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□■Katsuragi×Other List
(Kt×H)悪戯なキスの記憶

書類を手伝うお礼にと、私はカツラギ大佐に―


キスされた。















あの後、自分じゃ手に負えない箇所を全て手伝ってもらい、何とか無事案件が通った。
晴れて無事ブラックホークにとっても良い流れが一つ出来た…わけだけども私の心は晴れずにいた。
大佐の事を考えると、どうにもあのお礼の件を思い出してしまい 勝手に意識してしまう。


かくいうカツラギ大佐本人はというと、流石大佐…あるいは私より遥かに大人というべきなのでしょう。

日々と変わらぬ状態で、毎日を過ごしているのです。















今日は作業が遅くなると朝から踏んで動いていたが、結局夜11時近くを回りそうになると段取りがついた時点で、先にクロユリ様を寝かせてから作業の続きに戻った。


まだ執務室にアヤナミ様とカツラギ大佐が残っている。


30分程、席をはずして クロユリ様を寝かしつけた。
クロユリ様は相当疲れていたらしく、お風呂にも入らず、今日はすんなり着替えてベッドにもぐりこんだ。


そうして執務室に戻ると そこにはカツラギ大佐のみが残っていた。


「…大佐、アヤナミ様は?」

「ああ、アヤナミ様はもう上がって頂きました。昨日もほとんど寝ていなかったので。」

相槌を打ちながら状況を聞いたが、不意に先日のキスの記憶がよぎり 僅かに不安な気持ちがよぎった。

カツラギ大佐本人はというと トントン、と手元の書類を束ねて、アヤナミ様が本日こなしたであろう書類を丁寧に並べていく。

提出すべき各部署へと選り分けているのだろう。

見るとコナツさんの分まで束になっているから、選り分けるだけでもかなりの量だった。

サインが出来るもの、できないもの混ぜこぜで全て押しつけるのだから、相当上層部はブラックホークが嫌いらしい。

これが自分より一回りも年を取った者がすることか、と 年を取りたいとさえ思わない。

全ての年上の方には大変失礼な話だけども、この押しつけようは、傍から見ていても陰湿過ぎて辟易としていまうのです。




「こちらももう少しで終わりますから、お手伝い致しましょうか?」


残り僅かといっても、軽く二十枚はあるが それでもこの束の整理よりは遥かに速い。

とはいえ、先日のキスの件もあり いつものように手伝うと申し出ることは、少しばかり勇気が必要な気持ちに駆られた。


しかし、そんな私の混乱している感情などお構いなしで。いつも通りの調子で「お願いします」とにっこり笑顔で言われて 私もつられる様に微笑んだ。

カツラギ大佐の笑顔を見たら、仕事のもやもやと一緒に抱いていた先日からの不安も、ゆっくりと晴れていく気配を感じた。



私は、心の何処かで距離を置かれる不安を抱いていたのだろうか?

多分それもあるし、何とも答えが出てはこないが。



とにかく、単純な事だけれども。

嫌われていないなという確信だけは得た気がした。





そして私は自席へと戻ると、作業に取り掛かりはじめた。

そして、書類に目を通しながらこっそりと自分に背を向けて黙々と書類を選り分けているカツラギ大佐を盗み見た。

別段嫌そうな素振りも 無理に片付けようとする雰囲気もない。

嫌われてないなら、良しとしよう・と晴れやかな気持で作業に臨んだが、次は全く違う気持ちがもやもやと湧き上がる。








嫌われていない、と仮定して…。

それでは好意を持たれているということなのだろうか?










「………ぁ……」



頭の中に「好意」という意外な単語が浮かんだせいで、一つ書類を書き損じた。


大した物ではないが、明日これだけやり直しだ。
となると、これからこなすべき書類は必然的に明日となった。
ミスをしてはならない書類で、書き損じるというミスはあまりに初歩的すぎる。しかし、悔やんでも仕方のないレベルだし、もう一度もらうしか対処の仕様もなかった。


「どうしました?」

不意に上げた声に、大佐が何事が起きたのかときょとんとしている。

「いえ、最後の書類でしたが 初めっから思い切り書き損じてしまって。明日また朝一にやり直しです。」

思わず声をあげてしまったことに、恥ずかしくなって 誤魔化すように照れ笑いを浮かべた。

「まぁ、明日でいいものなら いつでもいいものですね。」

ふんわりと頬笑み返されて、照れ笑いを浮かべていた自分自身も自然といつもの調子へと戻る。

「はい。それじゃあ そちらを手伝いますね。」

「ええ、お願いします。」


カツラギ大佐の隣に並ぶと、残りの書類を選り分け始めた。

済ました書類は、あらかた選り分けられているので最終確認程度。

問題はまだ未処理の書類で、済ますべきものと、済まさなくて良いものを選り分ける必要がある。

時にコナツがこなす書類は、たまに済まさなくて良いものも済ましているから済ました書類も一緒にチェックし、僅かながら彼より一歩先をいく先輩として、次回からはこなさなくていいと伝えてあげなくてはならない。

