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浦原の会計も待たずに外に出て袋から取り出したあんまんの包みを開き一口頬張る。開けた瞬間にあんまんは白い湯気を出す。ふにふにした柔らかいあんまんを押しつぶさずに手で持ってはむ、と唇で切り分けて食べればまずは舌先に熱さが伝わり生地の仄かな甘さが広がった。続けて食べればぎっしり詰まったあんこが熱く舌先を突く。あちち、一人で呟きながら食べていれば自動ドアが開いて浦原が出てきた。

「もう食べてるし…」
「だあっから腹減ってるんだってば!」

はいはい、ムカツク感じでスルーされて膝に蹴りを入れれば痛いと良いながら袋から中華まんの包みを取り出して剥がした。

「なに?あんまん?」
「にくまーん。それ、めちゃ甘いでしょ?」
「めちゃ甘だから良いんじゃん」
「いやあ…オレンジの甘さなら良いけど…」
「なんでもかんでもオレンジに結びつけやがって!」
「いたい!だから痛いってば。足が短くなったらどうしてくれるんですか」
「短くなれ!んなもん!」

少しだけ腹が満たされれば先程までのイライラはちょっと消えていた。調子を取り戻した一護に内心ホっと胸を撫で下ろしながらも肉まんを頬張る。熱いくらいの湯気を発するが直ぐに冬の外気に晒されて端から冷めていく生地、じゅわっと広がる肉汁が熱くてウっと詰まるも空腹には最高のスパイスだ。
ほくほく食べる浦原の横顔を見て、あんまんをぱくぱく食べる。食べるが甘さだけが口内に広がって半分程平らげた時には腹は塩辛さを欲していた。
チラリ、浦原を無言で見る。

「…だから、肉まんにしたら良かったのに…」

一護の視線から意図を察した浦原は苦笑しながら肉まんを食べた。

「うっせ…甘いの欲しかったし…二個買えばよかった…」

見て分かるくらい、シュンと項垂れた一護を見てハアと溜息を吐きながら食べかけの肉まんを横に流して食べる?と問えばおう!と威勢の良い返事が返ってきた。
浦原の手から一口だけ肉まんを齧って美味いと笑う。

「つーかこの、白い方?この生地、これが好き」

持っていたあんまんの生地の部分を指さして見せた。

「ああ…中華まん?」
「え…なに、これが中華まんって言うの?」
「そ。生地の方が中華まん。小麦粉、水、砂糖、イースト、酵母、ベーキングパウダーをこねて発酵させた生地。これにあんこを挟んで蒸して出来上がるのがあんまん。」
「へえ…パンみたいなもん?」

少し違うけど、と笑ってみせる。

「お前も食う?」
「んー……」

今度は一護の方が手に持っていたあんまんを差し出した。未だ、白い湯気を立ち上らせるあんまんからは甘い香りが漂い、塩気だけの肉まんとはまた違った意味で美味そうに見える。
パク、と何も言わず食べれば甘いあんこの味が口内に広がった。美味いべ?悪戯っ子の容量で笑う一護が間近で視界に映った時に浦原の思考は全てストップした。
なんだろうこれ、この寂しい感じ。
先程から胸につっかえて鬱陶しかった感情が不鮮明な形を持って心臓をバクバク躍らせた。気付いた時には間近にある唇に唇をくっつけていた。
ア、思った時にはもう遅い。
まん丸く見開いた琥珀色にネオンの明かりが反射する。街中、クリスマスイブの夜を祝うかの様にネオンを散りばめ、心なしか浮かれていた。赤と白と銀色と金色、緑にピンク。様々な色彩が光の粒となって木々を彩る。コンビニの光なんて目じゃない具合に光輝くカラーネオンが一護の琥珀色から反射して浦原の瞳に映った。

「あ、…一護さん」
「え…あ、ああ?」
「アタシ、本屋寄るから…地下鉄使いますね。あ、肉まん、良かったらどうぞあげるじゃあね明日ね」
「え、ああ…おう。じゃあな…」

いつに増して丁寧な言葉使いでノンブレスで紡いだ言葉が情報として耳に入らないまま、互いに静かなパニックを胸に宿したまま、同じ道を別れた。手渡された肉まんはもう冷たい。
ヒュウっと吹く風が冷たくて浦原の背中だけが遠く遠く遠ざかり小さくなって曲がり角で消えた。一護の瞳に映し出されたカラーネオンだけが変わらずキラキラと瞬いている。
唇に残った僅かな感触、はたと気付いて急にしゃがみ込んだ一護の背後から女子高生の「え、なんで急にしゃがんだの」「大丈夫あの子」等の声も耳に入らない。クリスマスソングのチープなメロディも、ポップスも、街の喧騒も学校のチャイムも何もかも。
冬の寒さもいざ知れず、一護の体温は一気に上昇。耳まで真っ赤に染め上げながら嘘だろう…と小さく呟いた。
あんな距離は初めてだ。まして口づけされたのも初めてだ。訳が分からなくなって取り敢えず心を落ち着かせる為にあんまんを全て頬張った。
クリスマスソングがクリアに聞こえ始める頃、一護の唇に残った感触は有り得ない程の熱を上げる事に専念した。












カラフルな夜にウィンターソングが響く

◆クリスマスカウントノベル第五弾は突然の進展でお送りしました^^うっかりキスしちゃった浦原さんとキスされた事に気付かない一護。静かにパニクる二人を書きたかったんです^^この場面を最初に思い浮かべてクリスマスノベルにしようと段取りしてたので無事に書けて嬉しい^^学生時のお話はここで終了です。次からは本番!頑張ります^^皆さんにとって幸せなクリスマスになりますように^^

meru




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