□■Katsuragi×Other List
(Kt×Kr)おひさまのタオル
空は雲一つなく、薄く水色の絵の具を流し込んだような色をしていた。
清々しいほどの快晴である。夏が過ぎ秋も深まった最近では、珍しい昼寝日和だ。
クロユリはホーブルグ要塞の中にある、ブラックホークの人間が自由に出入りを許可された一画を訪れていた。
そこは開けた場所で、他の部署の人間は寄り付かないので、共同の中庭などに行くと露骨に怯えられる黒法術の使い手であってもくつろぐことができる。
日当たりも良好、なぜこのような場所が鼻つまみ者のブラックホークの敷地であるのか、一説には、会議の際に「空が見えないと誰でもいいから人を斬りたくなっちゃうんだよね☆」などとヒュウガが発言したために慌てて敷地に組み込まれたとあるが、真偽の程は定かでない。
とにかくここはブラックホークの人間しか来ない場所であり、今は、クロユリよりも先に、一人の軍人が佇んでいた。
「カツラギ大佐」
「、おや、あなたがここに来るのは珍しいですね」
「うん。たまにはいいかなって思ってさ」
クロユリは笑顔を浮かべながらカツラギの横に立つ。視線の先には大小さまざまないくらかのタオルがはためいている。
いつからか、ブラックホークが日常使うタオルは、洗濯から乾かして取り込むところまで、全てカツラギが管理することになっていた。
ちなみにところどころに布巾が混ざっていたりするのはご愛敬である。
クロユリが探しに来たのは自分のタオルだ。
ブラックホークで普段使用されているタオルは、特に誰のタオル、と決められているわけではないのだが、クロユリのものだけは専用になっている。
きっかけが何だったかは思い出せないが、クロユリが自分のタオルを持つとなったときに、
『―――何か刺繍をしましょうか?』
そう、カツラギが聞いたのだ。
『刺繍?』
『はい。どれも同じようなタオルなので、洗濯してしまうとどれが自分のものかわからないでしょう。お好きな動物など、希望があれば伺いますよ』
『……じゃあ』
動物ではないが。
これでもできる?とクロユリは、自らの前髪を留めるピン留めを指し示した。
『ドクロ、ですか?』
さすがにその答えは予想しなかったようで、カツラギが確かめるように繰り返す。
クロユリが首肯すると、わかりました、とカツラギは頷いた。
『やってみましょう。なるべく早く完成させて渡しますね』
広く広く、吸い込まれてしまいそうな青空にそのときの笑顔を思い出して、クロユリはゆるやかにはためくタオルの群れに視線を向ける。
「そろそろ乾いたかなあ」
そうしてクロユリが独り言のように呟くと、カツラギは洗濯ばさみを外してタオルをとり、「どうぞ」とクロユリに渡した。
「もう乾いていますよ。今日はずいぶん良い天気ですから」
優しい微笑に促されるようにそのタオルを受け取って、クロユリは幸福な笑顔を返した。
手触りの良さを確かめるように両手でつかんで、顔を埋めるようにして思い切り息を吸い込む。
ドクロが刺繍されたタオルは太陽にあたためられて柔らかく、しあわせのにおいがした。
END
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