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あ、黒崎殿…店長は今しがた寝入った所ですぞ。
目的の商店へ着くや否や、浦原の自室へと足を伸ばした一護に向けてテッサイは申し訳なさそうにそう告げるが、こちらの知ったこっちゃないんだとも言わんばかりに一護はテッサイへとひとつ謝罪して足早に廊下を渡った。
夕方だぞ?何でこの時間に寝ようとするんだ馬鹿!
大方、明け方…否、きっと午後まで研究に没頭していたのだろう。それかここ最近はろくすっぽ姿を見せていない彼の事だ。おや、と疑問に思って始めた研究が一護の存在を忘れさせ、日時も睡眠をも忘れさせたのだろう。ギリっ、下唇を噛み締めながら一護は浦原の部屋へと乱暴に侵入した。
案の定、彼の部屋は空き巣にでも遭遇したみたいな散らかり様だったので第一声が喉元で押し留められた。散らばった書類、散らばった本の山、散らばった筆と何かしらよろしくない研究道具の数々。
ヒクリと口角を上げ、部屋の中央の僅かに開いたスペースにある布団へと近付く。歩を阻む障害物を全て足で払いながら進めば物音に気付いた眠りの浅い男は被せた腕の隙間から鬱陶し気に目を開いて一護を見た。
あ、不機嫌そう。
目を細め、眉間に皺を寄せながら一護の訪問を歓迎して、姿を見定めた後は興味を無くしたみたいに寝返り、一護に背中を向けた。
すげえ態度悪ぃ!
久し振りに姿を見せたと言うのにこの仕打ちか、浦原の態度にカチンときた一護は構わず布団の傍に胡坐をかいて座り込む。ワザと音を立てて座り込んだのに早く帰れと彼の背中は無言で伝えてシカト。くそうっ、舌打ちしたい気持ちにも陥った。
学校であんなにも悩ませた記憶の数々はどれもこれも砂を吐くくらいに甘ったるかったのに。当の本人でもある彼が今は凄く冷たい。冷たいと言うよりもただ態度が悪い。いくら寝起きが史上最強に悪いとしてもだ、寝床を何回も共にし、人の体に許可無く触れて暴いて……、った癖に!沸々と湧き上がる苛立ちにうっかり妙な事まで嘆いてしまいそうだったので皆まで言わずに留め、苛立ちを増しながら一護は深呼吸。そして第一声をここにきて初めて吐き出した。

「おい、暫くの間エッチ禁止な」

苛立ち任せに吐き出して後悔した。エッチ、等という言葉なんて今の今迄使った事もまして声にした事も無かったからだ。カアっ、気を抜いた瞬間に自身の顔全体が真っ赤に染まったのを感じた。
俺の馬鹿…っ!いかに自身を叱咤した所で音になってしまった言葉は取り戻す事は出来ない。チっ、舌打ちをしたら音がやけに大きく反響した。そのタイミングで背中を向けていた浦原が鈍い動作で寝返りを打って仰向けになる。
フー、腕で両目を覆ったままの状態で小さく息を吐き出して腕を上げた。
露になった金色がしかと一護を見上げていた事に心臓がゾワリと騒ぎ始める。

「…なんで?」

普段の彼と、寝起きの最悪な態度の彼とでは発する声の質も喋り方も異なる。普段は馬鹿みたいに敬語と能天気さが交じり合った言葉使いなのに、寝起きの彼ときたら素が出てしまうのか、簡単に言ってしまえば、とても乱暴だ。

「っ、イ、やだから!」

ぶるりと震えた心臓が言葉を乱暴に変えて音にする。

「理由になってない」

変わらずに低い声が一護を責め立てる様に追い詰める。いつだってそうだ、夜の時も、死神の時も変わらずに彼は一護を追い詰める存在。
それでも学校での出来事は言いたくない。絶対に言いたくない、彼が何かを自身に施したせいであーなったとも思ったが、今の彼の態度を見ればそうではないようだ。摩訶不思議な力を持つ底の知れない男でも、あんな幼稚な事はしないだろう。
今日はずっと学校でお前の事考えてた、言いようによってはそうも捕らえる事が出来る事態を好き好んでこの男に告げるのだけはダメだと心臓がセーブをかけてしまう。

「俺がいやなんだ!」
「……」

叫んだと同時に細められた金色に心臓がキュウっと強く締め付けられて苦しさが増した。今度は嫌な苦しさが一護を支配して表情を崩させてしまう。冷たい金色が全てを見透かしているみたいだし居た堪れない。そう言うわけだから、と無理矢理幕引きして帰ってしまおうか、考えたのを読み取った様で、浦原はハアと盛大に溜息を吐き出した。

「嫌いになった?」

膝に小さく触れた手の平にビクリと体が動き、柔らかい音となった言葉にビクリと心臓が揺れ動いた。小さく首を横に振るう。それしか出来ないで居る一護を見て金色が色を変えた。

「…そう。じゃあキスは?良い?」

ころりと寝返りを打った浦原の金色が強請る様に一護を見る。膝に触れていた指が、撫でる様に伝って手へと這わされる。ひんやり冷たい感触が手から伝わった。
今度は記憶の彼ではなく、本物が触れている事に体は悲鳴を上げた。分かり易いもので、この類の悲鳴は歓喜だと一護は自覚して眉間に皺を寄せながら再び小さく、今度は頷いてみせた。
のそり、鈍い動作で上体を起こした浦原は寝乱れた甚平を直す事もせず、肌蹴た箇所を見せつけながら一護へと向き直って顎を取る。

「…ち、小さくなら…」

近付いてくる距離と香りが幼い心を震わせ、普段なら口にもしないであろう類の言葉を出させてしまう。無自覚の子供に対し、大人は内心でとても焦った。
"まあ…彼が今はそうと望むなら"
物分りの良い大人を演じながら口付けた唇は小さく震えていた。

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