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キミにハッピーメリークリスマスを


毎年、クリスマスってどう過ごしていますか?
そんな質問をされて一護はうん?と考えてみた。学生時代の頃は主にお祭り好きな父親監視の為に家族と過ごしていたし、大学に上がってからはバイト入れてたし…恋人と過ごす様になったのはここ最近の事で、毎年彼が経営する店で従業員とメリークリスマス!と言ってどんちゃん騒ぎしてから二人で静かに残りの時間を過ごしてた記憶しかない。

「まあ…ここ最近つっても5年前からっスけどね」
「あらまあ、恋人はお店開いてるんですか?良いですね〜どんな感じの?」
「イタリアンレストランです」
「良いですわね〜料理の出来る奥様は重宝しとくに限りますからね。」

同僚から黄色い声援が上がった瞬間に飲んでいたお茶を吹き出しそうになって寸での所でゴクリと飲み込んだ。
奥様と言う単語に恋人は男だけどと心中で呟く。
黒崎先生も良い年なんですから早めに挙式上げるか籍入れてた方が良いですよ、定年期間近な教員はにこりと笑みながら余計な世辞を言った。それに対して曖昧に微笑みながら返して溜息を飲み込んだ。
結婚かあ…考えてみる。
学生の頃から一緒で、暫し離れてた時期もあったが再会してからはトントン拍子でお付き合いを始める事になった。まさか男同士、しかも元クラスメイトと付き合う事になるだなんて学生時の自分は考えてもみなかっただろう。
同じ制服に同じ鞄、同じブレザーに同じクラス。波長が合いすぎた二人は何度も何度も遠回りを繰り返してやっと終着点に辿り着けた。
付き合って5年目、今日で5回目のクリスマスを過ごそうとしている。付き合ったのが24日のイブだったので記念日は昨日で済ませた。記念日とか…自分で考えてむずがゆくなる。

大学卒業と同時に教員試験を受けて教員免許を取得、無事に就職にありつけた学校はスポーツをメインにする共学で一護には打って付けの職場だった。
教師になってからまだ三年しか経っていなく新米教師の扱いはされつつも教員同士のイザコザも無く、生徒は皆素直で可愛い。
最後に見回り行ってきますねとだけ伝え、暖房の効いた教員室を後にして校内用スリッパをぺたぺたと鳴らしながら廊下を歩く。
窓の外はすっかり冬の景色を彩っている。春の時期にはグラウンドを囲む桜の木が一斉に満開になって目に鮮やかなピンク色を見せる、夏には眩しい日光に照らされた草木が力強い緑を見せ、秋にはこれまた立派に色付いた紅葉がちらほら落ちて綺麗だ。真っ赤な絨毯を敷き詰めた感じになるグラウンドが一番好きだったりもする。冬の風景は他の季節と違って寂し気、三年生が高校に上がる前の風景にしてはいささか寂しさに拍車がかかってしまう。
視界に映る色も冷たくて、廊下の寒さで足先から冷えていく心地を味わい肩をぶるりと震わせた。
寒いな、ハアと息をひとつ吐いても白い息は出ない。けれどもどこか寒気を誘う外の景色を眺めながら歩いていると数歩手前の窓がガラリと開いた。信じられるだろうか、外から開いたのだ。しかもここは3階。唖然と口を開きながら停止した一護の前に堂々と窓から侵入を測ったのは小柄な体を赤のジャージに包み、黒のマフラーをして明るい髪の毛をふたつにまとめた女生徒。
よっと、窓を片手で開き体を支えながらよじ登り軽い動作でジャンプして着地。100点満点だと言わんばかりの着地に思わず拍手を送ろうとしたがそれどころでは無い。

「おい、おいこらそこの、ひよ里」
「あ!一護やないけ〜」
「うん。良いから、ちょっとこっち、来なさい」

なんやなんや〜、外見に似合わない関西弁で良いながらにこやかな笑みで近づいてくる生徒に鉄拳をお見舞いする。

「いったああ!何してくれとんじゃ!レディの頭殴るなや!」
「レディって言うのは窓から侵入してくるヤツを指すのか!?お前!ここ、三階!三階だぞ!?どうやって登れた!?」
「えー…あっちパイプあんねん」

それがどうした!いや、そう言う事じゃない!一護は声を低くして唸る。つり目がちの瞳が彷徨って唇を尖らせぶー垂れる生徒を見下ろしてハアと大袈裟に溜息を吐いた。

「あのな、落ちたらどうすんだ。いくら新体操部だからって…女の子なんだぞ?」

視線を合わせる為に屈んで肩に手を置く。真摯に見つめ返す琥珀色にひよ里は仄かに頬を赤らめた。唇はまだアヒル口に尖ったまま。

「せやかて…」
「でももはももねーよ。怪我して大会出れないのはお前が悔しいだろう?それにさ俺も悲しいからさ。もうやんなよ?」

な?少し苦笑気味に笑ってみせれば素直にこっくり頷いた彼女が可愛い。まるで昔の妹達を見ているみたいだ。頷いたひよ里の頭をわしゃわしゃと撫でる一護の表情は嬉しそうで、見てるこちらまでも自然と笑顔になってしまう。ひよ里は少しだけ口角をあげて照れくさそうに笑った。

「それと、平子とは仲直りしたか?」
「…センセーには関係ないやん」
「そんな事言うなよ。あれだぜ、後悔ってのはトラウマになってしまうからな。って俺の恩師の言葉なんだけど」

くすり、あの時の彼女の言葉を思い出して笑った。

「なんや…一護にもあんのか?」
「ああ、あるぜー。変な意地ばっか張って喧嘩別れ?みてーな事しちまってさ…すげえ仲良い友達だった分、やっぱ後悔した。あの時、もう少し大人になって素直になれてたら…ってな。」

今は違うクラスだけれど、ひよ里と元C組の平子は傍目から見ても仲が良かった。喧嘩ばかりして一護の手を患わせるも、なんだかんだ言っていつも一緒に居るのだこの二人は。まるで学生時代の自分と浦原を見てるみたいで二人が肩を並べて下校するのを見て微笑ましい気分にさせてくれていた。だから尚更、クラスが離れてしまった今だからこそ仲直りして欲しいと思う。どんな理由があって喧嘩したのか分からないけれど、かつての恩師に貰った言葉をひよ里に伝えた。
ん。たったひとつの返事で頷いた彼女の頭をもう一回撫でる。

「青春だな〜」
「うっさいわ…」

アハハ!笑いながら二人で長い廊下を渡った。

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