コナツの上司であるヒュウガ少佐が、もう少しそういうのも教えてあげたらいいのに…と思うけれど それはそれぞれの上司のスタンスであるし、一介のべグライターが口を出すべき範疇ではない…とも思う。

自分の出来る範囲内でのフォロー。

これが一番角を立てず分を弁えた範囲だろう…と結論付けてもいる。
周囲もとりたてて特に言わないのだから、多分これでいいんだろう。





二人で黙々と手に取った書類を次々と手際よく並べていき、約小一時間ほどで全ての書類を選り分けた。

それでも二人で小一時間だとするなら 一人だと軽く0時を回ったに違いない。

あとはこの書類を、明日部署ごとに届けるだけになる。



「何とか、日付が変わる前に終わりましたねぇー」

「えぇ、本当にありがとうございます。」

「それでは終わりましょうか。ここは私が片付けておきますので大佐も上がってください。」



使い終わったクリップや、未処理の書類を私は少しずつ片付け始めた。
細々と散らかったクリップを拾い集め、所定の位置へと仕舞い始めるとその後の返事もなく、不意に大佐と自分との距離が近づいた。

正しくは、大佐が距離を詰めてきたのだ。

自分の後ろに立たれた距離が思いのほか近くて、忘れていたあの事を思い出してしまった。

その途端、思考だけが先にどんどん混乱する。

「…ハルセ…」


カツラギ大佐がいつもとは少し感覚の違う、やけに落ち着いた声で話しかけてくる。

その雰囲気に圧されて、言い知れぬ緊張感が襲う。

「…はい、カツラギ大佐」


緊張のせいか、いつもと同じ返事を返しただけなのに 自然と声が上擦った。

近距離のせいで、カツラギ大佐がつけている香水が僅かに匂う。普段すれ違う時に嗅ぐ香りだけど、こうして近距離で匂えば 改めてその近さを意識して緊張してくるのがわかる。


「…ハルセ?」


頭の整理がついていないけど、言葉を繋がねば空気が持たない。

言葉を紡がねばならない事と、カツラギ大佐からの香水の匂いが、私の思考をグルグルと混乱させていく。


「…はい」




「仕舞うべきクリップが、全部グチャグチャですよ?」


「……へ?」



クリップがグチャグチャという、予想だにしない答えに自分の手元を見た。
サイズで綺麗に分けられているクリップ達が、混乱した思考によって 無作為に仕舞いこまれている。
そして自分の手元を見直せば、今まさに大きなクリップを小さなクリップ達と共に仕舞いこもうとしているのだ。


「うぁぁあ、ぼーっとしてました!綺麗に仕舞いますね…!」


近距離で見つめられる気配を感じたけど、クリップの方に視線を落として 忙しなく文房具を片付け始めた。
そしてカツラギ大佐の方には、全く振り返らなかった。

お先にあがってくださいと声をかけたくせに…

頭の中が混乱していたとはいえ、やる事がむちゃくちゃな自分の行動に、余計に焦りを生みだす結果となった。
目の前で変な失態を見せて、絶対に呆れられている…これはもう、そう思わざるを得ない。



僅かな沈黙が、重たく流れた。














しかしその重たく流れた沈黙は、カツラギ大佐が笑い始める事で壊された…。




「あの………カツラギ大佐?」

きっと私は情けない顔をしていたに違いない。


カツラギ大佐に振り返ると、大佐は私の顔をみて 余計にクスクスと笑いを止めなくなった。

笑いだす大佐についていけなくて、今までの妙な緊張感の解放と、目の前で笑いだす大佐に私は目を白黒させた。

そして、ひとしきり笑い終えるとカツラギ大佐は目尻の涙を拭いながら、すいません・と謝罪する。
謝られた意味がわからずにぽかんとした表情で首を傾げると、カツラギ大佐は困ったような表情で笑いかけた。


「ハルセ………顔が真っ赤ですよ?そんなに緊張しなくても」


そう言うと、カツラギ大佐は私から距離を取って離れた。指摘されて、慌てて私の表情を隠したがもう遅い。


「これ以上苛めるのは止めますね」



そう言うと大佐は「ハルセの言葉に甘えて、先に上がります。」と言い残して執務室から退室した。

そして後には、「悪戯なキスの記憶」に混乱した私だけが執務室に取り残された。





END


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