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□■katsuragi×Ayanami List
無粋

シュルリ。


シャツの袖に手を通す音が背後でする。
先ほどまでの甘い・・・甘いと感じたい時間を共有していた相手とは思えない程の無言の終焉。
その空間には見詰め合う視線も、情事を終えた愛しい身体を労われる様な腕も拒絶されている。華奢な背中を振り返ると、孤高な彼を表現するかのような佇まいがそこにある。


腕を伸ばして抱きしめることも出来た。


『愛している』と言の葉に載せて告げることも出来た。
もう一度と快楽へ落とすことも出来た。


それを出来ないのは・・・あなたに捕らわれすぎているからなのか・・・。


二人同時に欲望を吐き出して、整わない呼吸のまま上にいる自分の身体を押しのける。ふらつく身体が浴室へと消え、この部屋を訪れた時と寸部違わぬまま出て行く。


何も身に纏わず抱きしめあった名残を惜しむかのようにベッドに腰かけたままの自分はなんと女々しいことか。
この部屋を出て行く背中を抱きしめたいと、自分だけの彼だと、先ほどまでの行為に意味があるのだと、自分は彼を・・・アヤナミを愛しているのだと・・・何度彼に告げたかったか。


今では彼に告げたいと願っていた自分が・・・忌まわしい。


責めるべきはこの自分であって、アヤナミではない。


この繰り返される情事に意味は無い。


アヤナミに何かを告げ、求めることは・・・正に無粋。





















まともな思考の持ち主であるならば、この様な行為は無駄だと判断するだろう。


何かを生むわけでも、約束があるわけでも・・・互いの感情すら告げることが出来ないままの情事。


うっすらと汗が滲む背中を抱きしめる事は最中にのみ許される。熱い口付けを受ける事も、欲望が滲んだ双眸を見つめることも・・・。
彼が与える全てが愛おしい。
狂いそうになる程の快楽の中で、思わず口にしてしまいそうになってしまう言葉。


『愛している・・・カツラギ』


告げたからといって何か変わるのだろうか。
ああ、この腕が自分から離れていくという変化はあるだろう。
それは耐えられない。
偽りの中でもいい。
この腕が、唇が、身体が。


欲しくて堪らない。


心を手に入れるとはなんと強欲な事か。


それならば。
偽りの行為を求めていくのならば。


心が欲しいと叫んでしまう前に何も言わずに立ち去ろう。
振り返らず、この部屋を訪れた気持ちのままで。
情事で絆された感情を叫んでしまう前に。


カツラギに愛していると告げるのは・・・正に無粋。










偽りでもいい、この身体が繋がっているのならば。





END


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あきゅろす。
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