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カラフルな夜にウィンターソングが響く


冬の夕暮れ時って好きだな〜。
オレンジ色が黒く染まって濃いバレンシアオレンジの色合いを空に反映させるから急にオレンジが食べたくなった。最近は煙草も吸ってないから口寂しいし、何か口に含んでいなきゃと体が勝手に思ってついオレンジに手が伸びては無心で食べてる始末。そんなに食ったらオレンジになっちまうぞ、悪戯っぽく笑う一護を思い浮かべてふふと笑った。
暖房の切れた教室は冷たい。椅子も詰めたくて頬を預けている机も冷たいから突っ伏したままブレザーのポケットに手を入れて暖を取る。
図書館にでも行けば良いのにそれをしないのはあそこからはオレンジスカイが見れないからだ。グランドに近い図書館で見る空はかなり狭い。それなら教室の、ベランダに続く並べられた窓からパノラマサイズの空を見た方が良い。
キラキラ光る真夏の夕暮れと違って、真冬の夕暮れ空はどこかアンニュイに煌めく。どちらかと言えば夏よりは冬の方が好きだ。冬男だからだろうか、決して寒いのが好きだと言うわけではないが暑いのは極端に苦手。夏生まれの一護も暑いのは苦手だと言いつつサウナみたいな体育館で走り回っていた、どう足掻いても運動は趣味ではない浦原にとっては走り回って汗水垂らす事の需要さが計り知れなかった。見てるだけで疲れるんだもん、オヤジ臭い事を思いつつこうして部活が終わるまで教室で待って居る。
時には学校から出て駅近くのコーヒーショップで待つ事もあるが、出費が無駄にかかってしまうから教室内で待つのが常になっている。
目前に広がるオレンジスカイ、徐々に赤みを増す空の濃さにカラスがかあかあと鳴いてグラウンドの声援と混じった。夕暮れ時の教室内には明かりが灯らず、入り混んでくる赤の光に様々な影が生み出される。
お腹減ったなあ…
移ろい行く雲の流れを見れば自然と睡魔が押し寄せて来て瞼をそうっと閉じては眠りの浅瀬へと入り込んでいく。

イヤホンから流れるロック調の音源が急に切れてパチパチリと遠くで鳴る音と共に瞼から透けて入り混んできたのは蛍光灯の眩しい白。
ん、ひとつ唸って片目を開ければ真っ白の空間が視界に広がり、徐々に形をクリアにしてくる。目前の窓の外は真っ暗に染まっていて、蛍光灯の光が窓に反射し教室内の風景を反映させた。オレンジ色が色濃く映っている。

「…つかれさま…」
「んー。起きたか?ごめんな遅れた」
「今何時?」

うつぶせの状態で寝入ってたので上体を起こした瞬間にギシリと体が唸った。背伸びしながら聞けば目前の椅子を引いて一護は腰を下ろす。

「18時い」
「なんだ、いつもよりは早いじゃない」
「冬休み前だからな」
「なるほど。帰る?お腹空いちゃいました」
「じゃあコンビニ寄ろうぜ」

大きな欠伸を繰り返す浦原を見てクハっと笑いながらバックを手に持って立ち上がる。一護に習って浦原も立ち上がっては鞄を手に取って教室を後にした。パチリと消えた蛍光灯の明かり、真っ暗闇だと思った空には無数の光が瞬いている。すっかり冬なんだな、当たり前な事を言いながら肩を並べて歩く。

*************

玄関で上履きから靴に履き替えて外に出た。ハアっとわざと息を吐けば真っ白い息が夜空に吸い込まれる。コートを羽織っていても外気は容赦無く肌をぶるりと震わせ、鼻の奥がツーンと痺れたみたいに痛くなった。ぎゅむ、強く目を瞑りながら震える声でさみい…と呟く言葉さえも白い息に変わる。

「ホワイトクリスマスになっかなあ…」

ダウンのポケットに手を突っ込みながら一護は夜空を見上げながら言う。鼻先が僅かに赤くなっていた。

「なに、意外にロマンチスト?」
「ちっげーよ!遊子がホワイトクリスマスが良いな〜って言ってたんだ」
「可愛いなあ、女の子っすね」
「手ぇ出したらころす」
「こおんな怖いお兄様が居たらデートも誘えないなあ」

冗談めかして言えば一護は意地の悪い笑みを見せて笑った。ニヤリと不敵に笑んでみせるのに屈託なく見えるのは彼が年相応に幼いからだろうか。浦原もつられて笑いながら「雪、降ると良いっすね」だなんて呟く。
8センチの差がある一護の横顔を見る、いつになく元気が無い様に感じられる彼からはお得意の憎まれ口が半減していた。なんだろう、浦原は胸に突っかかるナニかを飲み込む様に息を吐いては飲んだ。機嫌が悪そうな訳でもないし、具合が悪そうな訳でもない。悩んでる?ナニに?考えを巡らせても沈黙が続くだけで答えには到底届かなかった。

