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I'm scared of tomorrow


二階にある自室は20畳半のワンルーム。中心の壁側にダブルのローベッドが置かれており、仕切る様に横にはスタッキングキャビネットが置かれている。二人でもゆったり寛げるコテージは茶色の落ち着いたカラーで前にはヴィンセントテーブル。この部屋には所々に灰皿が置かれていた。ベッド脇のサイドテーブルに一個、ヴィンセントに一個、備え付けのキッチンに一個。系三つの灰皿は形も色もバラバラ。どこに居ても吸える様に、部屋の主は何故か勝ち誇った笑みを浮かべながらそう言った。液晶テレビとオーディオ、おざなり程度のロフトには数えるのも面倒なくらい沢山のCD、そしてレコードが保存されている。天井には趣味の良いシーリングファンがゆったりと回り、空気を洗浄していた。
冷蔵庫のヴォンと言う音、ファンの回る音、二つの窓から射し込む光の音、そしてジャズブルースの音がいつも室内に漂っている。東京の歓楽街、そこから少しだけ外れた箇所にある一護のスタジオ兼自宅はどこか日本とは遠い所に存在しているみたいだった。
2時間タイマーで切れた空調のお陰で室内は夏の熱気を含み、茹だる様な蒸し暑さで一護は目を覚ます。きっと外よりも幾分か暑いであろう室温に耐え切れなくなってクーラーのスイッチを入れる。冷房ではなくドライに切り替えてガシガシと頭を掻いた。ふああ、ひとつ大きな欠伸をし上半身をうんと伸ばす。胡座をかきながら枕を取って組んだ足の上に置き、ベッド脇のサイドテーブルを心持ち寄せて煙草を取り出し吹かした。
上半身裸の、着用するのは黒いボクサーパンツのみ。寝乱れたネイビーの夏用布団に灰が落ち無い様注意を払う。肺に充満したニコチンによって徐々に目が覚めてきた。

「………」

吸っている内に短くなっていくシガレット。茶色いフィルター際まで短くなったのを機に灰皿へと押し付けて消す。煙草の火が消えた所で一護の右側で寝入っていた浦原がモソリと足を動かした。きっとまだ暑いのだろう。低体温がセオリーな男は夏の茹だる様な暑さに滅法弱い。
うつ伏せ状態で枕下に手を入れ、片足は布団から食み出て素肌を見せていた。均等に筋肉が付き、無駄な贅肉の無い綺麗な足。浦原の踝が一護のお気に入りだ。いつかあの場所に薔薇の華を彫ってやりたい。今は布団で半分以上隠れて見えないが、項から尾てい骨まで浦原の背中一面には蝶が舞い、百合の花が居座っている。仰々しい程、美しくも繊細な和彫り。こと細かいそのアートは一護には真似出来ない神業で、もう少し出会うのが早ければと少しだけ嫉妬している事は未だ内緒である。
この背中には鷲の翼が似合っていると思うから、肩甲骨をなぞる様に鷲の翼を広げて描いたら飛んで行ってしまうだろうか?ああ、それは嫌だから楔として踝にはやっぱり薔薇では無く鎖を描こう。自身にも施された足首の鎖、きっと育ての親でもある斬月は今の一護と同じ感情で鎖を彫ったのだろうか。一護はクツリと喉元で笑い、布団から出た浦原の肩に小さくキスをした。ちゅむ、悪戯に唇で食む。ドライの効いた室内は徐々に夏の温度を冷ましては浦原の肌に常温をもたらせる。ひんやりとした感触が一護の唇に残った。
脇にある卓上のデジタル時計は早朝6時を示していて、朝に弱い浦原が仕掛けたキスで起きる筈も無く二三度肌の感触を唇で楽しんでからベッドを降りる。
ギっ、小さく唸ったスプリングの音を聞きトタトタと足元に寄ってきたゴールデンレトリバーはお利口に口を閉ざして座りながら尻尾をパタパタと振った。一護はコンの瞳を見て笑い、指先を唇へと持って行きまだ起こさないでとウィンクして見せる。
食卓でもあるヴィンセントテーブルの上には薔薇の花束と新しい灰皿がギフトボックスから取り出されて置かれている。昨晩貰ったジッポと灰皿は同じ銀色で小さくブランドのマークとロゴが彫られている至ってシンプルなデザインだった。
フ、射し込む光に照らされシルバーが光ったのを見て口角を上げた。


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