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真夏の屋上はとても気持ち良い、雲ひとつない真っ青な空の下、夏の空気をふんだんに含んだ風がおざなりに吹き付ける。校舎内の喧噪から遠く離れた屋上で休息を入れるのが日課となっていた昼休みは先月で終了した。
先月、屋上内で喫煙が発見されてから屋上の扉には頑丈な鍵がかけられ生徒達の立ち入りを禁止したからだ。そう発表された瞬間に鋭い視線を一護から貰ったが自分ではないと眉間の皺を親指で押したら瞬く間に不機嫌になった彼を思い出す。
普段からそう煩くなく慣れた者としか会話しない一護が不機嫌になると無口になって眉間に刻む皺を増やして大人しくなる。傍目から見れば気分が優れない様にも見えるだろうが浦原は本当に具合の悪い時の一護を知っているから、彼の不機嫌と体調不良の区別くらいは付く。
7階の階段を上がりきれば残り数段で屋上の扉へと続く。目上に見えた扉の小窓からは冬の青空が見えた。残り数段を二段飛びで駆け上がり、ハっと一呼吸入れた瞬間に傍からドス低い声が聞こえる。

「おせえ」
「…おそよう」

ドアの手前、少しだけ開いたスペース、壁に背中を預けながら座り込んだ一護はキャメル色のカーディガンの上から二年生用の紺色ジャージを肩にかけ、どこから引っ張ってきたのか暖かそうなブランケットを膝にかけている。
見るからに不機嫌そうな面持ち。眉間に皺を寄せ、若干だが唇を尖らせて浦原を睨み上げる一護に苦笑して隣に腰掛けた瞬間、コンクリートの冷たさが生地越しから伝わり背筋をゾワリと唸らせる。何を好き好んで暖房の効かないこちらにやってきたのか…考えながらも紙袋から取り出した弁当を広げれば途端に目を輝かせた。


「ちょう美味そう…」
「そんなにお腹空いてたの?」
「ちょー空いてた!眠って誤魔化そうとしたんだぞ!?おせえっての!」

笑って見せれば威嚇しながらも手渡した箸を割り、手を合わせてちゃんと頂きますの挨拶はしてみせる。お育ちが良いのがこの仕草で伺えて浦原はクハっと笑う。

「んだよ…怒ってんだからな」
「ごめんなさい。明日はきちんと朝から来ますよ」
「守れなかったらボディに5発」
「…心して起きます」
「ってかこれうめえ…なに?」
「鶏肉ハンバーグ」
「これは?」
「カボチャの…団子?」
「なんで疑問系なんだよ」

浦原の返答に笑った一護は美味い美味いと良いながら箸を付けては平らげていく。あ、やっと笑った。一護の笑顔につられて浦原も笑う。
調理をしている途中途中でつまみ食いをするから弁当が出来上がる頃には空腹は満たされていたが、気持ち良いくらいの食べっぷりを目前で披露されたら自然と腹が減る。
全てを綺麗に平らげ、最初と同じように手を合わせてから今度はご馳走様と言った一護の頬にブレザーから取り出したホット缶を当てた。

「うわっ、何…あったけえ」
「ホットミルクティ。ちなみにコーヒーもあるけど、どっちが良い?」

ブレザーのポケットの中、こちらに上がる前に自販機で買ったミルクティーの缶と小ぶりのブラックコーヒーを見せる。
答えなんて分かってるくせに、こうして仕返しみたいに意地悪する浦原を恨みがましく見ながらミルクティーの缶を奪い取る。

「ブラックだろう、ソレ。分かりきった事聞くなよ」

ふん、鼻を鳴らしてノブを開いてコクリと飲む一護を見て笑いながら紙袋に残るパウンドケーキのひとつを渡した。
手渡されたアルミホイルの包みを見て小首を傾げる姿が先程の彼女と一致するのだから面白い。

「デザート」
「!今日はデザート付きか!ナイスシェフ!」

甘い物には目が無い一護は嬉々としてアルミホイルの包みを開いた。ふわりと香る優しい匂いが一護には似合っていると思う。

「オレンジパウンドケーキっす」
「…本当、蜜柑好きな。お前」

少々呆れた眼差しで見てパウンドケーキをかじる。こんがり狐色に焼けた綺麗なパウンドケーキにアイシングが施されていて仄かに甘く、柑橘系の味が舌先に乗って蕩けて美味しい。バカのひとつ憶えで美味いと呟いて黙々と食べた。ミルクティの甘さが似合っているパウンドケーキは優しく腹を満たしてくれた。
いつだって仏頂面の彼は食べている時の表情が一番柔らかくなる事をクラスメイト達は知ってるのだろうか。美味しい美味しいと食べてる時と、黙々と食べている時、だまって食べてる時にちょっかいを出したら噛まれてしまう。まるで猫みたいなのに食べてる姿はハムスターだ。もきゅもきゅ、そんな効果音もしてきそうなくらい頬いっぱいに頬張って食べる姿が普段の彼からは想像も出来ない。
パウンドケーキを食べてる一護の横顔を見ながら缶コーヒーのノブを開け、ぐびりと一口飲んだ。苦い酸味、それと缶コーヒー独特の薄い味が舌先に乗っかって喉を潤す。ぬるくなったブラックコーヒーにパウンドケーキは合わないが、封鎖されたドアの小窓から射し込んでくる冬の日差しが暖かいので良しとする。
小窓から見える真っ青な冬の青空と、オレンジ、それとパウンドケーキの甘さにコーヒーのほろ苦さ。先程まで浦原が耳にしていたバラードの曲を一護は鼻歌いしながら機嫌はとっくの昔に良くなっていた。洋楽しか聴かなかった浦原に一護が押しつけた数枚のアルバム、日本のロックバンドにこうして二人ではまったのは一体いつ頃だったっけ。考えながら浦原は笑う。

「イタリア留学しよっかな」
「唐突だな、なんで?」
「んー、料理の勉強したい」
「ああ…なるほど」

冬の日差しが暖かなお昼時、大人だって夢くらい見たいさと言った彼女の声が反響した。










ウィンターブルーとオレンジパウンドケーキ

◆クリスマスカウントノベル第三弾目は二人でランチです^^個人的に越智さんが大好きなんですけど、なんだか高校時代の担任に似てる所があり愛着が持てます。私の所は屋上なんて物は無かったんですけど、屋上でサボりってのになんだか理由の無い憧れを持ってました、裏山しかなかったよ。ちなみに一護さんは料理は出来ません、出来るのはお片付けくらい。




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