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クラスメイト3


玉ねぎにニンジンと鶏肉を混ぜてこね合わせ塩胡椒して味付け。フライパンに乗せて玉ねぎのおろしと共に蒸す事5分程度でこんがり焼き色が付く。両面しっかり焼いて出来上がるのが鶏肉のハンバーグ。味つけは至ってシンプルだが肉汁の旨味と玉ねぎの苦味が絶妙なスパイスとなる。
メインはハンバーグ、あとはかぼちゃをレンジでチンして拭かしたさつま芋と一緒に混ぜ合わせてラップでボール状にまるめた茶巾しぼりと卵焼きに豆のサラダ。使い捨てタッパーにぎっきり詰めたお米は既に冷えている。メインは別にまとめて輪ゴムで止めればお弁当の出来上がり。食べ盛りの彼は華奢な体からは想像も出来ないくらい綺麗にペロリと平らげるから見てるこちらも気持ち良くなれる。
全てを紙袋に詰めて浦原はマンションを後にした。

街の喧騒を排除する為に耳に栓をしたイヤホンから流れるロックテイストのメロディが甘いバラードを刻んだ頃、学校ではお昼時を知らせるチャイムが倦怠に鳴り響く。かすかに耳へ届くチャイムの音を聞きながら正門をくぐり校内へと入った。
周りの喧噪を無視した空間が校舎内には存在している。三年生専用の廊下だ。AからEまでのクラスが集中する校舎内で三年用廊下は静か、皆、受験生としての特別講習が午後に控えているので昼時には別校舎へと移動している。打って変わり静まり返る廊下は少しだけ不気味ではあるが、他の喧噪に耳へ入るメロディが邪魔されないから浦原は密かにお気に入りでもあった。三年用校舎の渡り廊下にある階段は唯一屋上へと続く階段で、夏の頃は上級生の視線も余所に登っては屋上で一休憩を入れていた。
んん。ついうっかり鼻歌も流れてしまう。冬の寒さは徐々に厳しくなり、一歩外に出ただけでも耳と鼻、そして手先が冷え切ってしまう季節になった。日差しが暖かい12時、今日は偏頭痛も無く浦原の機嫌はすこぶる良いから鼻歌が流れても仕方がない。

「おいこら、重役出勤ですか浦原喜助君」

後ろから頭を軽く叩かれ振り返れば一段下に居た女性教員はノンフレーム眼鏡レンズの奥に意地悪い瞳を潜ませ浦原を見上げながら出席簿でトントンと自身の肩を叩く。

「…おはようございます先生」
「おはようじゃないよ全く…今ランチタイムだよ、まあなんだ…来たから良しとするけどなあ…出席日数足らんくて卒業出来なくなるのは嫌だろう?」

大袈裟に溜息吐かれて肩をすくませる。

「はあ…さーせん。偏頭痛が治らなくて」
「知ってる。黒崎が言ってたからね」

けど甘えんなよ。さっくり切られた嘘が浦原を苦笑させる。なんだってこの人はストレートなんだろうか。少しだけ、一護に似てる所がある教員はちゃらんぽらんに見えてその実しっかり生徒達一人一人を見ているのだから大人と言うのは器用に出来ているらしい。
苦笑しながら謝った浦原に対してまたもや溜息を吐きながら「頼むからさあ…」と言って何かに気付いた様に浦原との距離をグンと近づけた。ゼロになりそうな距離、反射的に体を引いてしまっては心臓が少しだけ唸ったが、ああ…そう言えば先週から禁煙してたっけ。と思っては苦笑を漏らす。慣れとは恐ろしい物だ体が勝手に反応してしまう。

「あんたさ…なんか、良い匂いすんね?」
「ふ、先生ってばお腹空いてんの?」

良く気付くな、浦原は手に持った紙袋を掲げて見せると目前の彼女はああと納得しながら笑った。

「ちょー減ってるよ重役出勤の生徒の為にここまで走ってきたからね、昼飯は後だ。今度詫びとして何かご馳走してよ、黒崎が煩いんだわ。あんたのメシが一番美味いってさ。」
「ふはっ、そんなに煩い?」
「煩さいね、部活終わりとか特にさ!三日食べてないライオンみたいになって口を開けば浦原のメシが食いたいだのなんだの。そこまで言われたらどれくらい美味いか食ってみよーじゃん!って気になるね」

一歩下がって勝ち気に笑んだ彼女と彼がなんだか被って見えて浦原はフと優しく笑ってみせた。そんな浦原の顔を見て、少しだけ眉を下げてフっと笑う。

「まあ…なんだ、うん…安心かな?」
「何がっすか?」
「うーん…なんつーか、危うくてな。社会なんてこんなもんだって最初は諦めていただろう?」

ぎくりと心臓が情けなくも震えたがお得意のポーカーフェイスを崩さず、ただ無言を突き通した。

「どこか達観してる部分があるからね、大人としちゃあ心配だったのさ。浦原、オヤジさんの事と自分の事を一緒にしちゃあダメだよ。あんたはあんたの好きな道を歩んだら良いんだ」
「…あんま、子供に夢見ない方が良いっすよ。裏切られたら落胆するっしょ?」
「ふ、大人だって夢くらい見たいさ。押しつけはしないが夢を見るだけはタダ、だろう?」

浦原の苦笑に対し勝ち気に笑んだ彼女は浦原の腕を叩きながら手を振って降りていく。ストレートに言葉を気持ちをぶつけてきた彼女が担任で良かった、そう思えるくらいにはお世話になっている背中は、自身と違ってかなり細い。

「越智さん」
「先生って呼べよ、ばか」
「ふ、越智先生。これあげる」

紙袋から取り出したのはアルミホイルで包んだ正方形。投げて寄越せば野球部の顧問らしくナイスキャッチを披露してくれた彼女は一旦、渡された正方形を見て、それから浦原を見て小首を傾げる。

「お詫び、甘いのは好き?」
「はあ?」
「オレンジパウンドケーキっすけどそんな甘くないから、良かったら」
「…こんなのも作れるのか…凄いな…」

感心しながらパウンドケーキを見て午後の授業は必ず出ろよと最後に釘を刺して去って行くのを見届けて浦原も階段を登る。
オレンジパウンドケーキを嬉しそうに持っていく彼女を見たら早くしなくちゃと言う気持ちが浦原の心に芽生えた。
先に寄ったクラス、そこに居る筈だと思った人物は見当たらず、午前からやってきた浦原を見たクラスメイト達は目を大きく見開く。一人の男子生徒が少し緊張気味に辺りを見渡す浦原に言った。
"黒崎なら保健室じゃねーかな。なんか具合悪そうだったし"
聞いた瞬間に保健室を思い浮かべたが直ぐ様考えを変えてお礼を述べてから教室を後にして今に至る。

「気分が優れないんじゃなくて、機嫌が悪いの間違いでしょうに」

クスリと笑って足を速めた。


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