできずにそのまま大人しく彼の好きにさせていた。
スキンシップを好まない一護が何故彼の手を拒む事が出来ずにいたのか、それはきっと初めに一護の涙を拭ってくれたのが彼の冷たい指先だったからだ。冷たいくせに至極優しい手つきで、次から次へと溢れては零れる涙を拭ってくれたのが彼だったから。あの頃から一護は彼の全てに対して弱くなってしまった。

髪の毛に触れてくる冷たい手に誘導されて一護はころりと寝転がる。隣に寝転がって叔父の冷たい眼差しを甘受した。
フ。相も変わらず冷笑する彼の金色に琥珀色が溶けて映ればそれはとても甘くて淡い、優しい色彩になる事を知ってしまった。
なあに?
口元だけを動かして卑怯にも甘い言葉を出す彼が少しだけ憎たらしい。

「母さんの話して」

小さく囁く様に呟いた一護の声に髪をいじっていた指先が止まる。
ポーカーフェイスを装う彼が唯一、崩れる魔法の言葉。夜に響く一護の声を耳に入れながら浦原は再びフと笑う。

「聞きたい?」
「誰も話してくれないんだ。母さんの小さい頃の話」
「じゃじゃ馬でしたよ」

思い出しながら語る金色に優しい色が灯ったところを一護は見逃さず、そうっと瞼を閉じて低い声に耳を傾ける。

「想像と違う…」
「天然でドジっ子だったかなあ」
「あ…それは少し覚えがあるかも…何もない所でコケたりしてた」

はは、笑い声が鼓膜を響かせた。静止していた指先が再び動いて頭を撫でる。

「アタシの事をきーちゃんって呼んでた」
「きーちゃん?柄じゃねーな」
「ええ、だから止めてって言ったのに最後までずーっとそう呼ばれていた。彼女くらいっスよ、このアタシをきーちゃんだなんて呼ぶのは」
「…きーちゃん」

瞼を開けて彼の金色を見ながらそう呼べば、指先は再びストップ。あんた、本当にお袋ネタには弱いね。内心で苦笑しながらそのまま揺れる金色を目に映せば、お得意のポーカーフェイスを貼り付けてにんまりと笑われた。
あ、すっげえ悪い顔。一護の心臓がバクバクと唸る。
対して浦原は、甘い夜の香りが漂う寝室でかつてこれ程までに意地悪い笑みを夜の相手に見せたことがあるだろうかと子供を見ながら思った。
きーちゃん、再び子供が呼ぶ。恐れを音に乗っける事もしないのに、その小さく薄い唇は素直に震えている。
まるで何かに縋ったような甘い声に反応して頭を撫でていた手を後頭部へ移動させ、グっと引き寄せれば距離はゼロに等しくなり、鼓膜に入り込むのは夜の足音ではなく、互いの息遣いと鼓動のみとなった。

「意地悪には意地悪で対抗しますよ?アタシ」

低い低い声が一護の鼓膜を揺さぶるも、その一言に対しては一護が冷笑してしまう。
フ、子供にしては冷たく笑えるようになったと自負する笑みを彼に向けながらひっそりと思う。
どうせ最後には甘やかす癖に。
挑発とも取れる子供の冷笑を見て、浦原の背筋はゾクリと戦慄く。たまんないなあ、舌なめずりをしながらその薄い唇を乱暴に貪った。

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あきゅろす。
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