「どっか寄ります?コーヒー飲んだり」
「んー…あんまん食いたい…」

く、笑いを噛み殺す。食い意地だけは普段通りだから具合が悪い訳ではなさそうだ。

「じゃあセブンね。あっちのがあんまん美味しいんだっけ?」

浦原の笑いを含んだ言葉にもただ頷くだけで一護の口はへの字に引結ばれていた。ペース狂うなあ、頭をかきながらチラリと横目で見る。
きっと、どうしたの?とこちらが問うた所で彼からの返答は得られないだろう。なんでもかんでも心の中に閉じ込めてしまう性分だから一気にストレスは溜まりやすい。もうちょっと楽しても良いと思うけどな。心中で思っても浦原は敢えて言葉にはしなかった。一護には一護なりの考えがあるんだろう、他人の自分が間に入った所で変な具合にもつれるだけだ。そう考えたら何故か寂しい気持ちになった。

「お腹減った?」
「ん。ちょう減った…」
「だけどあんまんなの?」
「笑うなよ、甘いのが欲しいの。疲れてんの」
「そんなにハードだった?今日」
「んー…部活はそうでもない」

ならなんなんだ。思った事が顔に出てたらしい。少しだけ眉を顰めた浦原の表情を見て気まずそうに視線を外す。

「寒いからだな…体が思う様に動かねー…あーあ。早くおわんねーかな、冬」

そう言って誤魔化す。半分本当だけど半分嘘な言葉は瞬く間に白く染まる。
ふーん、何か言いたげな返答が隣から返ってきたが敢えて無視を決めて若干足早に目当てのコンビニへと足を向けた。
学校から出て数十分の所に位置するコンビニは駅から少し離れた所にある。駅近くには多数のコンビニが建ち並ぶが、一護が贔屓にしているコンビニはここにしかない。ファミマよりもローソンよりも大分質が良いと思えるコンビニはおでんも美味しい。何より一番気に入っているのは店員が良い指導を受けているから常に苛つく事なく買い物が出来る所だった。他のコンビニには無愛想な店員ばっかりで買い物するだけでイライラが積もってしまう。
なにやら腑に落ちない感覚を持ったまま、二人で自動ドアを潜れば最初に出迎えてくれたおでんの匂いにくうっと一護の腹の虫が泣いた。

「…く、自動ドアの音よりも響いてたけど…大丈夫?」
「…おい、笑うな。育ち盛り舐めんなよ」

腕にパンチを喰らっても尚、体を小刻みに震わせながら笑いを耐えてる浦原を放置してまずは雑誌コーナーへと足を向けた。雑誌なんて買わないのになんで覗いてしまうんだろう…コンビニの計算された配列の罠に見事引っ掛かるのは毎度の事。週刊雑誌の売れ残りを開き「まだこの漫画やってんだ…頑張るなあ」と失礼な事を二人で話しながら冷やかして今度駅近くに出来たアパレルショップの情報を雑誌で読んで行こうと約束を交わした後で一護はお菓子コーナーへ、浦原はドリンクコーナーへと足を伸ばした。
お、新発売。冬限定商品を見て一個だけチョコレートを手に持つ。市販のチョコレートの味はあまり好きでは無いけれど新商品やら限定商品などの謳い文句に一護は弱い。遊子と夏梨への土産として購入する事に決めたチョコレートは「とろける食感」とロゴがふられていた。

「え、チョコも買うの?どんだけストレス溜めてんの」
「うっせえ!遊子と夏梨の土産だ!」
「…みっつも?」
「…ひとつは…自分用…」

これには流石の浦原もしゃがみ込んでクククと肩を震わせながら笑う。子供扱いされた事に腹を立ててペシンと頭を叩けば痛いと文句を言われる。文句言いたいのはこっちだ馬鹿、言葉にはせずにむくれ面を作って無言のままでレジに並んだ。
遅れて後ろに並んだ浦原の手にはホットの缶コーヒーとブラックのミンティアが握られている。黒ばっか好む男は甘い物はオレンジ以外口に含まない。
コンビニで選ぶ物でさえも差が出てる様に感じて聞こえ無い程度に舌打ちをして不機嫌な表情のままレジであんまん一個と頼む。店員には悪い事をしてしまった、一護の表情を見た瞬間にヒっと小さく唸った男性店員は気の弱そうな表情を青ざめながらてきぱきと清算を済ませ、過度な接客態度を示す。俺はヤクザの親分じゃねーぞ、あからさまに怖がった風を見せた彼にも八つ当たりをしてしまう程、心は面白くない感情でいっぱいいっぱいだった。

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