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番外編


子猫と彼と笑顔

なあ、浦原って笑うの?
とある生徒からの質問に一護は眉を顰めてみせた。一護は浦原の笑顔を見た事があるが、この男子生徒は見た事がないらしい。

「…なあ、そんなに鉄仮面に見えるか?アイツ…」
「表情ないしさあ…なんつーの、心のビョーキ?って思って」

アクセントを付けて病気だと口走った彼を途端に殴りたい衝動に駆られたが、唇を尖らせるだけで無言を貫いた。
体育の授業には浦原は出ない、特に夏の体育館競技の場合は。居ない彼の話でやけに盛り上がった男子バスケコートで一護は手に馴染むボールをパスしながらビョーキなわきゃねーだろうと言った。

「あいつがんな繊細なもんか。笑うぜ、嫌味ったらしくな!」
「なにそれ!みたい!」
「っんでだよ!見ても面白くねーよ!」

ボールを受け止めてまた返すの繰り返しの中で言葉を交わした一護達2人によってたかって人が集まり始めた。議題は「浦原喜助の笑顔について」だ。
クラスメイトを数ヶ月続けても浦原は一護以外とあまり喋った試しがない。皆、畏怖はしているが興味はあるらしく一護に根掘り葉掘り聞き出すのに必死で一護と体育教師に鉄拳を喰らう始末になった。
ケチー!一護だけアイツの笑顔見れてケチー!なんだかわけの分からない嫉妬までされてそう叫ばれた時は恥ずかしさのあまりボールを投げつけてしまっていた。

*************

ありがとうございましたぁ、失礼しまーっす。
間延びした言い様で保健室を後にする。一護が投げつけたボールを見事、顔面でキャッチした浅野は顔は崩れてないものの、鼻血を出して保健室の世話になった。なんで俺が面倒見なきゃいけねーんだ…ぶつくさ言うも、やはり自分に非がある事は確かなので渋々連行、そして数分で止まったので鼻に丸めたティッシュの栓をした浅野と一緒に保健室を後にした。
青春もホドホドにね〜怪我しちゃうからね〜
呑気な言葉でおどけてみせる保険医は終始にこやかに対応、浅野はへへへ〜と馬鹿みたく笑っていたが一護だけが仏頂面を崩さずに居た。
保健室でぐうすか寝てると思っていた男が居なかった事が気にくわない。
アイツ、どこでサボってやがる。まさか煙草吸ってんじゃねーだろうな…シメる。
物騒な事を心中で思いながら煩い浅野の声を聞き流して教室へと戻った。

*************

開けた教室内は体育の授業が終わった後の騒ぎを見せている。ざわざわと少しだけ煩い教室内でただ一人、机に突っ伏して寝こけている生徒を素早く発見する。

「なあ一護…頼むよ、一度で良いからさ、浦原が笑うネタちょうだい!」

アイツまた寝てる、チっと舌打ちした一護に両手を合わせて拝みの姿勢をして見せる浅野に冷ややかな視線を送って大袈裟に溜息を吐く。

「もう好きにしろよ…猫の可愛い動画でも見せればいーんじゃねえの?」
「は?猫?」
「本人曰く、病的に好きで避けてんだと」
「わあ…病んでる発言だなあ…」

引きつった笑いを見せても浅野は諦める事なく素早く携帯を取り出してはなにやら動画探しに夢中。そんな浅野を無視して浦原の元へと向かった。

「おいこら三年寝太郎!起きろ!」

ペシペシ頭を叩けば唸り声を出した後でのそりと顔を上げて目を思いっきり細めて一護を睨む。密かに結成されているらしい浦原ファンクラブの女子連中には王子様、等と砂を吐きそうになるくらいの不名誉な敬称があるらしいが…この極悪面見せてあげたいよなあ、一護は思いながらペシペシと叩く手を止めない。

「あえ…一護さん。授業終わった?」

くああ、大きな欠伸をしながら背伸びする浦原はどこか猫っぽい。

「とっくに終わったっつーの。つか良い加減体育出ろよ…越智さん怒ってんだけど」
「まあ、…その内ね」

いつだよ!一護が声を荒げた途中で浅野が会話を割って入り混んできた。

「おはよーっす!浦原!なあなあ、俺、こんな動画見つけたんだけど!見て!見て!」
「啓吾…うっさい!」
「いってえ!何も渾身の力で叩く事ないじゃん!」

拳で叩かれたつむじを押さえながら涙目で見るも、携帯はちゃっかりと浦原の手に渡っていた。
手渡した際に再生ボタンが押されて、画面越しで映像が浮かんでは何やらちまっこい物が動き回る。
眠っていたせいでコンタクトが乾き、視界がクリアじゃないが徐々に慣れてきた浦原の視界に入り混んできたのは何とも愛らしい三毛の子猫がみゃあみゃあとその小さい口を精一杯大きく広げてカメラを構えている飼い主に向けて鳴く。ちょこんとお行儀良く座って、上目遣いのあざとい姿を演出してはつぶらな眼をいっぱいに飼い主を映し出した。

「こ、れ…」
「な!?可愛いだろう!?鳥肌立つくらいにきゃわいいだろう!?」
「うっせーっつってんだろうが!耳元で喚くなバカ!」
「ぎゃん!!」

携帯を持ったまま静止し、心なしかフルフル震えているだろう浦原に大声で言えば再び一護の手痛い鉄拳をお見舞いされた。
さあ笑え、笑うんだ浦原!心中でそう叫びながらテンションが高まった浅野は期待に瞳を輝かせた。

「ふ、ふは…ははは」

ガッツポーズまでして一護の首に縋り拳を握ったにも関わらず、想像していた浦原の微笑みとは全く違った笑顔だったので表情をそのままにしてガッツポーズした拳をそうっと下ろした。

「おかしい。想像してたのと随分違う…」
「…なんだあれ、気持ち悪いな」

いつだって一緒に居る筈の一護に至っては思いっきり眉間に皺を寄せては気持ち悪いと連呼していた。



◆◆◆

浅野啓吾さんから見た浦原喜助。
「なんか、猫見せたら病気になる人!」

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