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グレイのスーツは細い白のストライプが施されている至ってシンプルな形だが綺麗なラインを生み出すから長身の彼には似合っていた。ビシっとスーツを着こなし、軽薄そうに見える金髪は後ろでゆるくひとまとめ。銀色のフレームがシンプルなメガネをかけて冷たい金色を隠している。
ウェディングサンプル、ウェディングドレス、式場、教会、フラワーアレンジメントからテーブルセットまでそつなくこなすウェディングプランナー、LAの方で数年営業していた彼だが帰国してからは事業開設を始めた。初期は3人だけで回していた営業所が今や社員スタッフ100名、アルバイト50名にまで増加、拡大した事業で去年日本ウェディング事業トップを受賞した。所長、と社員達は彼の事をそう呼ぶが黒崎一護だけは浦原と苗字で呼ぶ。
いつだって冷ややかな目は書類上に羅列された文字を追い、白のウェディングドレスとタキシードを見、式場をくまなく見る。本当にウェディングプランナーか?フォーマルなスーツではなく敢えてグレイのスーツで式場に赴く姿はお世辞にも堅気には見えない、そんな彼は指命率100%の有名プランナー。芸能人から一般人、はては海外からもオファーが来る程で多忙で、社員達からは畏怖されている彼が今真剣に目を通しているのは可愛らしいデフォルトが施された子供用弁当の雑誌。到底似合わないこのコンビネーションに周りの空気は氷点下まで下がった。

「浦原…浦原…」

本部のワンフロアにあるカフェコーナー、テラス側を利用して喫煙席と禁煙席に分けている。カフェコーナーは社員とアルバイト、そして重役達の憩いの場としても活用されお昼を過ぎた後は大変賑わっているが、たった1人のせいで場の雰囲気がまるで葬式みたいに静まり、新入社員達はソワソワとコーヒーを飲んでいる始末だ。白いテーブルと白のチェア、ソファ席に座る彼は周りの空気を一切読まずにただ黙々と雑誌を読んでいる。それはもう、怖いくらい真剣に。
どこぞの葬式だよ…営業から帰ったその足でコーヒーを一杯飲んで一服しようと思ったが、馴染みのカフェ店員に「あれ…なんとかしろよ。見てるこっちまで社員さん達が不憫でならねえ」とゴーサインを出された。恋次が指さしたその先に居る渦中の人物、金色の跳ねっ毛が見えてため息吐いたのは数分前。
出先で買った英字新聞で肩をパスパス叩けば浦原は振り返り、冷めた目線のままお帰りなさいとただ一言呟くだけ。
何も聞かずに隣へと一護が腰を下ろせば周りの空気が少しだけ和らいだ感じがした。ああ良かった黒崎さんが居たら安泰だ、と言わんばかりだ。

「外回りはどうでした?」
「順調、京楽さん相変わらずなのな」

白のマグカップに注がれたドリップを飲む。珈琲独特の苦味が舌先に乗っかると同時に体はニコチンを欲する。ちらり、テラス席を見る。

「今日寒いよ」
「…知ってるわ」

視線は未だ雑誌へと注がれているのに横からぶっきらぼうな声が聞こえたので眉間に皺を寄せてみせた。お前、俺がこの寒空の下で動き回ってんの知ってるだろう。嫌味ったらしい視線を寄越すも、浦原の視線を独占しているのは可愛らしいひよこが目印になっている雑誌、タイトルは「ママと手作り弁当」だ。可愛らしいその雑誌を読んでいるのは40一歩手前の冷たい目を持った男。一護は背筋から寒気を感じたので黙ってドリップコーヒーを一口飲んだ。

「…おい、それ…」
「ネルがね、家に居るんです」
「は?聞いてねーぞ」
「今日来て一週間ネルを預かれですって、アポ無しで無理難題をふっかけてくるのは相変わらず…しかも今はお弁当デイっていうのがあるらしい。誰だそんなの提案したのは、PTAか?」
「…だから弁当雑誌なわけか。」

ふう、小さく短くため息を吐くのは本当に参っている証拠で、浦原はバサリと乱暴に雑誌をテーブルへ叩きつけた。瞬間に周りの空気がびくりと一斉に振動する。お前ら…恐がりすぎ。苦笑を漏らしたくなったが彼の1人娘が自宅マンションに居るという事は今夜はお邪魔出来ないな〜と全く違う悩みの種が一護の脳内にポンと花を咲かせた。

「俺が作ろうか?」
「は?」

ドリップコーヒーの苦味が甘さに変わった時、やっと互いの目があって一護は少々勝ち気に微笑んで見せた。


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