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番外編2


夏にセンチメンタルリズム

RRRR,RRRRR,カチャリ、留守番電話サービスへ接続、ぶつん。
なんで出ないんだよ。唇を尖らせながら電話を切る。真夏の殺人的な日光を避けながら木々の影を踏んで歩いて10分、たったそれだけの時間だったのに既に汗でシャツは濡れて不快さを与えた。
にしてもクソ暑い、みーんみんみん鳴くセミの声も鬱陶しい。気を抜いたら熱射病に陥ってしまいそうな驚異的な暑さに早く浦原のマンションへと辿り着きたい一心で足を速めた。
浦原が学校に来なくなって4日が経過する。そろそろ夏休みに入る手前の時期、何の連絡も無しで無断欠席されたんじゃあ先生心配だから黒崎、行ってらっしゃい!全くもって心配の色も見せない物言いで軽く言った担任教員はなんで俺が!と言う一護に向けて「だってあんた仲良いじゃんか。それに心配なんだろう」と一護の心を見透かして爽やかに笑った。

「…ほんっと…負けるよな越智さんには…」

途中で酔ったコンビニで購入したガリガリ君アイスを食べて進めば幾分かは涼しい。けれど流石のガリガリ君も溶け始めてきた。
イヤホンから流れるロック調のメロディもセミの合唱には負けてしまうらしい。チっ、ひとつだけ舌打ちしてもう一度かけ直した。
RRRR,RRRR…出る気配の全くない電話越しのコール音。
浦原のくせにシカトとか。随分調子こいてるみたいだ。
一護の足が怒りを含めてアスファルトを踏みしめる。

**********

ぴんぽーん、間延びした電池切れ一歩手前の情けない音を発してインターホンは鳴る。108号室とプレートに書かれたドア前に仁王立ちしながら立ち、1回目のインターホンを鳴らして数秒待ってみた。
何も、反応は無い。
ぴーんぽーん。
もう一度押して数秒待つ。全く反応が無い。
みーんみんみんみーん!!一際大きく鳴り出したと同時に一護の堪忍袋の緒がブチリと音を立てて切れた。
ドンドンドンドン!拳で何度も叩き、音を大きく反響させる。

「うーらーはーらー!居るのは分かってるんだー!大人しく出てきなさーい!………出てこんかい!こら!」

居留守を使っているのは知っている。なんだか直感でそう思う一護は野生の本能を駆使してまるで取り立て屋みたいに叫びながら返答の無いドアを蹴った。

「…近所迷惑なんスけど…ガチで通報されたらどうすんですか」
「お前がさっさと…出たらこん、な……おい、どうしたソレ」

威勢良く噛み付いてやろうと思った心が浦原の顔を見た途端に萎えて違う意味で怒気を含みながら眉間に皺を寄せた。
珍しく眼鏡をかけた姿の浦原は白いTシャツにグレイのスウェット姿で裸足、けれど一護が皺を寄せた原因は浦原の顔そのものにあった。
右端、唇の右端が紫色に変色するくらい切れていて殴打した後がくっきりと残っている。生々しい傷跡に一護は胸がギュウウっと締め付けられる思いを味わう。

「あー…だから出たくなかったんだ。目立つ?」
「ちょう目立つ。だからどうしたんだっつーの」

バカ校の奴らか?一度だけ浦原と一緒に居た時に絡んで来た他校生グループの名を出せば違うと苦笑した。

「とりあえず入って。暑い」

君、帰れっていっても帰らなさそうだから。玄関を開けた浦原の横を通り抜けて靴を脱いで上がるとフローリングは流れてきたクーラーの冷たい空調でひんやり心地良く冷えている。
扉を閉めて一護の隣を通り過ぎ、リビングへ向かう浦原の後を着いていく。風邪だなんだ、それか暑いからと言う理由で外に出ず学校にも顔を出さないのだろうと踏んでいたが、これは予想外過ぎて一護はなんで俺に連絡してこなかったんだと下唇を噛み締めた。

「それで?」

リビング兼ベッドルームに足を運び入れ、テレビ前にあるテーブル下に鞄を置きながら腰を下ろす。
険しい表情の一護をベッドに腰掛けながら見た浦原はククと笑った。

「怖いですって。ほーんと他校生に絡まれたとかじゃないから」
「じゃあなんだよ!」
「…父親とバトっちゃって」

淡々と話す浦原の声色は変わらないのに、怪我のせいで表情が曇っている様に伺える。きゅ、一護はテーブル下に隠れた手を握りしめた。

「さっすがにこの顔じゃあ学校には行けないから。ごめんね、連絡しようと思ったけど…家庭内問題って…かっこわるいっしょ」
「…んな事ねーよ」

上手く言葉が出なくて所々引っ掛かる。口ごもった一護を見て浦原は再度笑った。ベッド脇のテーブルには灰皿があり、あたかもつい先程までは喫煙してた感じの吸い殻が何本かくしゃくしゃに曲がって散らばっている。心なしか部屋の中も曇っている感じがした。

「煙草、やめろつったのに」
「ごめんね」

ただ謝るだけの浦原の表情はかなり危うく、このまま彼が疲労で倒れてしまうんじゃないかと危惧してしまった。
心が疲れてしまえば体も悲鳴を上げる、一護は身をもって知っているが、家族間でのいざこざの経験は無かったから何も言えなかった。ちゃらんぽらんに見えて実はいつだって一番に子供達の事を考えてくれてる父親を一護は尊敬しているし、傷が残る様な下手な殴り方も殴る事もしないだろう。
一護は浦原の父親を知らない。聞いても「頑固な人です」としか言わない。

「なあ、今日さ、泊まって良いか?」

何も出来ないからこそ、何も言えないからこそ、傍にいてあげたいと思った。

「え?」
「ダメか?明日は土曜だし」
「朝練は?嫌っすよ〜朝苦手なのに起こすの」
「何か!起こしてくれんのか!?」
「いや、自分で起きろって」
「んだよ〜…いーじゃん明日は午後からだしさ。お前、バイトは?」
「こんな顔で出れるわけないじゃない」

怪我の所を指さして下手くそに笑う。

「あー…まあ、ハンサムになったんじゃねえ?」
「うええ、夜一さんと同じ事言わないでよ。ほんっと痛いんスからね!」
「手当の仕方が悪いんじゃんそんなの!救急箱ってねーの?」
「…は?そんなおばあちゃん家にある様なのがアタシの部屋にあるって思う?」
「いやあ、まったく思わない!」

でしょう、今度は普通に笑った。
徐々に普段の彼に近づいていっている事に一護は安堵する。
みーんみんみんみん!!みんみんみん!セミの合唱が強く窓の外で夏の空を震わせた。





◆◆◆

黒崎一護さんから見た浦原喜助の父親。
「星一徹みたいなおっかない人!」
「…期待を裏切って悪いけど、うちの父親はちゃぶ台返しはしないですからね」
「……(・ω・`)」




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