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happy merry for you.


コンビニらしいポップなクリスマスソングががしゃがしゃと鳴る。ああ、今年もクリスマスが来たか、と店内奥で咥え煙草に新聞を読みながら店長はそう言った。黒のウルフカットに、今は制服の襟に隠れているが鎖骨部分、胸元まで広がった69のタトゥーが印象的な年若い店長は気怠気にそう言いながら「リア充狩りにいっか?」と大人げなく笑った。
流石にクリスマスイブの20時ともなれば客足は減り、侘びしい独身か単身赴任のサラリーマン達がちらほら居るくらいは大して忙しくもない暇なバイト時間を過ごしていた。20時か、上がるまで後1時間ちょい。一護は脳内で逆算しながらおでんの灰汁を取り、具を入れ替える。全ての仕事は前の時間で全て済ましてしまった。手持ちぶさたな時間を後1時間、どうやってやり過ごそうか考えている時だった。店内に残っていただろうサラリーマンが煙草をひとつだけ買って店を後にして人が居なくなった店内に響く店長の声。

「なあ、一護さ去年も確かクリスマスイブは出勤じゃなかったっけか?」
「うっせえ店長、そんな事一々記憶してなくていーんすよ」
「えー、だってさあイブだぜ?イブ!阿散井なんざ去年も今年もちゃっかり2連休じゃねーか!良いのかあ?舐められてっぜ?」
「…いや、あんたも一緒でしょうが。どーしたんですか先月の女の子は」

先月に付き合ったばかりの女子大生を連れて店に顔を出した檜佐木を思い浮かべる。思い浮かべると言っても彼では無く、彼が自慢気に連れてた女についてだ。
綺麗にカールしたロングの髪をブラウンに染めて中々清楚な格好をしていたが化粧が少しだけどぎつく、且つ付けている香水もかなりきつかったので一護は嫌でも脳内へとその印象を植え付けられた。今時の女子大生ってのはこーも臭いのか。高校を卒業後、私立大学のスポーツ医学学科へと進学した一護にとって女子大生は縁遠い。接点が無いのだ。いくら共学と言っても一護が受けた学科には見事に男しか存在しなかったし、校舎が離れている事から別名「地獄の男子学寮」と陳腐極まりない名称まで頂いているのだから女子大生は身近には存在しない。しかし出会いに飢え、恋愛に飢えている野郎共は飽きもせずに毎日合コンなんてモノに参加しているし、それに一護も誘われたりするが参加はしていない。
いや、一度だけあるのだ参加した事が。
無理やり、それこそ「長い人生の中、何事も経験は大事だぜ!?」と全く説得力の無い文句に引きずられて安い居酒屋の酒をたらふく飲まされた。安くてまずい酎ハイの味は舌にも不味かったし酔いも悪い、料理は油だけが多く味が濃すぎてくどかったし不味い。女も男も酒の勢いに任せて煩いしどちらも洒落づいているから様々な香水が混ざり合ってとてもじゃないが気分が悪かった。父親の血を引いているのか、酒は強くこんな安い酎ハイで良くもまあここまで酔えるもんだ、と半ば冷めきっていた。性質の悪い酔っ払い共の中に一人でシラフでいる事がつまらなくて終始仏頂面でマズイつまみをちまちま食べていた、と言うだけしか記憶に無くもう金輪際参加なんてするものかと心に誓ったのだ。
だから女子大生が希少価値のあるイキモノ!などと言われているのが良く分からないし、檜佐木はとっかえひっかえ女子大生と付き合っているから良く付き合えるなと感心に近しい感覚で思ってたりもする。

「あー…ダメだったなあ」
「またっすか、良い加減丸くなれよ檜佐木さんさ。恋次を見ろ!付き合って5年だか10年だかだぜ!?」
「いや…10年はねーだろう。彼女さんまだ19歳だろう?10年前っつたら9歳じゃねーか犯罪じゃねーか、いやまて…19の時点で犯罪じゃね!?」

うわあ、幼馴染みと付き合うって怖いな。ヘタしたら犯罪一歩手前だぜ?等と訳の分からない茶化しを披露して興味なさそうに新聞を捲って読む。

「なーんだよ一護さ、合コンとか行くんじゃねーの?今の大学生ってそればっかか?」
「いっかねーよ面倒臭いし食いもんも酒も不味いのに何が楽しくて行くんだよ」
「かっわいくねー!つか枯れてんよねお前。前から思ってたけどさ舌こえすぎ。自分で料理とかすんの?」

それとも誰かに調教でもされたか〜?ニヤニヤ笑いながら痛い所を突いてくる彼にひくりと口角が上がる。コンビニの弁当は食べない、外食もあまりしない、学食に行けば美味いもマズイも言わずにただ口に入れて腹を満たしているだけ。空腹を紛らわせるだけの食事ばっかり取ってる一護は去年から実家を離れて安い学生アパートで一人暮らしを始めている。学費は奨学金を取っているから大丈夫だが生活面はこうしてバイトしながら生計を立てて学業と両立させていた。自炊は時々、本当に暇な時に作るだけで冷蔵庫の中はビールか水、それとオレンジしか入っていない。
これ以上話していたらボロが出るし、25を過ぎてもヤンチャ盛りの男のネタになるつもりは毛頭ないとして雑誌の整理へと出向かった。

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