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Tears In My Eyes


そんじゃまあ、腹も膨れた事だし。俺等はドライブにでも出掛けましょうか?お姫様。
修兵の寒い一言で若干呆れ気味のスーパーモデルは準備に1時間かけて修兵と部屋を後にした。

「女の子ってどうしてあーも準備に時間かけるんでしょう…」

来る時も慌ただしければ、去る時も慌ただしかったネルを思い出してハアとやっと一息入れた浦原は口にフィルターシガレットを一本咥えた。癖になってしまっている動作の様で、一護が目で追えば気付いた様にごめんねと苦笑してベランダに出ようと腰を浮かせた。
"いいよ"
シャツを引っ張って伝える。相変わらず口だけ動かしているだけの会話だが、浦原は瞬時に一護の声無き言葉を飲み込む様だ。

「いーの?匂い、ついちゃうよ?」

オレンジ色の髪の毛をぼさぼさにかき乱される。少しだけ睨む形で見上げて同じく"良いよ"とだけ告げてそっぽ向く。本当は、離れて欲しくなんてないんだと我が儘な手がそう告げている感じがして一気に気恥ずかしくなった、だから顔を背けて何と無しに点けては興味の無いバラエティー番組に目を通して何とも思ってない感じを出した。でも、浦原にはバレていると思う。少なからずそう確信があったから余計に気恥ずかしい。
ちくしょ…何で俺がギクシャクしなきゃいけねーんだよ。
制御不能な心臓の高鳴りを静める方法が知りたい。切実に思っている。そんな一護の隠せていない真っ赤な耳を見て浦原はフと小さく笑って隣に腰掛けた。ギ、二人分の重さを乗せて質の良いソファが唸る。三人掛けと言うか、大人が4人腰掛けても大分余裕のある大きなソファに二人で座れば余分が目立ってしょうがない。それなのに中心を陣取る様にして二人で座っている。浦原が、近い。
キイン、カシャン。
小さく鳴った金具の音に一護はちらりと浦原の手元を見てアっと口を開いた。浦原の手に馴染んでいるのはあの日、クリスマスライブの後、浦原に渡した【ブランド】のジッポ。大人な浦原に似合っていると思って買った物、一護が家族以外の誰かに対して初めて買ったに等しいプレゼントだったジッポが今、浦原の大きな手に包まれていた。とても、似合っている。
使って…くれているんだ。
たったそれだけの事で胸の内が酷く熱くなった。きっとこの熱に名前を付けるとしたら"嬉しい"だ。単純な気持ちがこうも胸の内を熱くさせる。その事に対して、ちくしょうと嘆いた。なんだってこんなに左右されるのだ、昨日はずっと心の内にドス黒い感情が渦巻いていて苦しかったのに、今ではこんなに熱くてドキドキしている。隣に座った浦原は美味そうに煙草を吹かしながら手慣れた動作でジッポを閉めた。
"やっぱりかっこいいんだ"
男が男に対して抱く劣等感混じりの多少の憧れを用いた感情ではない。女性が抱くみたいな感情が女々しくさせてしまう。それが、情けないと思ってしまった。

「さあて、今日は何します?ネルと檜佐木さんはドライブだし…アタシ達は家でゆっくり過ごす?あ、それとも…どっか行きたい?」

暫しの沈黙を破ってゆっくりと話し掛けた浦原を見た。
"ここに居る"
少しだけ視線を外しながらに伝えればトントンと肩を小さく叩かれた。再び、浦原の方を見ればかっちり、金色と目が合った。

「口、良く見せて?じゃないと読めない」

眉を下げて笑ってみせる彼の指が目尻を撫でた。ツキン、心を刺す小さな痛みに反応して眉間の皺を増やしてしまう。
ツキンツキン、次第に痛みを増す胸の内側で先程のドキドキした感情が消えていく事が寂しい。痛んだり、嬉々としてみたり、泣きたい気持ちになったり、幸せだと感じてみたり…全く、なんだってこうも忙しいのだ。面倒臭いなあ…そう思いながらもう一度口をゆっくり開いてみせた。
"ここに、居る"
コの発音が二つ続くので指先でソファを指しながら発音して見せた。

「アタシと一緒に?」

笑い混じりの浦原の音を拾って鼓膜が一気に震え立った。
一部分を強調しながら発せられた音に、胸の痛みが和らいでドキンと大きく心臓が高鳴ってしまった。不意打ちだ、眉間に皺を寄せて不機嫌な面持ちのままで癖になった舌打ちをひとつ。声は出ない癖に舌打ちだけが大きく響く。

「あ、舌打ちとか酷い」

"部屋に居るって言ったの"

「えー、じゃあアタシも一緒に居ますよ。そんな意地悪しなくても良いじゃない。今日は贅沢してみよっか?」

五つ星ホテルのスイートに泊まれるだけでも充分に贅沢だ、一護は思ったが敢えて口にする事は無かった。修兵のあの言葉が脳裏に浮かぶ。
"贅沢して良いぜ?全部浦原さん持ちだ!"
勝ち気に笑んだ彼の表情までもが浮かんで口角がほころんだ。
"どんな贅沢させてくれるんだよ?プレイボーイ"
携帯で言葉を打って見せればフフンと修兵以上に勝ち気に微笑んだ。

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