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甘ったるいロジックにはペナルティをひとつ


それは突然、一護を襲った記憶。
ふとした瞬間、浅野の唇を舐めるクセが目についてとある男を思い出してしまった。
昼食時間、暖房の効いた教室内で机をくっつけて購買で買った菓子パンやら弁当やらをひろげくだらない話しをしながら食べている途中。浅野の口端にケチャップがついているのが気になって「おい啓吾、ガキかよお前。唇…ケチャップ付いてんぞ」とお兄ちゃん気質を発した。別段気にする素振りもなく「マジで〜?」等と情けなく笑いながらペロリと、唇を舐め取ったのだ。
浅野には彼との共通点なんて全く無い。ないのにも関わらず、一護の脳内では彼の舌なめずりが浅野と被った。
朝日なんて爽やかな物が似合わない男だ、彼は。眩いくらいの金色を勿体振って夜に魅せる。勿論、彼の舌なめずりは夜の営み中に拝んだ物で、こんな昼間の学校と言う健全な場所なんかで思い出すには躊躇するぐらい卑猥な物。なのに何故、こうも突然に…一護の心臓がドクン!と強く唸りだした。
そこからだ、何を見ても、何をしていても、頭の中のメモリに保存していた彼の姿が重なって一護の心臓を忙しなく動かせた。
心臓…持たねえ…。
つまんない授業中、ふと横を向いて見た窓。自室の窓と被って、そこから侵入してくる彼。
"こんばんは、黒崎サン"
カランと時代錯誤な下駄を慣らし、にんまりうそ臭く笑んだ彼の姿が今視界へ入れている教室内の窓と同化しては一護の肩をビクリと震わせる。どうした一護、後ろの席に座っている茶渡は一護が何かしらの霊を見たと勘違いして心配気に小声で聞いてくる物だから余計に心臓が挙動不審に煩い。
例えば体育の授業中、運動して暑くなった体を冷まそうと親友がジャージを脱いだ時。逞しく鍛え上げられた二の腕が半袖から伸びて、綺麗に浮かんだ筋が見えた時に彼の二の腕と重なった。
ドキリ。
再び唸った心臓は血圧を上げて一護の頬を赤く染め上げた。

「どうしたの一護…顔、少し赤いよ?風邪?」

水色は遠慮なく一護の額へと手をあてる。ひんやり、冷え性の彼の手が一護の熱を冷ましては浦原の手を連想させた。
"熱、明日には下がりますから"
普段の数倍も優しい声色が耳に入り込み、ひんやり冷たい手の平が気持ち良かった。風邪で寝込んでいた時、窓から許可無く進入してきた彼が調合してくれた薬は厄介な流行風邪を一日で治してくれた。

「だ、大丈夫!動き過ぎただけ」

急に訪れた記憶の嵐にこうも翻弄されてしまう。これ以上思い出してはダメだ、心にセーブをかけたと同時に水色の手を乱暴に掴んでしまう。焦った風な一護を訝し気に見た水色は、何かを悟ったかの様に小さく一護に対して呟いた。

「…準備運動だけで?」

こういう時だけ彼の勘の鋭さを憎く思ってしまう。ヘラリ、笑って誤魔化し、これ以上は踏み込んでくれるなと態度だけで示した。
どうしたんだ急に…こんなのありえねえ…っ。
記憶に振り回されるだなんて恋する乙女じゃあるめーし!男としてのプライドをズタボロにした記憶の嵐はどれもこれも優しい記憶ばかりでほとほと困り果ててしまう。
夜に魅せるやらしい舌なめずりに始まり、軽々と抱き上げる鍛え上げられた二の腕、優しいのに冷たい手の平、彼の来訪を告げる隙間風の冷たさ、夜の香り、彼の金色、声。ドキリと高鳴っては記憶が一護の体のあちらこちらを撫で回す。
アイツ…、何かしたんじゃねーか?
彼に責任を擦り付ける事も出来たぐらいに、時間が経つ毎に記憶はリアルになり始めてきて、終わりのチャイムが鳴ったと同時に友人達の誘いの言葉を全て蹴って、駆け出していた。

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